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Decode Apps – NonGame編(第4回)

「呼べば遊びにくるユーザーに手を差し伸べる」 競合サービス多数のAWAの戦略

2015/10/16
AppAnnie主催の「Decode Apps:B2Cでトップを目指すアプリ事業者様向けセミナー」が開催された。今回は、「事業会社のモバイルアプリ参入」をテーマに、10代に大人気の10秒動画コミュニティ「MixChannel」より福山誠氏、名刺管理アプリ「Eight」より塩見賢治氏、音楽配信サービス「AWA」より小野哲太郎氏が登壇。イベント後半には各者とNewsPicks編集長の佐々木紀彦とのパネルディスカッションも開催。アプリの将来について活発な議論を繰り広げた。イベントの内容を全4回にわたってリポートする。
第1回:レッドオーシャンに挑む新興アプリ、AWA、MixChannel、Sansan開発の思想とは
第2回:日本ならではのビジネスSNSをつくるには? Sansanが挑む名刺管理改革
第3回:10代から圧倒的支持 MixChannelヒットの理由は「タイミング」と「コンテンツ中心」のサービス設計

新興アプリAWA、MixChannelの競合とは

佐々木:AWAの場合、DAUを上げるために工夫していることはありますか。

小野:僕らの音楽を聴くサービスの難しいところは、1日の中に音楽を聴けないタイミングがたくさんあることです。アプリをインストールしてもらうために、どれだけ広告やプロモーションを頑張っても、ユーザーが音楽を聴けないタイミングで接触すると、「あとでまた開こう」と思われて、そのまま存在を忘れられてしまいます。競合に関して言えば、耳を奪われちゃうものはすべて競合ですね。

1日のうち、朝6時から7時ぐらいと、9時から10時ぐらい、4時から5時ぐらい、10時ぐらい、と4つの時間帯にアクティブ率が高いのですが、やはり学生が登校するとき、社会人が出社するとき、学生が帰るとき、社会人が帰るときに利用されることが多いことがわかっています。電車などでスマホで別のアプリを見ながらAWAで音楽を聴いているという人も多いのではないでしょうか。

スマホゲームについては、音にこだわってないものであれば、AWAを再生しながらやってもらえるんですが、音質の高いスマホRPGだと音がバッティングしてしまうので、AWAが切られてしまうこともあると思います。

佐々木:ラジオは完全にライバルですね?

小野:そうですね。YouTubeもライバルです。

佐々木:MixChannelの場合、ユーザーはどういう時間帯にサービスを利用しているのですか? 

福山:MixChannelはユーザーにテレビと同じような感覚で見られているので、夜の6時から11時の利用が多いですね。「テレビがつまらないからMixChannel見るか」というふうに、自分の部屋でアプリを開いていることが多いようです。

佐々木:完全にテレビの時間を食ってるんですね。

福山:そうですね。食っているかもしれない。でも、個人的にはテレビはコンテンツの王様だと思っていますから、逆にMixChannelとコラボレーションしてテレビを盛り上げるようなことができないのか、ということを、テレビ局と一緒に考えていたりしていますよ。

「恋愛」などといったテーマを軸に、一緒に番組をつくったりするかもしれませんし、ユーザーがコンテンツをつくって、さらに視聴者がそのコンテンツをまねする内容になるかもしれない。

佐々木:MixChannelがテレビ局のコンテンツ製作に関わるほかにも、テレビ局のコンテンツがMixChannelをプラットフォームにする、ということは今後起こるのでしょうか。

福山:ユーザーに支持されるのであれば、プロがつくるコンテンツをMixChannelに載せていく未来もあり得ると思います。

ただ、MixChannelの現状の特徴は10代向けというところです。実は、10代向けに刺さるコンテンツというのをつくることってかなり難しいと思っています。ですので、今後プロが制作するコンテンツが増えていった場合、コミュニティの中にいるユーザーにどう歩み寄るかが、本質的な問題になって来ると思っております。

10代に特化した市場はおいしい MixChannelの広告ビジネスモデルとは

佐々木:「10代向けという点が最大の強み」とのことですが、どういった広告が入るのか、ビジネスモデルが気になります。

福山:10代はもちろん購買力がないので、広告単価は決して高くはないのですが、10代が1箇所に集まる、10代だけにプロモーションできるような場はほとんど他にないんですよね。たとえば、高校生とか中学生とかの若年層をターゲティングできるメディアは実はあまりない。

しかし、企業側に10代に対するブランドコミュニケーションのニーズはあるので、「10代が集まっている場所に、ターゲティングをして広告を出したい」とメディアプランニングしていくと、最終的にMixChannelくらいしか選択肢がない、という状態になることもあります。ですので、メディアとしては、非常に広告ビジネスがしやすいです。

佐々木:具体的にどういう広告が入りやすいんですか?

