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結局最後は担当者との相性?

【駐在妻は見た・最終回】インドネシアで体験した私の就活

2015/10/11

日本人人材のニーズと、必要な語学力とは?

早いもので、このコラムを担当させていただいて1年強。思い起こせば、初めての海外生活で不慣れなことも多く、環境の変化に四苦八苦し、やけ酒……なんて荒んだ日々を送ったこともありました。

しかし、最近では語学を勉強し、仕事や趣味を追求するうちに、良い出会いにも恵まれ、もはや一生住んでもいいかもと思えるくらい、充実のジャカルタライフを過ごせるようになりました。その原動力のひとつに、このコラムを担当させていただいたことがあったと、今改めて振り返って感じています。

渦中にいるとつい見落としてしまうこと、見逃してしまうこと、大事にしていたのにすっかり忘れていた初心などなどを、このコラムを執筆する時間にいつも、ていねいに見返すことができました。

NewsPicksの編集担当の皆さま、また、ときに優しく、ときに厳しくご意見をくださったピッカーの皆さまのおかげです。この場をお借りして、篤くお礼申し上げます。

さて、最後に皆さまに(わざわざ)ご紹介する話を何にしようかと考えていたのですが、NewsPicksの読者は、さまざまなワーキングスタイルをお持ちの人が多いかなと思いまして、それであれば、「海外の就活事情」にもご興味があるかと思い、今回は、インドネシアで実際に私が体験した就活にまつわる小ネタをご紹介したいと思います。

私ごときがご紹介するのも、面映ゆい(おもはゆい)ところがあるのですが、ここでは披露すべき専門的経歴もない、どちらかというと普通の30代女性(日本で15年程度就労経験あり、語学は初級者レベル)から見た就活事情、ということでご了承いただけましたら幸いです。

まず、私の就活前の仕事事情を簡単にご紹介します。

人材のニーズ

最近もルピア安など、インドネシア経済もなかなか厳しい局面ではありますが、働く人にとっては、まだまだ伸びしろのある面白い土壌、というところに変化はないようです。

去年頃からまた、日系企業ほか日本以外の外国資本の参入も一部増加傾向にあるようで、人材関連会社の担当者いわく「特に経験者、マネージャー、事業所代表をお任せできる人材は不足しています」とのこと……。

特に、現地採用で即戦力になる日本人のニーズは高いようで、私も即日で15社は軽く紹介していただきました。

さらに、こちらでは「年齢に対する制限の概念」がありません。そのJOBに対する実績と経験が十分であれば、年齢・性別は不問です。

日本でも、昨今はさまざまな面でワークスタイルもフレキシブルになっていますが、それでも(たとえば私のような)30代後半~40代の女性が転職・再就職することには、非常に高い壁があるのが現実です。

そういった意味で、今回この土地で就活をして仕事をする機会をいただけたことは、これからの自分のキャリアを考えるうえで選択肢が増えたと感じています。

語学レベルはどの程度必要?

業種・職種、ポジションによりますが、英語が業務上支障のないレベルであることは、まずはベースとして必要なスキルといったところでしょうか。

もちろん、多くはインドネシア人と一緒に仕事をしますので、特にドメスティック系企業や工場などを所有するメーカーに関しては、インドネシア語でコミュニケーションが取れるにこしたことはありません。

ただ、インドネシア人のホワイトカラー系オフィスワーカーの多くは、英語を流ちょうに操ることができるため、社内では英語ができればなんの支障もない……という雰囲気が強い印象です。

インドネシア人の大学生の英語レベルも、平均的な日本人よりもかなり高く、昔から言われていますが、日本の英語学習って一体なんだったんやろか……と悲しい気持ちになったこともありました。

「海外駐在員」と「現地採用」の違い

「海外駐在員」と「現地採用」について、頻繁に話題になったり、それぞれのヒエラルキーが問題になったりすることもあるので、触れておきます。

海外駐在員とは読んで字のごとく、日本法人より海外拠点に赴任している人のことで、現地採用は現地の日系・外資系・ドメスティック系企業などに直接雇用されている人のことです。海外で会社員として働くという意味では同じですが、給与や待遇はかなり異なります。

業種・職種で異なりますが、ざっくり申し上げると現地採用の給与が20万円のとき、駐在員はさまざまな手当て、住居補助(「月額4000ドルのアパートメント補助」なんていうのもざくざくいらっしゃいます)、保険などを考慮すると、現地採用者の3〜5倍程度の違いがあります。

一方で、職務に対する自由度は、圧倒的に現地採用者が有利です。駐在員はやはり、会社ありきであり、他者の意思が介在している事由が大きく、こちらでの働き方もヘッドオフィスの指示を仰がねばいけないところが大きいですが、現地採用はそもそも個人レベルでの意思決定と責任に負うものです。

平均月収は?

