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第1回は「消費」から読み解く

本当に無欲・淡白・保守的? 今の若者は何を考えているのか

2015/9/15
プロピッカーで電通若者研究部の奈木れい氏が、「消費」「恋愛」「仕事」という3つの切り口から、「欲がない」といわれている若者の本当の“欲”に迫る。果たして、これまでの世代とはどんな意識の違いがあるのだろうか。3日連続全3回。

電通若者研究部・通称ワカモンとは

ピッカーの皆さん、初めまして。第2期プロピッカーをさせていただいております、電通若者研究部の奈木れいと申します。「こいつは一体何者だ?」と思われた方も多いと思うので、連載を始めるにあたり、少し自己紹介させてください。

私は電通若者研究部、通称ワカモンというチームに所属しながら、日々若者の実態研究を中心に、その研究を生かした活動をしています。“若者研究”と聞いてどんなイメージを持たれるでしょうか。

私たちは、高校生、大学生、そして20代社会人を主な対象として、さまざまな切り口で調査を行っています。「イマドキの若者論」的なことから、「就職活動実態」まで、若者とひとくくりにいっても、そのテーマの切り出し方はさまざまです。また、ただ想像で彼らを調査するのではなく、実態に触れながら仮説を生み出していくことを大事にしています。

最低でも月に1度は高校生や大学生に実際に会うことで定性的な情報も取り入れながら、感覚を養い、実感値から仮説を設定しています。

また、ワカモンのメンバーが開発を行ったアプリ「CircleApp」は、2013年にスタートし、現在全国200大学、1600ものサークルに使われており、利用者数は3万人を超えています。

これは大学サークル専用アプリとして開発されました。OB・OGを含めた学年ごとの名簿機能、イベントごとにメンバーの撮影した写真を集約するアルバム機能、企業からの協賛窓口となるオファー機能など、今まであいまいな存在だった「大学サークル」に注目し、社会や企業との新しい関係性をデザインしているウェブサービスです。

プロピッカーとしてコメントをさせていただくようになって、約2カ月。気づいたことがあります。それは、“なぜか若者関連の記事は、ネガティブな内容が多い”ということ。今回初めて気づいたことではありませんが、改めてNewsPicksの中で取り上げられる膨大な記事を見ていても、9割くらいはネガティブな内容であると感じています。

私自身、平成元年生まれのいわゆる「ゆとり世代」に相当する人間です。個人的に、学生時代から「どうしてこんなに若者は叩かれるのだろう」と思いながら社会人になりました。

昔から“若者”はそういうもの──ということかもしれないのですが、それでも「若い人たちって、捨てたものじゃないのではないか」と思い続けてきました。

そうした思いもあって、電通ワカモンでは大事にしていることがあります。それは、「若者と自分たちを切り離し、遠いところから若者を見て考察するのではなく、若者の目線で彼らを捉える」ということです。

私はこれからの社会のメインプレーヤーである若者の思考を読み解き、理解することは、未来につながっていく大事な取り組みだと考えています。あくまで若者サイドに立ち、彼らが考えていることを読み解きながら、未来の可能性を考えていくのです。

若者の欲はどう変わったのか

そんな視点で若者を見ていく中で、気づいたことがあります。そのキーワードは“若者にだって欲はある”ということです。昨今の若者は、「やる気がない、覇気がない、消費意欲がない……」など、基本的に“ないない”世代、なんていわれていますが、私はそうは思いません。

確かに上の世代と比較をしていくと、欲の姿かたちは変わりました。でも、ないわけではありません。どうして欲の姿かたちが変わったのか。それは彼らの成長してきた背景に大きなヒントがあります。

今年ワカモンで実施した調査の中で「自分の将来が明るいと思うか」と質問をしました。結果は高校生、大学生、20代社会人すべての層で、約6割が“不安”と回答し、明るいよりも不安と考えていることがわかりました。

また同時に、「日本の将来が明るいと思うか」と質問したところ、約8割が日本の将来を不安に思っていると答えました。この結果から、自分の将来よりも日本の将来を不安視していることがわかります。

さらにこの調査で注目すべきところは、「日本のことが好きか」という質問には、約9割が“好き”と回答している点です。若者は、今の日本の状況を理解し、不安を感じながらも好きだと思っているのです。

10年、20年前と比較したとき、若者が感じている社会に対する意識は大きく変わってきています。明日はもっといい日が来る、頑張ったらもっと素敵なことが起きる。今の若者はそれが難しい時代だということがわかっているのです。

