「クリエイティブ」と「儲け」のジレンマ

2015/10/7

成功している姿を見せるのが一番の社員教育

糸井 コンテンツってやっぱり、「いいか悪いか」っていう判断が本当は一番重要で、頭の中にその見えない財産を佐渡島さんが持っているっていうのが佐渡島さんの会社の強みであり資金ですよね。
佐渡島 ただ、ぼくがプレーヤーでいる限りやれる範囲は限られていて、どういうふうにしてプレーヤーを増やしていくのかっていうこともいつも思ってるんですね。
糸井 そうですね。それは、ぼくなんかもそうですけど、成功している姿を横から見せるのが一番育ちますよね。
「さあ、今、当たる瞬間だぞ。予告しておくけど、ここで当たるぞ」っていうのが実際に当たってるのを見たら、「本当だー」ってなって、ゲームとしてすごく楽しそうに見えるんです(笑)。
佐渡島 そうですね。
糸井 「売れるか売れないかわかんないけど、これはいい作品です」って判断がひとつできる。それから、「いい作品で、『売れてほしい』って心から願える」ってこともできる。「いい作品で、かつ売れるってこともちゃんとある」みたいな。それ、若い人は経験してないんですよね。それを予言しながらやっていくんです。
佐渡島 はい。
糸井 ぼく、「プレゼンで落ちる」っていうのがすごく腹が立つんですよ。もちろん受かる前提でいつもプレゼンしてたんで、「競合で落ちたんですよ」っていうのを聞くと、すごくショックで。で、「広告屋、俺もうやめよう」と思ったときに、これ、ぼくの生意気な作家性なんですけど、「予言して当てるのを見せてやりたい」って思ったんですよね、知り合いに。
佐渡島 予言して当てる。
糸井 そう。代理店の友達とかに、「これから1年後か2年後に釣りのブームが来るから、俺、それ今から仕掛けるから、見てて!」って言って、実際に来たんです、ブームが。別にメディアを買ったわけじゃないし、「本当だ!」って言わせるだけのためにやったんですけどね。
ちょっと命懸けの跳躍って、儲ける、儲けないを度外視すればできるんです。これが「利益も上げなきゃ」っていうと条件がものすごく難しくなりますけどね(笑)。

「誰も儲けない遊び」で練習をする

糸井 岡本太郎さんの「明日の神話」という作品、ありますよね。あれ、ゴミ置き場にあったんですが、それをメキシコから持ってきて、おカネかけて修復して展覧会で見せて、それで「パーマネントに飾る場所募集!」と言ったら、みんなが「くれくれ!」と言った。
だけど、地方自治体では予算が通らないんですよね。結局、渋谷だったらメンテナンスもできるし屋根もある、設置する費用も持っているということで渋谷に決まった。
ただ、この一連のプロジェクトで誰も儲けてないんですよ。
大もとは岡本敏子さんで、「太郎さんのあの作品をみんなに見せたい」と言われて。ぼくらが「手伝いましょう」ってなった理由は、何だかわかんないんですよね(笑)。一銭にもなるどころか、やっぱり持ち出しでやっているけど、みんなが面白がった。
佐渡島 はいはい。
糸井 そのときに「TARO MONEY」っておカネをぼくらが発行して、それを買ってもらうというのが「ぼくらの遊び」だったんですけど(笑)。
「TARO MONEY」を売って儲けたおカネで修復をお願いした。修復する人たちも相当オマケしてくれたでしょうけどね。渋谷の人たちも一銭にもならないわけです。でも、そういうときって実現するんですよね。
誰かが「損するわけにいかないですよね」って言い出したら、急にダメになるんです(笑)。そういうことで練習するっていうのは、ぼくらがけっこうやってきたことですね。
佐渡島 ぼく、講談社時代はまったくおカネにならないことに首突っ込みまくってたんです。ぼくはただ楽しんでただけだったんですけど、そのときに「助けてもらった」って思ってくれた人たちが、今、ぼくが会社でやってることをすっごい助けてくれるんです。
糸井 ああ、よくわかるわ(笑)。
佐渡島 たとえば今日の対談とかも、ぼくは「勉強したい」って気持ちで来るけど、じゃあ仕事なのかっていうとちょっと違うじゃないですか。
ぼくのかなりの時間って、そういう勉強に費やされてるんです。これを、ぼくだけじゃなくて会社全体をそういうふうにしていきたいと思ってるんですね。けれど、収入の基盤がまだ安定してない、なかなかそういうわけにもいかない。
理念とか考え方が全部伝わってるんだったら、社員にあえて「関係ないことやれよ!」「儲かんないことやれ!」って指示もできるんだけど、社員がわかってないと「本当に関係ないこと」をやられて、食っていけなくなるし。
食っていくことに関しては、やっぱり社長が責任持っていないといけないですから。
糸井 はい。社長の仕事は給料払うことですからね。
佐渡島 そうなんですよね。だから、そこのバランス。
クリエイティブさを残すためには「おカネのことはいっさい気にしないで、やりたければやる」ってことをやっていかないと絶対ダメだってわかっているんですが、初期の段階ではその余裕がない。でも、それがないと保守的な社風になっちゃいそうだし。そういうジレンマにいつも悩むんですよね。

