津上俊哉は警告する。「中国問題は“対岸の火事”ではない」
2015/09/17, NewsPicks編集部
2015年後半は、世界経済にとって試練の時になる
津上俊哉は警告する。「中国問題は“対岸の火事”ではない」
2015/9/17
なぜ「中国バブル」は短期間で膨れ上がり、このタイミングで弾けたのか。「本当に憂慮すべきは、株よりも為替の動向だ」という、その真意は。中国経済の専門家が、問題の本質について鮮やかに読み解く。
株価下落をもたらした2つの要因
中国株の急落が、世界中の株式市場に影響を与えている。上海総合指数は6月12日に付けた最高値の5158.19から、9月頭の時点で3000台まで急落。それに引きずられるかたちで、アメリカ、日本をはじめとする各国の株式市場でも「投げ売り」が進んでいる。
中国株は昨年の8月ごろから上昇トレンドを描き始めた。その間、実体経済は減速していたにもかかわらず、株価のみが上がり続けた。これに対して多くのエコノミストが首をかしげたが、要は実体なき株高、つまり「バブル」が、今になって弾けたということだ。
株高の理由を一つ挙げれば、中国国内の不動産価格の低迷だ。これまで不動産投資に充てられていた投機マネーが、不動産価格の上昇のストップによって行き場を失い、株式市場に流入した。つまり「消去法」的に、株式市場にマネーが流れたのである。
今年の春先からは、中国株の上昇スピードが加速し、「官製牛市(ブルマーケット)」と呼ばれるようになった。なぜ「官製」かといえば、共産党政府の声を代弁する中国メディア『人民日報』が、株式投資を煽ったからだ。
4月に「株高はまだ始まったばかり」という記事が掲載されたのを見て、国民は「お上は自分たち民草のカネを利用するつもりだ」と政府の魂胆を見抜いた。それは正しい。高い株価を背景に、国民に株を買わせて国有企業の過剰債務を軽減する魂胆だったのだろう。
だから、国民は「お上がそういう魂胆なら、株価が下がっても、必ず底上げの措置が取られるだろう」との思惑を持つようになった。もちろん、株式市場は国家によってコントロールできるものではないが、多くの国民が「この相場は、上がりやすくて下がりにくい」と期待したのである。
その結果が、実体経済では説明のつかない株高だったが、そんな株価が何かのきっかけで崩壊するのは、火を見るより明らかだった。
では、株価急落の引き金となったのは、どのような要因なのか。日本では8月下旬の大暴落が日本に波及してから大騒ぎになったが、兆候はすでに、6月半ばに表れ始めていた。
1つは、6月10日にアメリカの株価指数算出会社モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が発表したニュースである。同社は自社インデックスへの中国本土A株の組み入れを検討していたが、これを見送ると発表した。
MSCIは世界の株式市場に影響力を持つ指数会社であり、もし中国本土A株がインデックスに組み入れられれば、世界中から投資マネーが中国マーケットに流れ込むと予想された。
共産党・政府もこの動きを後押ししていたが、MSCIは外国人投資家枠が少ないこと、決済・送金の不便さなどを理由に「時期尚早」という結論を下した。これで組み入れを予想していたポジションが解消された。
もう1つは、6月12日に発表された、中国証券当局による信用取引の規制である。中国の個人投資家は、日本よりずっと短期的・投機的な取引を好む。
証券会社が引き受ける信用取引については、過熱防止の規制も講じられていたが、春以降、ハイレバレッジで株取引をする規制外のオンラインのプラットフォームが人気を博するようになった。この状況に危機感を覚えた当局は、6月12日にこの取引にも網をかける発表をした。
この2つのニュースが、中国の株式市場に冷水を浴びせ、週末をまたいだ6月15日以降、株価は下落トレンドを描き始めたのである。
投機筋に見透かされる中国の為替政策
ただし、マーケットのプロが今、本当に憂慮しているのは、実は株よりも為替の動向である。
株価の下落が続く8月11日、中国政府が突如、人民元の対ドルレートを1.9%引き下げたのは記憶に新しい。その後も3日連続、合計3%程度の引き下げが行われ、為替相場が混乱した。
主要メディアは「輸出回復による景気テコ入れが目的」と報じ、アメリカ議会でも「中国は不当に有利な輸出環境をつくっている」と懸念が表明された。
しかし、この見方は明らかな誤解だ。中国も単一人格ではないから、複数の思惑が交錯することがあるかもしれないが、ことこの措置を実行した当局の意図に関するかぎり、これは「人民元の国際化に向けたステップ」だったと言える。
かねてより中国政府は国際通貨基金(IMF)に、特別引き出し権(SDR)の価値を決める通貨バスケットの一つとして、人民元を採用するよう働きかけてきた。
現在のSDRは、米ドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨から構成される。第5の通貨として人民元が採用されることで、名実ともに、世界経済の中心の地位を獲得したいとの思惑が政府にはある。
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