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ジーンクエスト代表取締役・高橋祥子氏、NewsPicks×EGG JAPAN共催セミナー講演録

東大発ベンチャー「ゲノム解析、アジアは有望」

2015/9/11
ビッグデータ活用やウエアラブルツールの革新で根本的な変化が訪れようとしているヘルスケア業界。遺伝子解析サービスも、市場はまだ小さいが、サービスは続々登場。中でも、ジーンクエストは東大の研究室を背景とする技術力で注目を集める。東京・丸の内で開催したセミナー「ヘルスケア×データが創るイノベーション」にゲストとして登壇した同社代表取締役の高橋祥子氏は「アジアは有望な市場」と語った。講演の一部を紹介する。

セミナー第2回は「動画配信業界」をテーマに29日に開催します。

研究とサービス、両立で市場を開く

本日は、遺伝子とゲノムに関するお話をしたいと思います。

ゲノムとDNAと遺伝子の違いを理解している一般の方は多くはない現状と認識しているんですけれども、ゲノムというのは、遺伝子の全体という意味の言葉です。このゲノム解析、つまり遺伝子の全体をスキャンする解析という手法を個人向けに初めて展開したというのがジーンクエストです。

ジーンクエスト代表取締役 高橋祥子氏 1988年生まれ。2010年、京都大学農学部卒。2015年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程終了。現在も研究員として在籍。13年6月に同社を起業。DNAチップを使ったゲノム解析によって、生活習慣病などの疾患のリスクや体質の特徴などに関するゲノム情報を知らせるサービスを展開している。

高橋祥子
ジーンクエスト代表取締役
1988年生まれ。2010年京都大学農学部卒。2015年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程終了。現在も研究員として在籍。2013年6月に同社を起業。DNAチップを使ったゲノム解析によって、生活習慣病などの疾患のリスクや体質の特徴などに関するゲノム情報を知らせるサービスを展開している

ジーンクエストは、2013年6月に立ち上げたばかりのベンチャー企業です。私はもともと、東大で遺伝子の大規模な解析を活用した研究をしていました。ゲノム研究には、たくさんの人を巻き込まないとならず、たとえば1万人のゲノムデータを集めようと思うと、研究費で5億円ぐらい必要になります。

それを研究費として獲得するのは現実的ではありません。そこで、研究成果を活用してサービスをつくることで研究成果を社会に還元し、そのサービスを使ってもらうことで、ゲノムデータを蓄積して、研究が加速していくという大きな仕組みをつくらないと、この分野は発展しないという思いで会社を立ち上げました。

大学だけではサービス展開はできないので、会社というかたちでサービスと研究を組み合わせて起業しました。

解析できる項目は約290項目で、4万9800円で提供しています。健康リスクと体質が中心です。たとえば、「緑内障のリスクが人よりも少し高め」という場合、そのことをお伝えすると同時に、緑内障とはそもそも何かという説明や、予防のために何ができるかという情報を提供しています。

サービスを通じて遺伝的なリスクがわかると、病気になった後に治療するのではなく、予防的な行動をとることが可能になります。

計算のもとになった論文や科学的な根拠もすべて開示するようにしています。また、世界中で毎日新しい論文が出ているので、遺伝子解析を一度受けていただくだけで、新しい論文が出るたび、「腎臓の機能に関する項目が追加になりました」といった最新のアップデート情報が毎月送られてくるのが特徴です。

欧米に遅れながらも日本でも制度づくり

個人が自分のゲノム情報を自ら知る時代を「パーソナルゲノム時代」と呼びますが、パーソナルゲノム時代がもたらすメリットというのは、たとえばオーダーメード医療の実現です。

今、皆さんに同じ治療法を提供しているところを一人ひとりの体質、一人ひとりの遺伝子に合わせた最適な医療を実現していくことや、疾患リスクを事前に知ることで病気になることを回避する。そういうところがパーソナルゲノム時代のメリットと言われています。

一方で、まだ倫理的な基盤が整っていない状況もあります。たとえば、知ることのリスク。冒頭でゲノムと遺伝子とDNAの違いもあまり知られていないと話しましたが、私たち日本人は義務教育でヒトの遺伝子について充分に習うことがないので、遺伝子を知ることがどういうことなのかよくわかっていない人が多いのが現状です。

