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親善試合(10月13日)イラン 1-1 日本

日本代表はコンセプトとセレクション、どちらを優先すべきか

2015/10/14

まるでペルシアの戦士と、サムライの異種格闘技のような激戦だった。

10月13日、テヘランで行われたイラン対日本は、現地時間17時開始という平日にはそぐわないキックオフだったため、9万人収容のうち2割ほどしか埋まらず、視覚的にはさびしい状況での試合となった。

だが、メインスタンドとバックスタンドを埋めたイラン人たちの声援は、欧州の数万人のスタジアムにも劣らないものだった。太鼓やラッパで音頭を取るファンが至る所で現われ、両手を頭の上にし左右に振りながら手拍子を合わせる。さながらコンサートだ。

同点弾をもたらした吉田と本田の連携

その思いが伝染するかのように、ピッチ内も熱量で満ちていた。

イランの選手は前を向いたら迷わずドリブルを仕掛け、ボールを失うことを恐れない。まるでドリブルの発表会のようだ。特に元ボルフスブルクのデジャガがごりごりと中央に入り込み、かつてチームメイトだった長谷部誠を何度も置き去りにした。

そんなペルシアらしい個人技が、イランに先制点をもたらす。

前半47分、ペナルティエリア内でトラビが急ストップすると、吉田麻也は吸い込まれるかのように相手を後方から倒してしまった。デジャガのPKを西川周作がストップしたが、跳ね返りをトラビに押し込まれてしまった。

一方、日本も負けてない。個人の発想のつながりで試合を振り出しに戻す。

得点までの道筋をつくったのは、吉田と本田圭佑だった。

本田がDFラインの裏に飛び出す素振りを見せると、吉田がそれを見逃さず前線にロングパス。一発で裏を取ることに成功し、深い位置でスローインを獲得。そのスローインの流れから本田が左足でクロスを上げ、武藤嘉紀が相手GKと交錯しながら同点ゴールを押し込んだ。

本田圭佑のクロスを武藤嘉紀がGKと交錯しながら押し込み、同点ゴールを決めた(写真:Amin M. Jamali/Getty Images)

本田圭佑のクロスを武藤嘉紀がGKと交錯しながら押し込み、同点ゴールを決めた(写真:Amin M. Jamali/Getty Images)

そこからは両者が前のめりになってコンパクトさを失い、ノーガードのような打ち合いになった。行ったり来たりのオープンな展開で、どちらにゴールが決まってもおかしくない展開だった。

「結果としては妥当だったと思う」

試合後、奇しくもハリルホジッチ監督と本田が同じコメントを口にした。アジアを代表する両国にふさわしい、フレンドリーという言葉がそぐわない、意地がぶつかり合った、熱く、泥臭い、親善試合だった。

再び起こった「責任逃れ」のパスまわし

しかし──。日本の目標はアジアで一番になることではなく、W杯で上位に進出することである。

その視点に立つと、フットボールの魅力には満ちていながらも、悪い意味でアジアらしい試合になった。

イランの致命的な欠点は、決定力のなさだった。

イランは1トップのアズムンが再三チャンスを得ながら、そのすべてを無駄にした。もしこのロシアリーグでプレーするFWにもう少し正確さがあれば、前半のうちに日本は3失点していてもおかしくなかった。

一方、日本に欠如していたのは、パスの出し手と受け手のシンクロだ。

試合の立ち上がりはイランのパワーに押されて混乱した日本だが、前半の途中からポゼッション率が高まっていった。DFラインとボランチがボールを持っても、イランが取りにこなかったからだ。長谷部や柴崎岳から、いくらでも縦パスや斜めのパスを狙える……はずだった。

だが、前線の選手たちに動きがなく、本田を除いてボールをもらいに来る選手がほとんどいない。武藤も、香川も、宇佐美貴史も、相手の圧力を恐れるかのように、棒立ちの状態が続いた。これでは前線にパスが通るわけがない。

