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要約で読む『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』

「女性の活躍推進」、成功と失敗の境目はどこにあるか

2015/8/31
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。毎週月曜日は「10分で読めるビジネス書要約」と題して、今、読むべきビジネス書の要約を紹介する。
今回取り上げるのは、日経BPヒット総合研究所長・麓幸子氏の『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』。今月28日、女性管理職の割合に数値目標の設定を義務付ける「女性活躍推進法」が成立したが、女性の登用が後手に回っている大企業も多い。仕事量が増す中、女性社員の離職を防ぐためには何が必要か。女性管理職を増やすために効果的な施策とは。先進各社の実践事例を紹介する。

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ダイバーシティマネジメントと組織の変革

女性の活躍の場を増やすには?

ダイバーシティマネジメントとは、多様な属性や価値観などを持った人材あるいは人材の多様性を生かせる組織の構築を目指すことだ。その目的は、企業経営の活力や創造性を高めることである。

日本企業は、「日本人、男性、フルタイム勤務、残業可能、転勤可能」である人材を「適材」として、人材活用の仕組みがつくられている。そのため、「適材」に該当しない社員は能力開発や能力発揮の機会を与えられない。「適材」に該当する人が減少する今、女性や時間・勤務地の制約がある人材、多様なライフスタイルを選択している人材が活躍できる組織への改革が不可欠になっている。

2013年6月に閣議決定された成長戦略では、「女性の活躍推進」が打ち出された。「指導的地位(民間企業では課長相当職以上)に女性が占める割合を、2020年までに少なくとも30%とする」という政府目標と、企業の現状には、大きな乖離がある。

目標達成のためには、企業総覧に管理職数が男女ともに記載された814社に絞っても、2020年までに2012年の約6倍の女性管理職を育成、登用しなければならない。しかし、女性管理職登用の現状は企業ごとに大きく異なるため、一律にすべての企業が上記の目標を達成することは厳しいだろう。

そこで、自社の女性活躍の現状を踏まえ、女性の採用に加え、担当職、主任、課長などの各キャリア段階での女性の定着、育成を積極的に進めることが重要である。

重要なのはトップのコミットメント

企業が女性の活躍を推進する際、何よりも重要なのは、女性活躍の重要性を組織のメンバーで共有することである。トップがこの問題に強くコミットし、その姿勢を明確に発信することが不可欠だ。

たとえば、ダイバーシティ経営を進めている日産自動車では、カルロス・ゴーンCEOが、行動指針や人事評価、人材配置にもダイバーシティの概念を組み込み、その価値を組織に浸透させてきた。人事戦略に関わる取り組みは、トップの強力なリーダーシップの下、トップダウンで進めることがカギである。

そのうえで、女性の就業意欲を向上させる取り組み(意欲向上策)と、就業継続が可能な働き方への変革を進めること(両立支援策)を「車の両輪」として同時に進めていかなければならない。

働き方改革の推進を

女性が管理職に登用されない背景には、女性が昇進を望まないという実態がある。それは、管理職になると「男性並みの働き方」が要求されるという現状があるからだ。現に、育児休業制度や短時間勤務制度の利用者には、責任のある仕事を任せにくい、異動をさせにくいということで、キャリア形成にマイナスの影響が及び、女性本人も仕事へのモチベーションが低下してしまうという例は多い。

女性の活躍推進のためには、男性正社員の働き方そのものを問い直すことが重要な課題となる。長時間労働を前提とした日本の働き方を変えないことには、育児や介護責任を担う従業員や、個人のライフスタイルを重視する外国人にとっても魅力ある職場にはなり得ない。

また、長時間労働を評価または容認する風土があると、働く人のモチベーションや生産性は低くなる。さらには、非効率な業務遂行プロセスに対する課題認識が甘くなり、無駄なコストがかかってしまう。

育児・介護休業などの特別な制度に過度に依存しなくても活躍できるような組織を築くには、恒常的な長時間労働の是正と、フレックス勤務や短時間勤務などの柔軟な働き方の実現が必要である。

先進企業のダイバーシティ施策とその効果

資生堂:「一人別育成計画票」で育成を支援

2014年の日経ウーマン「企業の女性活用度調査」で1位の座に輝いた資生堂は、社員の約8割が女性で、ユーザーの9割が女性であることから、女性の活躍推進の重要性を深く認識している。

2005年から本格始動した女性活躍支援においては、「仕事と育児を両立しながら仕事を続けられる(働きやすい)」から、「活躍できる、キャリアアップし続けられる(働きがいがある)」というフェーズへ移行してきた。

女性リーダー任用と人材育成強化を進めるために、社員一人ひとりの進路希望や強み、中長期的な育成計画などを記載した育成シートである「一人別育成計画票」を活用している。

この計画票からリストアップしたリーダー候補者を、部門のプロジェクトリーダーに任用し、OJTを通じてリーダーへ育成していくのだ。また、美容職の視点を経営に生かすべく、現場で経験を積んだ美容職が本社などの管理職に就くキャリアパスを新設した。