たとえば、がんのリスクが高いという情報が出てきたときに、ものすごくショックを受けてしまう人が出てくる。そういう精神的な負担がかかるところがリスクだと言われています。

ただ、実際は、私たちが直接提供しているような種類のがんの発症には、遺伝的要因と環境要因との両方が寄与しますので、遺伝的な要因が高いからといって必ずしも発症するわけではなく、あくまで「リスク」という概念であるということです。

また、差別の助長も懸念されています。たとえばアメリカで起こった事例では、「疾病のリスクが高いという解析結果が出たことで、保険の加入を拒否された」「会社の人事に遺伝子情報が使われてしまった」などがあり、遺伝子情報に基づいた差別が起こるのではないかと言われています。

海外、特に欧米では、遺伝子差別禁止法のような法律で規制されている国がありますが、日本ではまだ整っていないので、今、国が法的規制の検討委員会をつくって検討されているところです。

遺伝子検査ビジネスのサービスの質は非常に玉石混交であるとも言われていて、科学的な根拠の基準なく提供している会社も中には出てきている状況です。

そこで、今、個人遺伝情報取扱協議会が経産省の支援の下、遺伝子ビジネスの認定制度というのをつくり始めています。分析の質の担保や情報提供の仕方が適切であるかについて、ルールを事前につくることで、適切な市場をつくっていこうという取り組みです。

これから拡大していくマーケットであると言われていますが、乗り越えるべきさまざまな課題があるというのも現状です。

アジアは有望。ゲノムデータをどう活用するかが焦点

市場規模ですが、今はまだまだ非医療の一般向け遺伝子検査ビジネスというのは始まったばかりで、まだ国内では数十億の規模と想定されます。とはいえ急速に拡大していて、今後さらに拡大していくだろうといわれています。

特にアメリカでは先行して、すでに大きな市場となっていますが、まだまだ未開拓のアジアでは、プレーヤーがいない状況で、人口増加が起きていることも考えると、今後、アジアで遺伝子関連のデータビジネスが拡大すると言われています。

遺伝子検査といってもいくつかあり、たとえば一つひとつの遺伝子情報について、その配列を出す、データを抽出するプレーヤーと、出てきたDNAのビッグデータの解析をするプレーヤーがいます。

前者は、技術としてコモディティ化が進んでおり、日本でもいくつもの受託分析会社があります。

一方、ゲノムというビッグデータをとって、解析をしていくというプレーヤーはまだ少ないというのが現状です。これは世界的に見ても、プレーヤーは、数えるほどに限られています。

国内市場で見ると、たとえば化粧品会社さんなどの遺伝子検査は、たとえばダイエット関連の2、3個の遺伝子を抽出して、その後の化粧品や、サプリメントを提供することで、物販でマネタイズしていくというモデルです。

私たちが行っているのは、ゲノムの大規模なデータを収集して、それを活用していくものです。海外では、大規模解析の会社も「23andMe(23アンドミー)」などいくつもありましたが、遺伝的な背景が違うので、そのまま海外のデータを適用することはできません。

日本やアジアでは、ここのスペースというのがまだ空いていたというところで、今でもまだ少ないという状況です。

課題はゲノムデータをどう生かしていくか

今後、大規模なデータを使って何をしていくのかというところですが、遺伝子解析キットの販売によって蓄積されたゲノムデータを活用して、創薬研究などの研究に生かしていくということを考えています。

海外の事例では、消費者向けの遺伝子検査サービスで蓄積されたデータに基づいて製薬企業が研究をする事例が実際に出てきています。たとえばパーキンソン病や、炎症性腸疾患の研究などの分野で、創薬に役立ち、ビジネスが成り立つケースが出てきています。

遺伝子データは創薬研究だけではなく、今後たとえば食品、フィットネス、栄養やスキンケアなど、あらゆる既存市場のヘルスケアサービスの最適化に活用されていくだろうと言われています。

このように、遺伝子研究からわかったことをサービスに生かす、社会に還元していくとともに、サービスで使ってもらうことで、さらに研究を加速していくという、研究とサービスからシナジーを創出する壮大なサイクルをつくっていこうとしています。

(構成:福田滉平、撮影:福田俊介)

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