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『モータリゼーション2.0×都市』〜都市におけるモビリティの可能性〜

交通業界老舗2社が語る、テクノロジーの在り方

2015/9/21
NewsPicksとHIPは、「モータリゼーション2.0×都市」をテーマにしたコラボレーションセミナーを開催した。次世代自動車と都市との関係を、業界のフロントランナーや専門家が解説したパネルディスカッションをリポートする。第3回は「モータリゼーション2.0のサービス」をテーマに、自動車や社会、サービスについて詳説する。

5年前に配車アプリをリリース

川鍋一朗(日本交通株式会社 代表取締役社長)

川鍋一朗氏(日本交通 社長)

川鍋:昔から、1人の人間が1台の車に乗って、お客さまを送迎する。このモデルが103年たった今日でも、たいして変わっていない。ここ10年ぐらい、タクシーは「『拾う』から『選ぶ』時代へ」と称してやっています。選んで乗っていただくほうが、会社も乗務員もやる気が出ます。あの手この手で、電話も1秒でも早くつながりやすくしたり、専用乗り場をつくったりしてきました。

そうしているうちに、スマートフォンが出てきて位置情報があれば、住所がなくても配車ができるアプリを開発しました。アプリをリリースしたら、「便利になった」とか「日本交通はアプリがいい」と言われました。

最初は東京だけでやってましたが、今、全国47都道府県で140社ぐらいのタクシー会社とチームを組んでやっているのが、当社の「全国タクシー」アプリです。

ドライブレコーダーを自製

実は、タクシーって200万円の車を買って、100万円ぐらいの装備を着けるんです。無線システムが43万円、メーターや(領収書の)印刷機などで12万円、(クレジットカードなどの)決済端末が30万円とか。これ1個1個買うのが痛いわけです。専用設備ですし。

そのうち、「自分たちでつくれるんじゃないか」と。それでつくったのが、ドライブレコーダーです。ほかで買ったら5万円なんですけれど、自分でつくると3万円。しかも、ほかのタクシー会社に売ると、それはそれで利益が出る。

口で言うのは簡単で、1号機は大失敗……。2号機はめでたくうまくいっているんですが、販売した1号機の5000台は、全部交換することになりました。

日本交通は創業87年目で、大阪や京都でタクシー会社を買っています。ところが、そういう展開をしていくうちに、だんだん「ちょっと待てよ」と。付加価値が移ってきました。

開発したアプリを、どんどん育てていかなきゃいけないし、ハードウェアもどんどんつくっていって、タクシー会社の仲間を募って……。天才エンジニアはいないけれども、タクシーの仲間はいるぞ、と。タクシーの仲間を必死に束ねて、汗かいてやっている最中なんです。

ですから、「モータリゼーション2.0」と言われてもピンとこない。海外ではすごいプレーヤーたちが、それぞれが3000億円とか1000億円を資金調達してやっている。そして、どんどん日本にも攻めてくるわけです。自動運転になっちゃったらどうしようって、生き残りをかけて、日々必死でドキドキしながらやっている今日この頃です。

主軸は駐車場と、カーシェアリング

 西川光一(パーク24株式会社 代表取締役社長)

西川光一氏(パーク24 社長)

西川:パーク24という会社自体の社名はともかく、「タイムズ駐車場」とお伝えすると、ご存じの方が多いのではないかなと思います。

「タイムズ駐車場」の第1号は、1991年12月。現在、駐車場に掲げているあの黄色と黒の「Times」のマークができたのが1993年8月ですので、古くから知っている人でも、できてから20年ぐらいの会社なのかと思われがちなんですが、実は創業は1971年。44年の歴史があり、一貫して駐車場関係の仕事をしている会社です。

最初の20年間は駐車場の機械を販売する会社だったんですけれども、24年前から駐車場の運営事業に転換しました。

今、パーク24が提供しているサービスは、主力の駐車場。次に、大きな柱として育てていきたいのが、カーシェアリングです。カーシェアは、つい先日、全国で会員が50万人を超える規模まで育ち、今、全国で約7000カ所に1万2000台ほどの台数で運営をしています(2015年6月末時点)。

このカーシェアリング事業を早期に立ち上げるために、2009年の3月に旧社名で言うとマツダレンタカーという会社をM&Aをして、今は「タイムズモビリティーネットワークス」という社名で、レンタカー事業を運営しております。