「赤字にはなるな」というルールだけつくっておく

糸井 たとえば、500人集めるイベントというのを考えたとしますよね。で、「儲けなくてもいいや」っていうのも言えます、と。
集まってくれる人が楽しい。コルクが楽しい。手伝いをしてくれる、あるいは、出し物をやってくれる人が楽しい。500人集まって、おカネはみんなが入場券として出してくれた。計算したら、30円儲かりましたって仕事があったとしますよね。それは何も差し支えないですよね。ただ、実はものすごく労働力のコストは払ってるわけです(笑)。
そんなことで練習するんだと思うんですよね(笑)。
佐渡島 この前まさにそういう『宇宙兄弟』のイベントやりましたね(笑)。
糸井 ああ。きっとそんなものでしょう。
佐渡島 そうですね。それはもう本当、場所代と出てくる人におカネ払ったら、1万とか2万……下手するとちょっと出てるみたいな感じ。
糸井 よーく計算すると出てるとかね(笑)。
そのときにぼくは、初期の頃からそういうことを恐る恐るいろいろやったんですけど、「赤字にはするなよ」と言ったんです。
佐渡島 はい。
糸井 「赤字にはするな」ってルールがないと、サッカーで言えば、ボールを手で持っちゃいそうなんですよ。下手すると自分の財布からおカネ出しちゃいそうなんです。「赤字にはするなよ」って言うだけで、ゲームが面白くなるんですよ。
それは理念として理解してもらうことは難しくても、「佐渡島さんがさ、『赤字にはするなよ』って、これが鉄則だって言うんだよ」って苦笑いさせたら、理念を理解しなくても方法は理解しますよね(笑)。
佐渡島 そうですね。「赤字にならずに無駄なことをやる」ってことですね。
糸井 そうそう。あと「徹夜しても翌日休むなよ」とかね。しょうもない約束ごとのかたちをとるんだけど、実は掘れば理念があるっていうことが有効だったりするんですよ。
佐渡島 そういう約束ごとってけっこう決めてるんですか。
糸井 明確に決めてないんだけど、直感的にやっぱりつぶやくんですよね。「放っておくと、危ねえな」って思うわけです。
さっき佐渡島さんも無意識で、「儲かんないことやれ」って言ったけど、「面白いことやれ」って言ってるんです、本当は。
佐渡島 ああ、そうですね。
糸井 「儲かることは、よりいいぞ」と思っているわけです(笑)。
佐渡島 そうです。まったくそうですね。
糸井 だとしたら、「儲かんないことやれ」って掛け声のまんまで受け取ってしゃべってるやつがいたら、「バカ野郎、何言ってんだ」って。
佐渡島 確かに、確かに。
糸井 「誰が言った、そんなこと。本当は儲かったほうがいいんだよ。そうじゃなきゃ、俺たちこの遊びが続けられないだろ?」っていうのが理念です。
だから、「赤字にはするな」はけっこう、初期の頃は言いました。
あと、企画がいい感じでまとまってきて「やろう」ってなったタイミングで、「それ、タダでできないか?」って言ってましたね。おカネを使ってだったら誰だってできるんです。そのときに、「なんとかそれ、タダでできないかな」って言うと、みんながぼくの顔を見て、「えー?」って。「でも、できるかもねえ」って、「俺ならこうするな」って。ぼくはそこでまた考えなきゃいけないんだけど、みんなが「面白いことをやれるんだ」ってわかりますよね。
そうやってちょっとずつぼくの考えていること、遺伝子を移していくというか。ぼくが今言っているようなこと、思い当たる気はしますか。
佐渡島 いや、すごくわかりますね。
糸井 しますか(笑)。
(取材・構成:竹村俊介〈ダイヤモンド社〉、撮影:福田俊介)