人材育成を研修の面から支えているのは、資生堂の企業内大学「エコール資生堂」だ。プロフェッショナル人材の育成を目標に、業務と対応した10学部を設けている。2012年からは、eラーニングの導入によって、自宅のパソコンやスマートフォンからも講義を受講できるようになったため、育休者の復職前のスキルアップにも一役買っているという。

セブン&アイ:女性と管理職の意識改革

セブン&アイ・ホールディングスは、経営トップの強いコミットメントにより、2013年には女性役員比率を13%へ押し上げ、この数年は毎年、女性役員を輩出している。女性の戦力化により、店舗運営や商品開発に女性視点が生かされ、お客さまの満足度向上、売上拡大、ひいては企業の成長につながるという好循環が生まれているのだ。

同社は、女性活躍推進のためには、(1)女性の意識改革、(2)制度運用の見直し、(3)管理職の意識改革の3つが必要だと定義した。

(1)については、女性の仕事継続への意欲向上と、相談できるネットワーク構築を目的とするコミュニティを2012年からスタートさせた。また、育休復職者には、復職の不安解消とキャリア向上意識の醸成のためにオリエンテーションを実施している。活躍する時短勤務者を紹介したDVDを、復職者の上司にも視聴させることで、育児中の社員に対する理解を促す効果が得られている。

(3)の管理職の意識改革は2014年の重点課題である。上司向けハンドブックや社内報の活用、管理職向けの「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」を通じて、ダイバーシティそのものの理解や制度の周知徹底が始まっている。また、管理職を含む全社員に男性の育児参加を伝える「イクメン推進プログラム」は、多様性を受け入れる風土の醸成や、働き方の見直しにつながっている。今後は、2016年2月までに女性管理職比率30%を目指していくという。

損保ジャパン:女性経営塾で昇進意欲を喚起

旧・損保ジャパンのダイバーシティ推進のフェーズは、2010年に「働きやすい会社」から「働きがい」へと移行した。経営トップは「女性活躍推進は経営戦略である」と全社員に、初年度で100回以上メッセージを発信したという。

ボトムアップの活動として立ち上がった「ダイバーシティ推進グループ」は、2010年から11年にかけて、女性社員の大多数を占めるエリア社員(一定の地域で働く社員)に大規模なヒアリングを実施した。

面談の結果、「今後のキャリアが描けない」という女性は5割に上り、「管理職を目指したい」という女性は3割にとどまっているという実態が明らかになった。そこで、女性社員のキャリアアップを後押しするために、課長クラスを対象とした「女性経営塾」や、係長クラスを対象にした「プレ女性経営塾」が始まった。

「女性経営塾」では、受講者を指名し、幹部人材になる覚悟と自信を植えつけるために、2泊3日の研修を年6回開催する。受講者からは「マネジメントが事業を推進するうえで価値ある仕事だと痛感した」という前向きな感想が寄せられている。実際に、受講者から部長2人と、グループ会社の役員1人が誕生しているのは大きな成果だ。

カルビー:トップ主導のダイバーシティ革命

ダイバーシティ推進の旗振り役である松本晃会長兼CEOは、株式公開を進めていた就任当時、開かれた会社であることを市場に示すには、ダイバーシティの面でも明確な姿勢を打ち出すことが重要だと判断し、トップ直轄のダイバーシティ委員会を発足させた。

委員会は、社員にダイバーシティの理解を促すために、全国各地の女性を集めた「ダイバーシティ・フォーラム」を開催し、かなりの盛り上がりをみせた。そして、女性限定キャリア支援セミナーの開催や、女性管理職の交流の場の設置が進んだ。

2012年には、自らチャレンジする社員を積極的に支援するために「キャリアチャレンジ制度」が設けられた。社員が自らの成果をもとに希望する役職、部署への異動を申告することや、海外研修に挑戦することを後押ししている。

2013年には、女性活躍を象徴するように、3名の女性執行役員が誕生した。そのうち、中日本事業本部長に就任した福山氏は、短時間勤務中のワーキングマザーである。時間の有効活用を常に問われた結果、意思決定に要する時間が短くなったという。

2014年現在、女性管理職は2010年に比べてほぼ3倍になった。女性管理職の存在が目立つようになるにつれ、女性社員から「仕事が面白くなった」という声が上がり、会社の業績が右肩上がりで伸びるようになった。トップ主導で始まったダイバーシティ革命が、女性たちの共感を得て、大きく広がっている。この本を友達にオススメする。
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要約で取り上げた先進企業の事例は、本書のほんの一部である。ほかの事例については、ぜひ本書を参照されたい。また、本書の「女性管理職を増やすために組織が実行すべき5つの施策とは」には、女性活躍推進に役立つアドバイスが紹介されており、一読に値する。

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<提供元>
本の要約サイトflier(フライヤー)
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