もうひとつ、あまり知られていないんですが、ロードサービス事業も展開しています。ロードサービス事業を始めた最大の理由は、やはりカーシェアリング。レンタカーサービスも提供する中で、車に関わる緊急時対応を外部委託するという選択肢もありましたが、自分たちで運営したほうが、より良いサービスが提供できるだろうと思い、これも3年前にM&Aをしました。

30億円を投じオンラインシステムを設備

肝となるのは、ITシステムだなと日々感じています。社内に、すべての駐車場、すべてのカーシェアリングの車、すべてのレンタカーがオンラインでつながっているシステムがあります。「Times Online Network & Information Center」の頭文字を取って「TONIC」と呼んでいて、導入開始が2003年です。

このオンラインのシステムを導入するまでの12年間は、オフラインのスタンドアローンの無人の駐車場だったので、現地に行かないと、ちゃんと駐車場が稼働しているかどうかわからない状況でした。機械が動かないと無料で出られるので、「機械壊れているよ」とお客さまからは言ってもらえない。

収益ロスがどれぐらいあるかも全然わからなかったのですが、あるときデータを取ったところ、売上が200億円ぐらいの規模のときに、15%ロスがあったんですね。つまり年間30億円のロスがあった。

30億円ロスがあるんだったら、設備投資をして、そのロスを小さくすれば、収益はよくなる。ということで、年間の純利益が30億円弱のときに、40億円の設備投資を開始して、このオンラインのシステムをつくりました。

テレマティクスで注意喚起

一方で、テレマティクスで急ブレーキの頻度が多い場所などがわかるので、このデータをベースにして、「危ない交差点ですよ」とか、「危ない道路なので注意をしてください」というデータを提供することも最近では可能になっている。こうしたサービスも、今後はやっていこうと考えています。

そのほか、駐車場も車も、移動する人からすると、そこだけで完結するものではないので、ほかの交通機関との提携も進めています。たとえば、「パーク&ライド」という名前で、PASMOとかSuicaなどの決済手段で駅や電車を使われたほうが、駅前のタイムズ駐車場を使ったときに、料金を割引しますというサービス。

加えて、「レール&カーシェア」という交通ICカードで鉄道に乗った人がカーシェアを使うと、利用料金をサービスしますということも始めています。

ほかにも、「タイムズタワー」というものを、駐車場に置き始めています。タイムズクラブのポイントを、この機械でその場で交換できる。なおかつ、そこで駐車場周辺の店舗情報を検索できるものです。

あとは、われわれのカーシェアリングの車で、提携しているIKEAやコストコなどの店舗に一定時間の車を停めておくと、カーシェアリングの無料券を提供する「ドライブチェックイン」サービス。こちらは、カーシェアリングの車を使ってもらい、店舗にとっては送客になる。こういったサービスも展開しています。

Uberはガチンコ

琴坂将広(立命館大学経営学部国際経営学科准教授)

琴坂将広氏(立命館大学経営学部国際経営学科准教授)

琴坂:「モータリゼーション2.0」という時代になってくると、恐らく挑戦を受けている立場でもあると思うんですね。そもそも、Uber(ウーバー)って敵ですか。

川鍋:ウーバーとはガチンコですよね。

ただ、1回の表でウーバーが攻め込んでいますが、今は1回の裏ぐらいにちょっと変わってきた感じで、ウーバーのようなサービスに「調子に乗るな」みたいな動きが出てきています。いろいろ問題が出てきている。

最後はお客さまにちゃんといいサービスを提供できるかということなので、そこはしっかり見据えていきたいと思いますし、そのために必要な頑張りをします。

なんでもできるから、なんにもできない

琴坂:たとえばハードウェア。日本中のタクシーの中に入っているハードウェアをご自身で設計できるとすれば、どんなことができるんでしょうか。

川鍋:タクシーを呼んで、車が手配できないとしょうがない。だから、車が来る体制を整えるためには、タクシーを集めないといけない。そのために、統一されたタクシー会社目線で、リーズナブルなものをつくることはできる。

これまでは自社でハードウェアがつくれるとは思っていなかったですが、できた。外の企業にハードウェアをつくってもらおうとすると、儲けようとして要望を聞きすぎ、オーバースペックになる。

余分なものを全部取り除くことで、タクシー会社としてはピタッとくるものができるはずで、タクシー会社側のハートをつかめる。むしろハードウェアはタクシー会社同士で共有化し、削減したコストをもっと乗務員の教育に当てようとか。

