ドコモ・ヘルスケアの佐近康隆氏、NewsPicks×EGG JAPAN共催セミナー講演録
モバイルヘルスケア、儲かるレイヤーはどこか
2015/9/10
テクノロジーの進化で大きく変わろうとしているヘルスケア業界。アップルはヘルスケアに力を入れ、グーグルも血糖値を測れるコンタクトレンズを発表、Fitbitなどのウエアラブルツールも次々登場する。海外勢の動きが加速する中、国内企業はどう戦うべきか。東京・丸の内で「ゲーム・チェンジャー」をテーマに開催している連続セミナーの第1回「ヘルスケア×データが創るイノベーション」から、ドコモ・ヘルスケアの佐近康隆氏の講演を紹介します。
※セミナー第2回は「動画配信業界」をテーマに29日に開催します。
年間の医療費増大は1兆6000億円、新国立6個分
今日のテーマは「モバイルヘルスケアサービスの可能性」です。結論から言うと、モバイルヘルスケアサービスには世の中を変えるインパクトがあると思います。ただし、自分たちが儲かるかどうかは、自社の強みを生かしたビジネスモデルを構築できるかによると思います。なぜそう考えるのか、3つのパートに分けて話していこうと思います。
1つ目のパートは、モバイルヘルスケアの市場環境です。2つ目は、モバイルヘルスケアのビジネスモデルについて。最後に、NTTドコモとオムロン ヘルスケアのジョイントベンチャーであるドコモ・ヘルスケアはどんなサービスを提供しているかです。
まず、市場環境についてです。日本の国民医療費はうなぎ上りで、今年で45兆円になります。厚労省によると、10年後には61兆円になるとされており、毎年1兆6000億円ずつ上がるとされています。これは、今話題の新国立競技場が毎年6個造れるくらいインパクトのある話です。逆に言うと、1%改善するだけで何千億円と医療費を削減できる。
医療費の内訳を見ると、約3分の1が生活習慣病関係です。生活習慣病というのは、ぐうたらに生活しているとだんだん進行し、あるとき、滝を落ちるように状態が悪化する。
その医療費増大に対し、モバイルはどう貢献できるか。急激に症状が悪化する前の、健康増進や予防の領域ではないかと思っています。モバイルがほかの機器やサービスと連携し、医療従事者の代わりに、生活者個人に身体の状態を教えてあげて、生活習慣病になるのを防ぐという部分です。
スマホが普及したおかげで、クラウドにデータをアップロードできる健康機器が次々と出てきています。昔から、Wi-Fiでつながるとか、3Gを組み込んでデータが自動でアップロードされたり、USBにつなぐとPC経由でデータがアップロードされたりといった機器はあったのですが、BLE(Bluetooth Low Energy)が搭載されたスマホの普及によって、クラウドにつなげる機器側のコストがすごく安くなったことが背景にあります。
また、アップルやグーグルがスマホのアプリケーションをプラットフォームごと提供し始めていて、ほかの事業者がサービスをつくりやすい環境もでき始めています。
3つのレイヤー、どこが儲かるか
そうした中、儲けたいなら、どんなビジネスモデルにするか。サービス、プラットフォーム、健康機器の3つのレイヤーに分けたとき、自分たちはどういうつくりで、どのレイヤーを組み合わせてソューションをつくるか。ちゃんと考えないと、「つくりやすいビジネスモデルだが儲からない」という事態になりがちです。
一番簡単なのは、サービスのレイヤーで何かつくる、サービス単体です。左から2番目は、プラットフォームのレイヤーです。
アップルの「ヘルスキット」に入るような定型的なデータをただためるのではなく、もう少しサービス寄りの、上のレイヤーで、ユニークなデータを解析し、また予測して価値をつけるようなテクノロジーです。
今はあまり実例がないですが、自社や他社のサービスに生かしていくものです。個人的には、このレイヤーの価値を高めることが一番面白いなと思っています。
3つ目は、機器だけのレイヤーです。ただ、アップルのヘルスキットや、グーグルの「Google Fit」などに入る定型的なデータをアップロードするだけの機器では、どんどんコモディティ化してしまうので、もし機器側の新しいビジネスをやりたいなら、プラットフォームレイヤーまで自分でちゃんと持って、自分のユニークなデータをオープンに提供してエコシステムを構築するビジネスをしないと、多分成り立たないと思います。