福山:飲料メーカーや食品メーカーさんが多いですね。3通りくらいの広告メニューを用意し、4月から開始したのですが、売り上げも単月で5000万円クラスになっております。

佐々木:すごいですね。今は引く手あまた、という感じなのでしょうか? 

福山:そうですね。かなり引き合いは強いです。

佐々木:先ほどMixChannelは若者にとって、テレビのチャンネルのうちの一つとして捉えられているとおっしゃっていましたが、DAUはどのくらいですか?

福山:MAU分のDAUという定義を使うと、30%くらいです。

LINEなど、日常的に使うコミュニケーションサービスはDAUがかなり高くなると思いますが、MixChannelの場合は、週に1回程度の頻度で使うユーザーが多いです。ですから、DAUよりは、ウィークリーアクティブユーザー率を追っています。

単純にアプリを開かせる、というのは、プッシュ通知やログインインセンなどのテクニックを使えばいくらでもできると思うのですが、どちらかというと、MixChannel内でユーザーがつくったトレンドがどれだけTwitterや LINEでバズって、より広く認知させていく、そうやってアクティブ率を上げていきたいですね。

小手先のテクニックでアプリを開かせたくはない

佐々木:AWAの小野さんにもアクティブ率ユーザー率をいかにして引き上げているかを伺いたいのですが。

小野:福山さんがおっしゃったとおり、僕らもテクニックに頼ってユーザーにアプリを開かせることよりも、本質的に遊びに来たくて遊びに来ているユーザーさんを増やすことに集中しています。

皆さんいろいろなアプリを入れられていると思うので、プッシュ通知なども来ると思うんですが、だいたいはもうゴミのような情報。見てもまず開かないし、通知が来すぎて「このアプリ、アンインストールしてやろう」という経験がある人も多いと思うんですよ。

そうならないよう、ユーザーが求めている情報をカスタマイズして届けることにこだわっています。その人がお気に入りに登録しているアーティストの新曲が入ったら教えてあげたり、その人がつくったプレイリストがランキングに入ったら教えてあげる。本当にその人にとって価値のある情報を届けるというのは、当たり前のことです。

AWAが嫌いなわけではなくて、AWAのことを忘れてしまっていて、声をかけたらばまた遊びに来てくれるようなユーザーに、細かく手を差し伸べる運用をきちんとやっていきたいなと思っています。

AWAというサービスのことも忘れれば、聴きたかった音楽があることも忘れられてしまうので、どれだけ毎日来てもらえるか、どれだけ毎回新しい音楽と出会わせ、戻ってきてもらうかが本丸のやり方だと思っています。

佐々木:プッシュ通知もカスタマイズしていると。MixChannelはマスメディアで、AWAはパーソナルメディア、というような思想の違いを感じました。

AWAのUIが英語だらけな理由

佐々木:最後に、なんでAWAはこんなに英語ばかりなんですか? なんか、見にくくないですか?

小野:えー!

(一同、笑)

佐々木:なんでこんなことを言ってみたかというと、LINE の生みの親である舛田淳さんに話を伺ったとき、「マスを狙うために、あえてダサくすることがある」という話をされていたんですよ。AWAは格好良すぎませんか?

小野:あっ、これ「ありがとうございます」でいいのかな?

(一同、笑)

小野:これは会長の松浦、社長の藤田や私の思想なのですが、音楽って没入して体験するコンテンツだと思っているんですよね。

たとえば、食事でも、すごくオシャレなレストランで食べるから気分が高揚する、というようなことがあると思います。それと同じで、「いい感じの空間で聴くことによって、その音楽がいつもと違う音色で聴こえるのでは」「ダサい場所で音楽を聴かせたくない」、そういった僕らの思想が反映されたかたちです。

佐々木:そうしたら使いやすさよりも、雰囲気を重視しているんですね?

小野:こんなことを言ったら怒られそうですが、他社の定額制音楽アプリと比べて絶対使いやすい自信はあります。

ボタンをタップせずに、ジェスチャーですべて操作できたり、階層構造やインタラクションに絶対矛盾がないようなつくりにしています。またVelocityといって、指の動きの速度に合わせてコンテンツが動く仕様になっています。ユーザーも使い始めの頃は恐る恐るゆっくり動かすと思うのですが、慣れてくると指の動きも早くなる。そのスピードに合わせてアプリも動きます。こういった細かい開発の積み重ねが本当のユーザービリティにつながると思っています。

佐々木:なるほど、納得できます。皆さん、今日はありがとうございました。

(構成:ケイヒル・エミ)