琴坂:そのハードウェアを使って、何かサービスをすることは考えていますか。

川鍋:いろいろできます。正直に言って、もうハードウェアもソフトウェアも、お金さえあればなんでもできる時代になってますからね。あとはそれをどう現場の問題解決にまでつなげられるかが問題です。

よくあるのは、「なんでもできます。何しましょう」と。それってレストランに行って「なんでもできます、どれがいいですか」って言われたようなもので、そうじゃなくて「うちはこのカレーがうまいんだ」とか、そういう決め打ちで何か欲しい。

すべての車の情報を集約したい

西川:カーシェアリングの車には車載器がついていて、データを取れるようになっていますが、車載器自体は自社開発なんですけれども、その車載器と車をつなぐことに関しては、メーカーにお願いしているんです。

なので、自動車メーカーが「いや、この車はダメ」と言われたら、車載器はつなげない。基本的には今、ほとんどの車がコンピュータ制御されていて、車のどこかに、車の情報が集約されている。そこに発信器をつけるだけで、すべての車のテレマティクスは、技術的には難しくないと思うんです。

だから、そういった部分が、すべてのメーカーで統一されて、そのデータを事業者が自由に使えるようになると、いろいろな可能性が広がってくると思います。

琴坂:そのデータは、誰がコントロールするんですか。誰が取れる可能性があるんでしょう。何がいいシナリオで、何が悪いシナリオなんでしょうか。

川鍋:いろいろなデータは取れるんですが、「それでいったい何が変わるのか」という実例がまだ少ない。タクシーの無線センターにも、たくさんデータがあって、どんどん上書きしていますが、何の役にも立たないまま捨てられています。

われわれも、ベテラン乗務員の技術をナレッジ化して、新人乗務員に迷ったらこれを目指して行けというリアルタイムの「ホットスポットマップ」をつくったんです。10人ぐらい試して、だいたい10%ぐらい売り上げが上がりました。でも、実は今ストップしている。

なぜかと言うと、売り上げが5万円の人が10%上がって、5万5000円になりました。その5000円を分けると、タクシー乗務員は歩合なので、7割は乗務員に行く。そして、そのロジックを提供する、某大手企業に3割ぐらい取られる。乗務員に7割で、その方に3割。つまり、タクシー会社には残らない。結局、技術を使って誰がどう課金してビジネスにするかの問題が生じている感じがします。

できることはたくさんあって、事業を描く人はいるんですが、それをリアルに交渉できる人。たとえば、タクシー会社だったら現場のタクシーの乗務員に「こういうのどうですか」と言ったり。最後のチャリンとなるところまでプロジェクトをまとめていくリーダーは極めて少ないですね。

最後までまとめられるリーダーが必要

琴坂:西川さんはどうですか。

西川:先ほど「情報は誰がコントロールするんですか」という話があったんですが、僕、コントロールする必要はないと思うんですね。要は、集約するデータなので当然、管理は必要でしょうけれども、コントロールは必要ないと思うんですよね。

常々思うんですけれども、せっかく車の中にはその情報がたまっているのに、すでにあるものをどうして開放してもらえないのか。

コントロールしようとするから普及しないんだと思うんですよね。インターネットもなんでこれだけ普及したかというと、コントロールされてないからじゃないですか。プロトコルだけは統一していますが、コントロールはしていない。

いろんなものを集約することによって価値が生まれてくるので、そのさきの収益化も自分たちでとなると、そこで止まってしまう。皆が共通で使えるインフラをつくることを真剣に考える時期なのかなと思っているんですけどね。

川鍋:いろんな人が答えにたどり着こうと努力されているんですけど、ほんとうにリアルなデータを持っている現場とか会社と、それを活用したい、研究したい人たちの間にそうとう文化的な違いがあるんですよね。

お客さんから苦情がきて、「おいお前、もうちょっとちゃんとやってくれよ」と言っている中で、「すいません、ビッグデータください」なんて言われても「おとといきやがれ」という感じになっちゃうんです。

そこをどうお互いが勉強するかというか、もっと具体的な話になっていかないと進まない。現場の人が「なるほど」と思うことは現場の人と話せばわかるんですね。そこの汗かき感が足りないと思います。

(取材・文:福田 滉平、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載予定です。