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『投資バカの思考法』著者 藤野英人氏インタビュー(前編)

なぜ、バブルは起きたのか。投資ファンドトップが語る、国民性と株価の関係

2015/10/16
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。隔週金曜日は、話題の新刊著者インタビューを、前後編に分けて掲載する。
株価が乱高下する昨今、「やはり投資は怖い」と考える日本人も多いだろう。そんな中、『投資バカの思考法』を著した藤野英人氏は、企業価値に着目したうえで、伸びている会社に着実に投資する重要性を強調する。著者が25年間のファンドマネージャー生活を経て気づいた、「お金」「投資」の本質とは。短期の株価変動に一喜一憂しないためにも、今こそ読みたい1冊だ。

投資とは、自分のエネルギーを投じて行う行為

──今回出版された『投資バカの思考法』では、25年間のファンドマネージャー生活で学んだ、「投資」や「お金」の本質について解説しています。藤野さんは投資を、どのようなものだと捉えていますか。

藤野:多くの人は投資をギャンブルだと考えています。自分のお金を投じて、運が良ければ儲かるし、運が悪ければ損をする、と。

そういう側面はありますが、根本的に言えば、知恵、情熱、お金、ノウハウなどを投じてリスクを取り、未来からリターンをいただくことだと思います。お金の量が変動すること自体を悪だと考える人も多いですが、投資とはもっと、人間のエネルギーを投じて行う素敵な行為なんです。

もちろん、すぐにリターンが返ってくることはないですが、長期的に言えば、会社の利益と株価の動きはぴったり一致します。

利益が出ているということは、その会社の商品やサービスが社会的に受け入れられ、利用者の支持を集めているということです。そうした会社に投資することは、世の中のためにもなるし、人を信じることにもつながる。

このような、投資の本質論に迫ってみたい、というのが本書を執筆した動機です。

根深いデフレマインド

──一般的に、なぜ日本人は、投資のリスクを嫌い、貯蓄を好む傾向にあるのですか。

この20年間、デフレ経済だったことが大きい。デフレの一番の問題点は、現金しか信用できなくなることです。何に投資してもうまくいかないうえに、物価が下がるので、資産を現金で持つことが正解となる。リスクの回避や節約が善とされ、日本人は何にも挑戦しなくなってしまったのです。

さらに言えば、こうした風潮は、「挑戦者」に対して冷たい社会をつくり出しました。よく、自分の夢を語る人のことを「意識高い系」といって揶揄しますよね。結果、ますます積極的に挑戦する人が少なくなった。投資家というチャレンジをする人に対して、尊敬する考えも薄い。

ただの経済現象として始まったデフレが、生き方にまで影響するようになったのです。

本書でも触れていますが、日本人は2種類に分けられます。1つは「希望最大化戦略」をとる人たち。希望最大化戦略というのは、挑戦をポジティブに捉え、失敗しても必ずプラスになると信じて、新たな行動に移すことです。残念ながら今の日本には、この種類の人が少ない。

もう1つは「失望最小化戦略」。未来に対して暗い見通しを持ち、新しいことへの挑戦に消極的な人たちです。残念なことに、日本全体はこちらの方が多数で、その割合は年々増えている気がします。

だからこそ、昨年10月に2回目の「黒田バズーカ」が発動された際、黒田東彦・日銀総裁は「デフレマインドを払拭したい」と理由を述べたわけです。ただ、「節約が善」という考え方は形状記憶合金みたいに染み込んでいるので、せっかく金融緩和でムードを盛り上げても、ちょっとでも不安なことがあれば、また節約志向に戻ってしまう。

「震災が起きたから、節約する」「消費税が上がるから、節約する」。揚げ句には「安保法案が通るから、節約する」といった具合に(笑)。ほとんど無関係の事件も、節約志向につながる。

別にお金を使うことが素晴らしいわけではありません。ただ、節約志向が強化され、挑戦が否定されれば、少子高齢社会の日本はどうやって経済発展するのか。

こういう話を講演会ですると、「日本がダメになったのは政治家のせいだ」「いや、中国人のせいだ」という反応が返ってくることも多い。日本の国力低下を、他人のせいにしているうちは楽です。しかし、自分たちが行動しなければ、決して状況はよくならない。そのヒントとなるのが、投資家的な生き方なのです。

──投資家的な生き方とは、具体的にどういうものですか。

主体性をもって物事に取り組んだり、リスクをとってお金を張る、いわば自分の行動の「オーナーになる」ことです。

「オーナーになる」というのは、別に多数の株を保有して会社を支配することではありません。思うようにいかないときに、世の中のせいにするのではなく、すべて自分事として捉える。重要なのはそれだけです。

藤野英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者) 1966年、富山県生まれ。90年、早稲田大学法学部卒。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーデン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業、CIOに就任。現在運用している「ひふみ投信」は、4年連続R&Iファンド大賞を受賞。著書に、『日本株は、バブルではない』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 (星海社新書)など。

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)
1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学法学部卒。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーデン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業、CIOに就任。現在運用している「ひふみ投信」は、4年連続R&Iファンド大賞を受賞。著書に、『日本株は、バブルではない』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 (星海社新書)など

同質的な人間が多いから、バブルが起きた

──節約志向がまん延する背景にはデフレ経済があるとのお考えですが、仮にバブル景気のような経済状態が続いていたら、日本人のメンタリティは変わっていたと思いますか。

そうですね。少なくともここまで投資を忌避する状態にはならなかったでしょう。

ただ、バブルの功罪についていえば、罪のほうが大きい。当時、日本の会社は実力以上に評価されていました。たとえばPER(株価収益率)を見ると、世界の平均が12倍ほどだったのに対して、日本株は60〜80倍に膨れ上がっていた。それで日経平均株価が4万円まで行ったのです。

日本株が評価されたことで、景気も急激に良くなりました。ただ、必要以上の好景気は、反動も大きい。結果として株価の急降下につながり、それが長いデフレ時代を招いたのです。

もしあのとき、日本株が適切に評価されていれば、日経平均は8000円程度にとどまっていたでしょう。現在は1万8000〜2万円ほどだから、20年で2倍以上に伸びたことになり、当時から投資していた人は軒並み儲けることができた。誰も損をしなければ、投資や挑戦がもっとポジティブに捉えられたはずです。

では、なぜバブルが起きてしまったのか。それは、主体性に欠け、個として判断できなかった人たちが、周囲に付和雷同しながら株を売り買いしていたからです。

外国の株式市場には、さまざまな人種やバックグラウンドの人がいます。MBAを保持し、ロジカルに投資する人もいれば、高卒叩き上げで勘と経験を頼りにする人もいる。中にはブードゥー教の占いに基づいて投資する人もいる。そのため、株式があらゆる観点で評価され、比較的穏やかな価格変動になります。

でも、日本の場合、同じようなキャラクターの人たちが、一斉に同じような行動をとるので、価格がいきなり上がったり、下がったりする。超バブルになるのも、超デフレになるのも、根本的には、自分の意思を持たないで同一的に行動する人たちが原因です。

これを防ぐためには、あらゆるタイプの人を尊重し、少数派の考え方を否定しない社会にしなければなりません。

(聞き手:野村高文、構成:野村高文、木井萌美、撮影:福田俊介)
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