インドネシアの大まかな物価は、日本の「約1/3」。大学新卒者のインドネシア人の1カ月の給料は、日本円にしておよそ3万5000円(約4万ルピア程度)です。

そもそもの職務や責任の幅が異なるのでどうしても格差は生じてしまうのですが、こういった外国人との給与面の格差は、「外国人がわれわれの就業の機会を奪っている」というデモが最近また各地で起こっていることをみても、非常に大きな社会問題と言わざるをえません。

【参考例】インドネシア人(大学卒)と日本人の月収比較
 ※RFCサイトより(現在は以下よりもう少し金額はあがっていると思います)
 ●25歳 インドネシア人:約3~5万円 日本人現地採用:約14~20万円
 ●30歳 インドネシア人:約6~8万円 日本人現地採用:約18~25万円

さてさて、今回の私の就活に関してですが、簡単に申し上げると「経歴+パーソナリティー(=担当者とのフィーリングが合うかどうか)ー語学=ご縁があった会社」というものでした。

4月末に人材関連の会社に登録し、6月末に本格的に就活を開始。その後8月上旬までに日系メーカーと韓国系オーナーのコングロマリット系企業2社からオファーをいただきました。
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2社から内定ゲット

「就活」と一口で言っても、その目的は人それぞれですよね。当地でも「何となく海外で働きたくて」という人から、「研修で来てすっかり気に入って戻ってきた」というこの土地にほれ込んだ会計士まで。はたまた、「シンガポールやマレーシアより少し未開拓、でもエネルギッシュだから」という土地柄に魅力を感じ「キャリアを磨きたい」という意識高い系のスタートアッパー(と言うのか?)まで、本当に千差万別です。

私の知り合いの中でも、アメリカでインドネシア人と学生結婚してそのままジャカルタに移り住んで10年というK子から、ジャカルタの前はタイで二人の子どもを抱えて8年バリバリ働いてたというシングルマザーAなどなど……すごい経歴がわらわらといらっしゃいます。

そういった中にあって、私はどちらかというとゆるい系、そして将来のためにキャリアを磨きたい路線でした。

プライベート面でいうと、ライフスタイルは有難いことに支えてくれている相方がおり、「どうしても生活費が必要」という切羽詰まった背景はありません。そういう意味では、非常に恵まれてはいるのだと思うのですが、とはいえ、

・相方が志半ばで倒れたらどうするのか=生活費のアテは私にも必要
 ・いずれにしても、長期的に自分のワークスタイルを持って楽しみたい
 ・今後どの国にいても、キャリアにブランクがあるのは不幸
 ・何はともあれ、せっかく海外にいるのでこの国の人たちを働いてみたい!

……などのもろもろの理由をミックスしてみて、「そうだ就職しよう!」に至った次第です。ですので、今回の就活で重要視したのは、「海外で就業した経験をつくる」「外国人と外国語を使用する環境で一定の仕事に携わる」という現実的なファーストステップでした。

こちらで、現地採用で働いている女性の友人・知人の多くが口にしますが、いずれ日本に帰国した際の自分の身の振り方を考えると、キャリアを頓挫させず、語学をフルに活用した実績をつくるのがもっとも現実的です。日本では、今でも年齢に対する見方が厳しいこと半端ない中、それを打ち消すほどのJOB Discriptionを自分で描いておくしかありません。

もちろん、「日本にはもう帰りません(同じような待遇を日本では得られないから)」という層も一定数いますが、いずれにしても、現地採用の人の多くは、自分で自分のしりをまくるためのあの手この手を、常に考えています。

そういうのをみるにつけ、まずは、語学スキルが秀でていない私の数少ない選択肢(日本での経歴を生かせる、職種・業種はこだわらない)で経験を積み、次のステップで自分のやりたいところに寄せていこうというざっくりプランを立ててみました。

