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【W杯アジア2次予選】 シリア 0-3 日本

日本代表にギラギラした選手がいない。だが、どん底を抜け出しつつある

2015/10/9

依然として日本代表は、暗い霧の中を手探りで進んでいる──。

たとえ中東の地でシリアに3対0で勝利しようとも、下降局面から抜け出せていないことは明らかだった。

特に前半、「勇気」の欠如は深刻だった。

シリアが激しくボールを奪いに来たのに対して、日本の守備陣は躊躇(ちゅうちょ)なく簡単にクリアしていた。残念ながら、イーブンな競り合いになると、体が肉厚なシリアの選手たちに分がある。こぼれ球を拾われ、2次攻撃、3次攻撃を仕掛けられてしまった。

良く言えば「リスク回避」。悪く言えば「臆病」。

監督に言われた役割を無難にこなすだけでは、とてもアジアを代表する選手にはなれない。ザック時代にはあった「新たな時代をつくる」という野心を、ピッチから感じることはできなかった。

ギラギラした選手がいない。

それが今、日本代表が抱える最大の問題点である。

期待値を下げれば、プラス材料はあった

ただし、2014年ブラジルW杯で突きつけられた現実を考えれば、身の丈をわきまえずにギラギラしろというのは無理な注文なのかもしれない。

シリア戦のピッチには、クラブでレギュラーの座をつかめていない選手が4人いた(本田圭佑、長友佑都、吉田麻也、酒井高徳)。そのうち、3人がDFラインに固まっている。ミスを恐れてクリアばかりになっても、同情の余地はある。

日本代表が下降局面にあることを認め、評価の基準を1度リセットして期待値を下げるなら、シリアの猛攻にさらされたときの我慢強さ(選手たちはほとんど慌てていなかった)、後半にうまくPKをもらった岡崎慎司のしたたかさ(まさしくハリルホジッチが会見で求めていた動き)を褒めるべきだろう。

ヨーロッパでプレーする選手が増え、現実を見て野心が小さくまとまる一方で、「したたかさ」が増していることは間違いない。

遠藤不在によるコアの消失

そしてシリア戦では、見逃せない小さな変化があった。

それはピッチ上の幾何学に関係している。

ザッケローニ監督時代、その戦術の核には本田圭佑・長谷部誠・遠藤保仁による三角形があった。通訳の矢野大輔氏の言葉を借りて、ここでは「HHEトライアングル」と呼ぼう。

このトライアングルは、2011年にアジアカップ優勝をもたらし、大きな可能性を感じさせた。だが、次第にマンネリズムに陥り、テコ入れとして2013年11月のベルギー遠征で遠藤保仁が先発から外れてしまう。以降は、山口蛍がレギュラーとなり、そのかたちの真価をW杯で試すことはできなかった。それ以降、日本代表は新たなコアを見い出せていない。

後半に改善された選手の距離感

ところがシリア戦では、ついに新たな幾何学がピッチに描かれようとしていた。

きっかけはハーフタイムに、ハリルホジッチ監督がこう指示したことだった。

「選手の距離感が遠い。(右の)本田と(左の)原口はもっと中に入れ」

試合後、本田はこう解説した。

「後半に相手がバテたという分析もできると思うんですけど、こっちも明らかに前半と後半ではやり方を変えた」

「監督の指示で、後半は両サイドにいる原口と僕が中に絞った。縦パスを当てる的を、より増やしたということ。それによって、前半にはなかった蛍、僕、(香川)真司といったパスのつなぎを出せるようになった」

「もちろんそれを前半にやっても、相手が元気だったので、逆にボールを取られる場面も増えたかもしれない。でも、どうせ取れるなら、横幅を広く使って孤立して取られるより、日本らしい攻撃を仕掛けて、選手が中に集まって取られたほうがいい。選手の距離感が近くてコンパクトなので、すぐにプレッシャーに行けるから」

「前半からやるべきだったと思うんですけど、なかなか難しいですよね。シンガポールみたいに引く相手には、幅を取ったほうが良かったとも言えるんで。今日、シリアがあれだけ前から来るとは思わなかったというのが正直な感想です」

後半の変更を一言で言えば、短いパスを交換できるように、選手が中央にぎゅっと集まったということだ。

日本の選手はダイレクトでパスをまわすのが得意で、特に後半21分に宇佐美貴史が入ってからは、その特徴を存分に表現した。3点目の場面では、清武弘嗣のパスを本田がヒールで落とし、宇佐美がネットに突き刺した。曲芸のような崩しだった。

本田圭佑は右FWで先発し、後半は自由に中央に入ってプレー。後半10分にPKを決め、日本に先制点をもたらした (写真:Francois Nel/Getty Images)

本田圭佑は右FWで先発し、後半は自由に中央に入ってプレー。後半10分にPKを決め、日本に先制点をもたらした(写真:Francois Nel/Getty Images)

左右非対称モデルが新たな正解になるか

ここで注目したいのは、新たな選手の配置だ。

攻撃になると、本田が右サイドの持ち場を離れ、ほぼトップ下の選手になっていた。ときには左サイドにまで顔を出し、攻撃時には完全にフリーマンになった。

基本陣形の持ち場を離れると、ボールを失ったときに、そこに守備の穴が空きかねない。だが、きちんと崩し切れば、相手はすぐに攻撃に切り替えることができない。すなわちカウンターを受ける危険性を減らせる。

「真に攻撃的なチームは、横のポジションチェンジがある」

サッカー界にはこんな格言があるが、まさに後半の日本は横のポジションチェンジによって攻撃に生命を吹き込んでいた。

興味深いのは、左サイドの原口、そして途中から出て来た宇佐美はそれほど中に入らず、左に留まっていたことだ。

本田だけが中に入ることで、右の高い位置にだけ誰もいない──。左右非対称な陣形である。

レアル・マドリーが銀河系軍団と呼ばれた時代、デルボスケ監督は右にフィーゴ、トップ下にジダンを配し、左に誰もいないという左右非対称のシステムを採用していた。左サイドバックにロベルト・カルロスがおり、それが彼らを共存させるのに最適な配置と考えたからだ。

また、グアルディオラ監督はバイエルンにおいて、たびたび左右非対称なシステムを採用している。たとえば右にロッベンが張っているが、左のゲッツェは自由に中央でプレーするという感じだ。おそらくデルボスケと同じで、個性を生かすのにその並びが一番いいと考えているからだろう。

本田と香川の共存の可能性

ブラジルW杯を目指す4年間において、ザッケローニが最も頭を悩ませたのは、おそらく本田と香川の共存を果たせなかったことだろう。中央でプレーしたがる香川をコントロールできず、結局、ブラジルW杯のギリシャ戦で香川は先発から外れた。

だが、この本田が右から中に入る「左右非対称」の布陣なら、2人を両立させられるかもしれない。

シリア戦をどん底から抜け出す手がかりにしたい。