一番右は、それらをさらに一気通貫して、サービスから機器までやると。そこまですればマネタイズはしやすいのかなと思っています。
高単価ニッチモデルか、無料マスモデルか
サービスをつくるときには大きく2パターンがあります。売り上げがどう分解できるかで、縦を人数、横を単価に分けました。
1つは、上に伸びる無料のサービス。ここでは、広告モデルが収益の中心にあるので、ユーザーが10万人では全然ダメで、100万人を超えると追えるビジネスモデルです。
一方、右側の方向に伸びるようなかたちで、ニッチな市場ですが、単価を高く設定できるモデルがあります。そこをどんどん突き詰めていくと、会員制のクラブモデルで、値段は高いけど、なんでもしてあげるようなモデル。
大きくこの2つの方向があって、何も前提がないと、右側のニッチのほうがマネタイズはうまくいくんじゃないかと思います。あるニッチな市場をちゃんと独占するみたいなことができるほうが儲かると思います。
一方で、もともとモバイルの世界では月額数百円のモデルがよくありました。モバイルヘルスケアの領域で、仮にそういうのができると、保険モデルや、歩くごとにポイントをあげるようなポイント型のモデルも可能になると思います。
ただ、サービス対象者は多いがニーズが薄いと、いかに利用を始めてもらうか、またいかに利用を継続してもらうかが課題になります。
保険会社やNPOとのアライアンスを生かして多様なビジネスに
そうした課題に対し、ドコモ・ヘルスケアでは、親会社であるNTTドコモの強みを生かし、NTTドコモの会員基盤や課金決済基盤、ポイント基盤などを使って、ユーザーの獲得とリテンションに効果があるように進めていこうとしています。
具体的なサービスとして、女性向けに「カラダのキモチ」という有料サービスを提供しています。女性の体調のリズムから、その日の気分や体調、季節に合わせた美容・健康の豊富なアドバイスを提供するサービスです。
特徴は、基礎体温や月経周期のデータ解析で異常があった場合に、婦人科の受診をお勧めする点です。受診した場合にはお見舞金を支払う。
対応機器である婦人用体温計と、データ解析のアルゴリズムは、親会社であるオムロン ヘルスケアが提供。保険のようなお見舞金支払いのスキームは、東京海上日動火災保険とのアライアンスで実現しているサービスです。
基礎体温計測のメリットは、ターゲットである20~30代女性の中でもまだ十分に知られていませんので、「めざめ体温習慣」という名称で啓発活動も行っています。
ほかに、予防接種スケジューラーというママ向けの無料アプリの開発も行っています。子どもが生まれると、0〜1歳までの間に10~16本くらい予防接種を受けなきゃいけない。
それをうまくスケジューリングすることは、0歳児の母親にとって共通のニーズです。今、このアプリは、毎月約2万ダウンロードされています。子どもは年間約100万人生まれているので、0歳児の母親の4、5人に1人がダウンロードするアプリになっています。
このサービスは、小児科の先生が約1000人所属するNPOとアライアンスを組んで、NPOのサービスとして出しています。そうすることによって、ワクチン接種の啓発をしたいお医者さんのニーズにも応えられ、普及しやすい仕掛けになっています。
利用者が広がっているので、マネタイズにチャレンジし始めています。1つはアプリ内広告です。もう1つは、予防接種の接種記録のデータが次々と蓄積されるので、地域ごとの接種率の違いや、変化を追った解析データをワクチンのメーカーに販売し始めています。
予防接種というのは補助金、助成金があるかないかで接種率がたいぶ変わるので、それらのあるなしでの接種率の違いなども、分析していこうと考えております。
今、ドコモ・ヘルスケアのプラットフォーム全体で登録会員数が約190万人になっているので、その会員基盤や蓄積データを生かしながら、プラットフォームとしてのビジネスもしていきたいと思っています。
BtoCサービスを磨き上げつつ、広告やデータ解析、従業員向け健康管理支援などでほかの企業パートナーともBtoBtoCのビジネスモデルで組んでいきたいと思っています。
(構成:福田滉平、撮影:福田俊介)
*続きは明日掲載予定です。