またしても日本は、ブロックをつくった相手を前にフリーズしてしまったのである。

後半になると、ようやく前線の動きが活性化されたが、毎試合のようにハーフタイムで監督の指示を受けないと立て直せないようでは、W杯での躍進は期待できない。

他国をまねする時代は終わった

シリア戦と同じく、なぜイラン戦でも前半を無駄にしてしまったのか。試合後、ミックスゾーンで本田に疑問をぶつけると、日本のエースは「経済」を引き合いに出した。

──前半思い通りに進められず、しかし後半持ち直した。シリア戦と似た展開になったように思う。

「その通りですよね。もちろん相手のレベルが上がったということも関係しているんですが、残念ながら前半のうちに問題を解決することはできなかった。結局、相手の動きが落ち、スペースができてから、攻撃をクリエイトできるような回数が増えた。まったくシリアと同じ課題が残りましたね」

──前回の反省がありながら、どこに原因がある?

「それが今の実力と言ってしまえばそこまでなんですけど、力関係はフィフティーフィフティーだった。妥当な結果だったんじゃないかと思う。むこうにも勝つチャンスがあったし、こっちにも勝つチャンスがあった。

前半課題をクリアできなかった理由としては、こっちが悪かったというよりも、相手が良かった。もっと力を伸ばしていかないといけないし、もっとコレクティブにパワーを発揮していかないといけない。このレベルでの力の発揮の仕方を学ぶべきだと思う。

ここから全員がそれぞれのクラブに帰るんですけど、普段からそういうことを意識して、アウェーでもコンスタントに一定のパフォーマンスをできるようにならなければならない。自分自身も前半にそれができなかったという点は、力不足を感じている」

──アジアカップの敗退から、日本代表として成長が横ばいになって、足踏みしているように思う。アジアカップで得た手応えがつながっていない。

「まず、日本がサッカーのレベルがここ20年で急激に上げてきたことを見落としてはいけない。経済と一緒で、上げれば上げるほど、途中から伸びにくくなる。中国みたいなものですよね。

これはごくごく当たり前に起こりうること。練習試合ではベルギーやオランダとはいい勝負をできるレベルまでホント急激に来たと思うんですよ。まさしく言われたように、(今の日本代表は)横ばいになっている。これは当然のことなんですね。

伸び率は下がりつつも、ちょっとずつでもいいから伸びて行くという中期計画、長期計画が日本のサッカー界全体に求められていると思います。

いろんなことをまねしてここまでレベルが高まってきましたけど、今後は日本がまわりにまねされるような、それってどういうことなの、っていうことをやらなければならない。考え方やアプローチの仕方を、今までと変えていかないといけない時期に来ていると思う。

でも別に、成長がマイナスになっている感じはしてない。いいチームで出ている選手もいれば、これからビッグクラブになるというチームで活躍している選手もいる。そういう選手たちが集まった代表なんですから」

コンセプトとセレクション、どちらを優先すべきか

今までとアプローチを変えなければならない、というのは、まさにブラジルW杯後に本田が「ものさしを変える」と言ったのと同じことだろう。言い換えれば、進むべき新たな道を探している、ということでもある。

しかし、ハリルホジッチが就任してすでに11試合を消化したが、本人が「1年目は何が一番良い方法かを探る」と語るように、まだ監督からは進むべき道は示されていない。

もしかしたらハリルホジッチは状況に応じて戦術を変える「采配型」の監督で、そもそも進むべき道を必要としていないのかもしれない(有名なところではオランダのヒディンクがこのタイプになる)。

そうだとすれば、コンセプトを決めること自体がナンセンスであり、とにかく今はどれだけ闘える駒をそろえられるかが、ハリルホジッチの最重要テーマになる。だからこそ、まだ誰にも特権を与えていないのだろう。

早い段階でコンセプトを決めるべきか、焦らずにセレクションを続けるべきか。停滞期に入った日本代表にとって、どちらが正解かはわからない。

ひとつ間違いなく言えるのは、しばらくの間、選手たちは泥臭い足踏みに耐えなければならないということだ。