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夏野剛インタビュー(第2回)

J1のチーム数は多すぎる。6チーム制で実力アップを促せ

2015/9/27
Jリーグがアドバイザー契約を結んだ5人にインタビューしていく「Jリーグ・ディスラプション」特別編の第2弾は、慶應義塾大学の大学院政策・メディア研究科特別招聘教授などを務める夏野剛氏。「iモード」の生みの親であり、ニコニコ動画を黒字化させた夏野氏に、Jリーグを活性化させるための方法を聞いた。夏野氏の考えるテクノロジー活用法、リーグの抜本改革案、国際戦略などを4日連続でお届けする。
第1回:外国人枠を撤廃すれば、日本人の可能性も広がる

──外国人枠の撤廃以外に、Jリーグを活性化させるアイデアはありますか。

夏野:恒常的に東アジアリーグをやればといいと思います。いわゆる、東アジアのチームとの交流戦ですね。プロ野球でもやっている交流戦を通常のリーグ戦に組み込み、勝ち点としてカウントしてはどうかと思います。

──AFCチャンピオンズリーグ(ACL)みたいなことですか。2003年から2007年まで、A3チャンピオンズカップという日本、韓国、中国のクラブが参加する国際大会も開催されていました。

ACLの場合、日本のチームではなく広州のチームが優勝していますよね。代表のレベルで言うと中国より日本が上なのに、Jリーグのチームがあまりにも多いため、ACLでは負けてしまいます。なぜかと言うと、選手が分散しすぎているからだと思います。

逆に言うと、中国や韓国にいいチームがいっぱいあるから、そこや台湾、香港も加えて交流試合をやればいい。みんな、プレースタイルが全然違うので。Jリーグのシーズン中、常に交流試合が組まれている状態をつくると、面白いことになると思います。

──ACLはテレビではCS中心の放送ですし、なかなか見る機会が少ないのが実情です。恒常的に行うようにすれば、見る人が増えるのでしょうか。

見るかどうかは別問題として、選手のレベルは上がります。

──確かに、相手のスタイルに適応する必要は出てきますね。

そうだと思います。中国のチームは、ラフなスタイルも多いですし。

J1プレミア創設で、「強いチーム」をつくれ

──そういう違いがあるから、日本代表対中国代表は盛り上がりますよね。

そう考えたら、浦和レッズ対広州恒大はめちゃくちゃ盛り上がりそうじゃないですか。

──確かに、ACLという枠の中で戦うから、盛り上がりがいまひとつなのかもしれません。

だから、リーグの中に入れちゃえばいいんです。韓国との試合も盛り上がりますよ。「今日はJリーグのガンバ大阪は韓国のサムスンとやるんだ」って、ワクワクしませんか。

──ワクワクしますね。韓国は地理的に近いので、実現も可能です。

できれば、東アジアの交流戦を実現するタイミングで、Jリーグのトップディビジョンのチーム数を少なくできればいいと思います。

たとえば、プロ野球の12チームというのは、すごくリーズナブルだと思いますね。J1を減らすのではなく、J1プレミアをつくればいい。その中に交流戦もあるけれど、上位チーム同士の対戦が多くなるようにして。

そうする場合、J1プレミアは6チームでいいと思う。1日3試合、テレビで放送する。優勝争いも熾烈になると思いますよ。

──今年始まった2ステージ制をもっと面白くできるのでは、という発想ですか。

そういうことです。でも、2ステージ制はわかりにくい。Jリーグとは別にナビスコカップもあるし、何の試合を今やっているのか、わかりにくいんですよ。

──2ステージ制のセカンドステージが始まり、テレビのハイライトに順位表が二つ出てくるのがものすごくわかりづらいです。

だからこそ、年間勝ち点で争ってわかりやすくすることが必要。要は強いチームをつくらないと面白くないわけです。「1チームだけが強くなったら面白くない」と言う人がいるけれど、巨人が9年連続優勝してもプロ野球人気は衰えなかったわけなので。むしろ、人気が上がりましたよね。やっぱり、Jリーグにも強いチームが必要です。

夏野剛(なつの・たけし) 1965年神奈川県生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

夏野剛(なつの・たけし)
1965年神奈川県生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

トップを伸ばすことが大事

──Jリーグから各クラブへの配分金は、成績や入場者数、スポンサー貢献度に応じて傾斜配分されています。しかし、もっと差をつけていくことが大事ですか。

「差をつける」というより、「稼げるチーム」をつくっていくことです。日本って全体を底上げすることに気をつかいすぎて、トップを伸ばすことをあまりやらないんですね。教育でもそうです。

後進国のときはそれでいいんだけれど、世界レベルになっていくためには1個飛び抜けている存在がいると、みんながつられて上がっていきます。だから、トップを伸ばすことがすごく大事です。全体の底上げをするときに合わせてトップを伸ばしていかないと、本当の上まで行かないんですよ。

──飛び抜けて強いチームをつくるためには、外資の出資を開放するのも手ですね。現状は日本に法人がある場合に限って外資でも出資できますが、個人的にはもっと条件緩和をすればいいと思っています。

それはいいに決まっている話です。なんでいけないのか、わかりません。「外国人は土地を買えません」っていう国は、今どきないんですから。

大相撲では、幕内力士の4割以上が今や外国人。特にモンゴル人が多いです。それで盛り上がっているわけです。なぜなら、面白いからですよね。その中にマイノリティとして日本人が出てきたら、みんながますます応援するじゃないですか。相撲ではマイノリティではなく、幕内の半分くらい日本人ですが。

