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夏野剛インタビュー(第3回)

Jの転換期。地方に土地が余ってくる今後、チャンス到来

2015/9/28
Jリーグがアドバイザー契約を結んだ5人にインタビューしていく「Jリーグ・ディスラプション」特別編の第2弾は、慶應義塾大学の大学院政策・メディア研究科特別招聘教授などを務める夏野剛氏。「iモード」の生みの親であり、ニコニコ動画を黒字化させた夏野氏に、Jリーグを活性化させるための方法を聞いた。テクノロジーの活用法、リーグの抜本改革案、国際戦略などを4日連続でお届けする。
第1回:外国人枠を撤廃すれば、日本人の可能性も広がる
第2回:J1のチーム数は多すぎる。6チーム制で実力アップを促せ

──Jリーグの各クラブが収益を上げるために、経営面で工夫できる点はどこにありますか。

夏野:スタジアムがデカすぎると思います。もう一度、スタジアムがどうあるべきかを考え直したほうがいい。やっぱり、クラブが自前で持たないと難しいですよね。そのための優遇措置はつくってあげてもいいんじゃないかと思います。デカすぎるから、一体感もないわけなので。

──行政の協力がもっと必要ですか。

いや、今までガンガン協力してやってきたわけだから、逆にどうするか。これは難しいところですよね。2002年のワールドカップ用に、あれだけデカいスタジアムを各所につくってきたわけなので。

──最寄り駅から遠いスタジアムが多いですし、ヨーロッパのように行ってみたくなるスタジアムがほとんどありません。

行きたくなるスタジアムをつくるというか、これからの経営を考えると、スタジアムをつくるくらいの経営をしていいと思います。

──ガンバ大阪はつくっていますね。

そうですね。今、Jリーグのチームはほとんどが地方にあるんですけれど、地方ではこれから土地が余ってきます。どうやって地方を興していくか。Jリーグにとってもチャンスだと思うんですよ。

金字塔の選手を連れてくることによって地方創生をやるチームもあれば、専用スタジアムをつくって盛り上げていくチームもあったり。要は、経営のやり方もバラバラでいいと思うんですよね。護送船団方式だと、やっぱり限界があると思います。

──そういう意味で言うと、岡田武史さんのFC今治は面白いですね。

面白いと思います。そのほかにJ3のレベルで、変わったことをやろうという動きもいろいろ聞いています。そうやって活性化していくことが大事だと思っています。

多角化→魅力創出は大賛成

──日産自動車から横浜F・マリノスの社長を経て、今年清水エスパルスの社長に就任した左伴繁雄さんが会見で、「Jリーグの平均収入は約30億円。清水としては経営をもっと多角化していかなければいけない」というような話をしていました。多角化の内容は明かされていないのですが、そうした活動は必要だと思いますか。

多角化がどこまで意味するかはわかりませんが、少なくともチケットの券種を増やして、値段差をつけてもいいと思います。

それとJリーグの選手ってみんな、カッコイイので、試合の後にファンミーティングをしたりね。ヴィッセルが「KOBE Vi女」(コウベヴィジョ)というファンコミュニティをつくっていますが、ああいうことはどんどんやったほうがいいと思います。

──エンタメの世界では、新日本プロレスがうまくやっていますね。

それは斜陽になったからなんですよ。もともとファンサービスって、そういうことじゃないですか。今、Jリーグのスタジアムに入っている人の何割かは無料券で入っているけれど、これは負の連鎖になっている。「それでも人が入っているから、ファンサービスをちょっとサボってもいいや」って、負の連鎖になっています。

やっぱり、チケットを買って、来てもらうことが大事。そのために多角化して、いろいろな魅力を出していくのは大賛成です。

──チケットの価格はどれくらいがいいですか。

どういう席をつくるかによると思うんですよ。ロイヤルシートとか、上からバンバンつくったほうがいいと思っています。シーズンシートを配って、結局誰も来ない席があるじゃないですか。もうちょっと、席割りそのものの考え方を変えてもいいと思います。

夏野剛(なつの・たけし) 1965年神奈川県生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

夏野剛(なつの・たけし)
1965年神奈川県生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

プロ野球は新規参入と国際化で活性

──DeNAベイスターズは横浜スタジアムのホームベース後方にあったグラウンドレベルの記者席をVIP席(個室観戦ルーム『YOKOHAMA BAY LOUNGE』)として売り出しています。年間1000万円といわれていますが、好評です。

そうそう、それはそうなんですよ。だってみんな、そこで見てみたいんだもの。そういうことはいくらでもできるはずなんです。

──プロ野球のスタジアムビジネスは、ここ10年くらいでかなり進んできました。

野球が進んできた最大の理由は、日本人選手があれだけメジャーリーグに行ったことです。メジャーの試合をBSで放送していますよね。日米野球も行われています。

僕も東京ドームにメジャーリーグ対巨人みたいな試合を見に行ったら、応援の方法でもメジャーリーグが攻めているときには鳴り物なしなんですよ。巨人が攻めているときは鳴り物でやりましょう、みたいな。

で、見入っていくわけですよね。みんなで「セブンス・イニング・ストレッチ」を歌ったりするわけです。そうやって違う価値観を味わうと、「アメリカはこうなっているのに、なんで日本はやらないんだ」となるんです。

それから三木谷(浩史)さんや孫(正義)さんが参入して、「◯◯シート」としていろいろな種類の席をつくりましたよね。新しい参入者がいること、そして国際化されたことの2つで野球はグンと面白くなりました。売っているグッズが、メジャーリーグっぽくなってきましたしね。

クラブ名はバラバラでいい

──Jリーグの親会社に目を向けると昔からの企業が続いていて、新しい大企業が入ってくることは確かに少ないですね。

あとは企業の色ですね。スポンサーについているけれど、クラブの名前に企業名が入っていないとか。なんか、わかりにくいです。

──クラブ名に企業の名前を認めるべきか、否かという議論はどう思いますか。

それすらバラバラでいいと思いますよ。プロ野球では広島カープと読売ジャイアンツが混在しているじゃないですか。今は企業名をダメにしちゃっているけれど、ダメにすることもない。

──なるべく制約をなくしてアイデアを出せ、ということですか。

そうです。自由でいいんじゃないかと思うんですよね。再三言いますけれど、ルールで一律に縛ることが今まではうまくいってきたので、これまでは良かったと思うんです。でも、これからはそろそろ自由にしながら、もっと盛り上げていく方法があっていいと思います。

昔は、ワールドカップに出られない時代でした。「ドーハの悲劇」といわれるのは、つまり単なる予選落ちです。悲劇でも何でもない。

そういう話をしていた時代から、「サッカーのレベルを底上げしなければいけない」となり、Jリーグができました。地方振興ですよね。地方の力をしっかり根づいたものにしていかなければいけない、というのは十分に理解できます。90年代にこういうことをやってきました。今、それを否定する必要はありません。

だけど今は、これだけ日本人選手が海外で活躍しているんだから、Jリーグそのものの考え方を改めていかないといけない。後進国が上がってくるのではなく、海外のリーグと同じように、ファンが見ていて面白いとか、国民スポーツの基盤としてのJリーグにしていかないといけません。

ヨーロッパリーグへの養成機関としてのJリーグではなく、本当に人気が根づいたスポーツとしてのJリーグにしていく転換期に来ていると思うんですね。そうするとやっぱり、エンターテインメント性はよく重視されるし、よりレベルの高い試合が要求されるわけで。

──興行ですからね。

そう、興行なんです。楽しくしていかないといけないですよ。

(取材:佐々木紀彦、取材・構成:中島大輔)

*続きは明日掲載します。