とはいえ、「英語がそもそもできたら希望に近い職種・業種で最初から勝負できたはず」というのは歯がゆいところではありました。

実際に、紹介案件の中では(感覚値ではありますが)、英語がビジネスレベルであれば、月額プラス500~800ドル、ネイティブであればプラス1万ドル以上の給与を提示してもらえたように感じています。

英語はツールだとよく聞きますし、実際ビジネスシーンでは語学は何とかなっていくもの、という今までの印象もありますが、とはいえ、やはり業務上支障のないレベルで語学が操れるかどうかが、まずは重要な選考基準になることを実感しました。

今回、私がオファーをいただいた業界は、日系のニッチな老舗メーカーと、外資系のオーナーが趣味でやっているような貿易系企業でしたが、職種は前者はマーケティングマネージャーのアシスタント、後者はカスタマーソリューションの責任者というものでしたが、いずれにしても、「日本オフィス、もしくは日本人のクライアントの窓口とそれに付随する職務を一手に担当できる人」という狙いが見え見えのポジションでした。

日系企業の多く、特にメーカーは少数精鋭の駐在員と現地採用者で回しています。その流れでどうしても、ひとりが何役もこなすミッションが割り振られることになり、特にバックオフィス系の総務や人事は、1~数人の担当者で何でもやらざるを得ない……という雰囲気です。

とはいえ、海外で働き慣れしている求職者は、最大限自分に有利になるよう、JOB Discriptionを子細に作成させ、住宅や福利厚生などの面でもガンガン交渉していくため、「聞いてないよ!」という仕事を振られてしまう、という事態には陥らないそうですが、私は体に染みついた「日本流」のようなものからどうしても脱せず、そこまで強気の交渉はできないまま……。

「日系企業だから日本人に甘いだろう、とかそんな考えをもっていたら捨てたほうが良い。そんなの関係なく、現地採用者は自分の待遇や社会保険の面まで、すべて自己責任。己の力で勝ち取っていくしかないし、自分の身は自分で守らなくてはいけない」とは、現地採用で働く友人の多くに、言われた言葉です。

その厳しさは、まさにこれから実際に働く中で身に染みていくのだろうな……と思うのですが、まずは働くという機会を得られたことに感謝し、入社までの時間に語学をブラッシュアップしていこうと思います。

最後になりますが、今回海外で就活してみて、何が一番重視されたのだろうと改めて振り返ってみました。やはり、「担当者(会社)とのファーストインプレッション」なのかな、と思います。「合う・合わない」、ここに尽きるかと……。

それを言っては身も蓋も……とは思うのですが、やはり相手をどう思うか、この人と一緒に仕事したいかどうか、同じ釜の飯を食べられるかどうか。結局は、国や人種は違えど、人ありきの世界。その根本的なところは、どの国でも同じだなと素直に感じています。

「働くことって面白い」──。私は、今までどういった仕事に対してもいつもその思いを持って臨んできました。そういった“好奇心”と“ワクワクした感じ”を、年齢に縛られることなく、ここインドネシアでも忘れずに今度は新たな「働くってコト」を追及していきたいと思います。

またいつの日か、実際に働いてみてビックリみたいな面白ネタを、皆さまにご紹介できる日が来ることを願って……。最後までお読みいただいた皆さま。本当にありがとうございました。またいつの日か!Sampai jumpa lagi!
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<連載「『駐在員妻』は見た!」概要>
ビジネスパーソンなら一度は憧れる海外駐在ポスト。彼らに帯同する妻も、女性から羨望のまなざしで見られがちだ。だが、その内実は? 駐在員妻同士のヒエラルキー構造や面倒な付き合いにへきえき。現地の習慣に適応できずクタクタと、人には言えない苦労が山ほどあるようだ。本連載では、日本からではうかがい知ることのできない「駐妻」の世界を現役の駐在員妻たちが明かしていく。「サウジアラビア」「インドネシア」「ロシア」「ロサンゼルス」のリレーエッセイで、毎週日曜日に掲載予定。今回は「インドネシア駐在員妻」編です。

【本文執筆】 Ms.ムサコ
バブル期を知らない1970年代後半生まれ。
地方都市出身→東京にて10数年企画編集・PRなどの仕事に従事→インドネシア住まい。
語学スキルゼロ&人見知りにもかかわらず、後先考えず外国人に話しかける癖あり。
ゆるゆると日々のおもしろ出来事を収集中。