そういった背景を持ちながら彼らは成長してきた、ということを理解すると少し見方が変わってくるのではないでしょうか。上の世代の皆さんと同じように保有する“欲”。しかし、その在り方は確実に変化しているのです。

この連載では「消費」「恋愛」「仕事」と3つの切り口で、“今”、若者が本当は持っている“欲”について、皆さんにお伝えしていけたらと思います。

データから見た若者の消費意欲

第1回は、彼らの“消費”をテーマにしたいと思います。

「若者×消費」と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。おそらく、「若者の◯◯離れ」といわれているように、若者はおカネを使わないイメージが強いのではないかと思います。実際、国の統計データを見ても、彼らがおカネを保有しているという実態はありません。

たとえば、給与所得者の年間給与推移を見ていくと、2010年の段階で男性は約269万円、女性は約237万円のところ、2012年になると男性は約260万円、女性は約224万円へと減少します(国税庁民間給与実態統計調査)。

また、29歳以下総世帯の月平均消費支出を見ても、2000年の段階で20万5000円だったものが、2014年には17万4000円と約3万円も減少しています。データから見ると、若者が消費できる額には限界があることがわかります。

しかし、「若者に意欲までないのか」と言われると、私たちはそう考えてはいません。

皆さんにとって「消費意欲がある」とはどういうイメージでしょうか。「欲しくて欲しくてしょうがなかった○○」「○○のために貯金を続けてやっと買えた!」というイメージが強いでしょうか。

きっと、とても強い気持ちや熱量で欲するもの=欲しいもの、とこれまでされてきていたと思います。しかし私たちは、若者の“欲しい”という意欲は少し変化したと思っています。

今年、高校生、大学生、20代社会人を対象にワカモンで調査を実施しました。その中で「あなたは今欲しいものがありますか」という質問に対し、「どうしても欲しいものがある」と答えたのは、31.4%。

一方で、「欲しいものはない」と回答したのは13.5%にとどまりました。しかし、ここで注目すべき数値があります。それは、55.1%が「欲しいものはあるが、無理して買うほどではない」と答えたことでした。

先述の通り、私たちは若い人が何かを“欲しい”と感じる欲は変化していると捉えています。今の若者たちの欲は、手の届かなさそうなものを欲するのではなく、買おうと思えば買うことができる、言い換えれば、無理をしない範囲で買うことができるものが欲しい、という点です。彼らにとっては、それが“欲しいもの”という表現になるのです。

このような“欲しい”の捉え方の変化と合わせてもう一つ興味深い傾向があります。それは、ワカモンが2013年に「毎月若者たちが何におカネをかけているか」にフォーカスして実施したオリジナル調査の結果から読み取れます。

ここから、エンタメ費(映画やイベント、アニメ・漫画など)よりも、外食費(飲み会や女子会含む)のほうが、高校生、大学生、20代社会人など全対象者の中で一番支出が大きいことがわかったのです。
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電通「好きなものまるわかり調査」(2013年)より。n=サンプル数。

電通「好きなものまるわかり調査」(2013年)より。n=サンプル数

この結果を受けて私たちが感じたのは、外食費とは言い換えると1人の場面ではなく他者とのコミュニケーションの場への出費と考えられることです。

この傾向を裏付ける発言が、最近大学生たちと会話していた中でも出てきていました。

ある学生に「何におカネをかけているのか」について聞くと、「大事な友達の誕生日だったら、プレゼント代に1万円くらい出しますよ」と答えました。すると、そこにいた10人程度の大学生も全員が同意見で、各自プレゼントに1万円をかけてもいいと思える友人が3、4人いるとのことでした。

社会人である私たちですら、大事な友人の誕生日とはいえども、1万円を出すことに対しては多少のちゅうちょがあります。しかし、彼らは1万円を出し合ってプレゼントを買い、サプライズの準備をし、お祝いするというのです。

友人などとのコミュニケーションに対する向き合い方が変わったことで、消費の仕方が変わったことが調査と実際の声からも見て取れました。

こうした実態を見ると、決して若い人たちは消費意欲がないわけでも、消費活動をしていないわけでもないことがわかります。

彼らの行動をしっかりと捉えることで、彼らの“欲”の在り方の変化が見えてくるのではないでしょうか。

*続きは明日掲載予定です。