起業QA_bnr (1)

第6回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?

ピボットすべきタイミングはいつですか?

2015/9/29
超有望ベンチャーへの投資を次々と成功させ、今、最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏と、十数年のAppleでのビジネス経験を経てIoTサービス「まごチャンネル」をスタートさせた起業家・梶原健司氏の対談連載もいよいよ佳境に。「起業家がベンチャーキャピタリストに聞きたいこと」をすべてぶつけ、本音の回答を引き出します。
第1回:ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか
第2回:ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか?
第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?
第4回:VCから投資を受けるのに大切なことは何ですか?
第5回:起業家は撤退ラインを設けるべきですか?
こちらのフェイスブックページでは、高宮さんへの「起業」に関する質問を募集しています。

ピボットが「おしゃれ」になっている!?

高宮:ベンチャーが事業を転換するときに、最近“ピボット”という言葉がはやっているじゃないですか。でも、実は僕は“ピボット”っていう言い方、あまり好きじゃないんです。

横文字だからおしゃれな雰囲気になってますし、そんなに悪びれる感じもない。そのせいか、安易でカジュアルなピボットが多くなっちゃってると思うんですよね。

梶原:カジュアルってどういう意味ですか(笑)。

高宮:本来はピボットをするときって、“ある仮説のもと、その事業をやり切って検証してみたら、当初の仮説の前提が違っていることがわかった。ではその変化した前提に合わせて、どのようなアプローチに変えますか”ということになるはずです。

でも、「モノを出してみました! でもユーザーがつきませんでした。だからピボットします!」みたいな話がとても多い。

いやいやいやいや、「なぜユーザーがつかなかったんだっけ?」「仮説の前提が間違っていたのか、それともやり切りが足りなかったのか、どっちだったんだっけ?」って思わずツッコミたくなります。

梶原:確かに、カジュアルですね(笑)。

高宮:「もともと認識していた外部環境の前提は正しかったのか、間違っていたのか。間違っていたとすると、何が間違ってたのか」みたいな、なぜ成功できなかったのかの洞察がないまま、単なる結果論だけで、「うまくいかなかったから変えます」というのはダメなパターンです。

失敗の原因を分析し、そこからの学びを生かさないと、次の成功確率は上がりません。失敗を通じて外部環境についての仮説と現実の差を学習し、再度トライしたときに当てる確率を少しでも上げる、それが正しいやり方だと思います。

1回目でうまくいくに越したことはない、みんなそれが一番ハッピーです。でも、うまくいかないから苦渋の選択として、もう1回チャレンジする=ピボットするわけです。

だから、今回をやり切ったうえで、そして今回の失敗を徹底的に分析したうえで、「今度こそは!」という覚悟を持って次に臨むべきだと思います。

梶原:失敗にちゃんと意味が持たせられるかっていうことですよね。

高宮:そうですね、まさに。

梶原健司(かじわら・けんじ) 1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中。

梶原健司(かじわら・けんじ)
1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中

「ナイストライ」な失敗、「ナイストライ」でない失敗

梶原:でも、失敗からちゃんと学んでも、それでもうまくいかない、そんなこともありますよね。

高宮:そうですね。会社や事業が失敗するというのは当然すごく悲しい出来事です。従業員や株主、それ以外のステークホルダー(利害関係者)に対しての説明など、起業家の人が果たさなきゃいけない責任はとても大きい。

しかしちゃんと仁義を持って、かつ真面目にやり切っていたのであれば、「ナイストライだったね」で終われると思うんですよ、みんな。

梶原:そういうので高宮さんの頭の中に浮かんだ例とかあります? ナイストライした。

高宮:ありますね。間違いなく。ナイストライだったけど、残念ながらうまくいかなかったパターンも。一方で、不完全燃焼だったパターンもあります。

梶原:それって、両方のグループに分けたときに類型化できるものですか。たとえば行動規範とか、こういうことをやる人たちというのはカジュアルなピボットをしやすいとか。

高宮:そうですね。やっぱり、同時にいろいろな事業にあっちゃこっちゃ手を出し、ひとつの事業をやり切れない人が、一番、逃げのピボットをする確率が高いと思います。

梶原:「やり切る」っていいですね。

高宮:最近では上場市場がようやく盛り上がってきて、2000年前後の苦しい時期からずっと頑張っていたベンチャーがようやくIPO(新規株式公開)をし、さらに飛躍するための資金を大きく調達しています。その起業家が昔から頑張っていたのは、みんなが知って応援していましたから、上場を大いに喜んだという話もあります。

それも、起業家が信じてやり切ったからなんですね。なんとか踏ん張り続けていれば、時代が追いついてくるという側面もあります。事業領域での話だけでなく、上場市場が盛り上がるといった環境変化があったりもする。

だからこそ起業家は、前提としていた環境に変化がない限りにおいては、信じた道を疑わず、かじりついてでもやり切ることが大事だと思います。

高宮慎一(たかみや・しんいち) 2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(二年次優秀賞)。その後グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある。

高宮慎一(たかみや・しんいち)
2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(2年次優秀賞)。その後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある

「やり切る」と「固執する」の違いは?

梶原:でも、「やり切る」や「かじりつく」を、誤解する人がいるかもしれません。

高宮:良い意味での「やり切る」のと、悪い意味でひたすら「固執」して失敗をするのとの違いは、事業においてクリティカルな前提となっている外部環境について意識的であるかどうか、だと思います。

たとえば、「スマホが普及する時代が絶対に来る!」と思っていたら実際は来なかったとか。「エモーショナルなコミュニケーションがこれから必ず来る!」と思ったら、意外とみんな、事務的にやり取りをしたいだけだったとか。

このような、市場についての仮説が、自分たちが取り組んでいる事業の大きな前提条件となっていることを事前に明示的に意識し、事業を進めながら常にその前提条件が崩れていないかどうかを、タイミング、タイミングで確認することが重要となります。

また、競争についても仮説の前提条件となりえます。市場のところの仮説は正しかったけれど、競合が完全に市場を独占してしまったなど。

このように市場や競争、または経済、社会、法制度などの「マクロ環境」といった、その事業の成功に必須な外部環境の仮説について、きちんとフラグを立て、仮説と違った場合は今までのアプローチをすっぱり変えて、固執しないという潔さが求められるでしょう。

「安易なおしゃれなピボット」と「やり切ったうえでの苦渋のピボット」の違いとは、まさにそういうことです。

梶原:嵐の中を走り抜けるかのごとく、内部も外部も環境がどんどん変化していくベンチャーにおいて、日々起きることは驚くほど想定外のことばかりです。

次第に当初の理想や仮説を忘れたり、環境の変化を敏感に察知することを怠り、とにかく目の前で起きていることにただただ対応して「なんでこんなに大変なんだー!」と叫びたくなる誘惑に駆られることが多々あったりします。

目線を常に高く持ち、環境の変化に目を配る一方で、己を信じて目の前のことをとことんやり切ることが大事だと、とても腹落ちした話でした。

本日のポイント

・本来“ピボット”とは、やり切る中で、前提となる仮説が崩れたことが検証されたがための、苦渋の選択。失敗の原因を分析し、次につなげることが重要。学びなき安易な逃げのピボットはダメ。

・自社の事業の大前提となっている、市場、競争、マクロなどの外部環境ついて、あらかじめ意識し、事業を進めながら、折につけその前提がまだ生きているかを確認しながら進めることが重要。

・起業家は、その大前提が変わらないのであれば、とにかく己を信じて目の前の事業をやり切るべし。

(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)

*本連載は隔週火曜日に掲載予定です。