──幕内の上位番付は外国人が多いですね。Jリーグも完全に外資開放して、すごいカネ持ちや大企業が買収することで、そのクラブが強くなったら変わっていきそうです。

チェルシーのロマン・アブラモビッチみたいにね。外資開放すると、アジアの企業が買いにくると思います。なぜなら日本のマーケットに関心があるのは中国や韓国、ASEANなど、アジアの企業だから。

これからの成長は多様性から生まれる

──そういうクラブの出現が刺激となり、国内の資本からどんどん投資するチームが出てくると面白いです。村井満さんがチェアマンとなり、変えようという意思は表れていますよね。

Jリーグが変わっていくことで、各チームが本気で変わろうと思うかどうかでしょうね。全チームが自ら変わろうとするとは思いませんが、その中にいろいろな例外がちょこちょこ出てきて、みんなが違うやり方をしている状態になればいいと思います。その中から成功が出てくるわけですから。

イノベーションの素は多様性なんですよ。均一性はイノベーションの真逆のコンセプト。均一にやってきたことで今までの成長があったとしたら、これからの成長は多様性から生まれると思うので。

──中国や韓国、タイなど、いろいろな会社が入ってきたら面白くなると思います。たとえばイングランドのマンチェスター・ユナイテッドの場合、アメリカのグレイザー家に買収されたとき、ファンから大反対が起きました。でも数年後、良くも悪くもファンが慣れていったんです。

そんなものですよね。「経営がどこだから」なんて今さら言っていれば商売はできないし、お客さんも買い物をできないですよ。

一律制がなくなれば、冒険するチームが出てくる

──結局、クラブを強くしてくれればファンが満足することは、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシー、パリ・サンジェルマンを見ても自明のことです。

そうそう。ところで、広州恒大のスポンサーはどこでしたか。

──もともとは恒大地産がオーナーで、2014年にアリババが約197億円と言われる額で50%の株式を取得しました。

アリババだと日本のどこかのチームを買って、常に半分くらい中国人選手にして、日本人選手も中国の広州恒大に入れる、みたいなことをやりかねないですよね。

──今季はブラジル代表のMFパウリーニョを年俸19億円、FWロビーニョを14億円で獲得しました。さらに言えば、中国代表もどんどん集めています。

ブラジル代表って、本当ですか。

──はい。監督はジュビロ磐田やブラジル代表を率いたルイス・フェリペ・スコラーリ。広州恒大は確かに強いのですが、外国人選手が中国を嫌になるのか、数年でやめていく大物も少なくありません。そういう選手をJリーグが獲得するのはありですよね。

十分にありえますね。世界の相場がそうなっているなら、Jリーグもそうしたレベルで成り立つようにしていかなければいけない。

──その第一歩として、外国人枠の撤廃は現実的な提案だと思いました。

撤廃しても、すべてのチームが外国人を急に入れるわけではないから大丈夫ですよ。僕は一律に規制しているのがおかしいと思います。外国人を入れないチームがあってもいい。一律制がなくなれば冒険するチームが出てきて、それがうまくいったりすると、刺激されていろいろな波及効果が出てくる。

「日本のリーグや日本人を育てない」ということではなく、レベルの高い選手に揉まれることでJリーグのレベルが上がっていくわけです。

6チーム制にすると、サッカーがより戦術的になる

──プロ野球でいうと、福岡ソフトバンクホークスは外国人を数多く獲得し、フリーエージェントになった有力な日本人選手を加入させ、さらに若手の育成もうまくやっています。そういうずば抜けて強いチームがJリーグでも出てくると、活性化されると思います。

そうなんですよね。J1のチーム数が多すぎるから、企業がそこまでテコ入れするメリットがなくなってしまうんですよね。常に1節に9試合あって、9分の1だとどことどこが戦っているのか、印象に残りません。やっぱりJ1プレミアをつくって6チームにして、3試合にすれば間違いなくファンに明確に印象付けられる。

そこに交流戦を入れて、下部リーグとの入れ替え戦もあって、と。1節に9試合は多すぎます。

──その下にはJ2、J3もあります。地方創生などの観点からチーム数が増えてきました。

数はそのままでいいから、トップ6チームだけをプレミアにすればいいんです。そうすると同じチームとの対戦が増えるので、分析して、いろいろな作戦を考えるようになります。

2015年に行われた女子サッカーのワールドカップで、アメリカ代表は試合ごとに戦法を変えてすごく得点をとりました。6チームの戦いにすると、そういうことが起こるわけです。サッカーがもっと戦術的になる。

今のJ1だとそれぞれがベストな戦い方を繰り返すほうが、勝率を高めるようになっています。それを6チームにすると分析スキルが上がり、監督もいろいろな方法を試すと思います。

──ミハイロ・ペトロビッチ監督はサンフレッチェ広島と浦和レッズ時代で、同じような戦い方で勝ってきています。良くも悪くも、同じパターンが通用しているということですね。

そのパターンが通用してしまうのは、同じチームと当たる回数が少ないからです。でも6チーム制だとしょっちゅう対戦するので、同じパターンでは破られますよ。

──ヨーロッパではバルセロナクラスでも、同じパターンを3年も続けていては研究されてしまいますよね。

研究され尽くしますからね。同じチーム同士がたくさん当たるようにすると、ファンも相手のことをよくわかってきます。そうやって、Jリーグのレベルが高まっていくわけです。

(取材:佐々木紀彦、取材・構成:中島大輔)

*続きは明日掲載します。