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【第13話】U18ワールドカップリポート

清宮幸太郎が示す、スーパースターへの2つの可能性

2015/8/29

野球のU18ワールドカップを取材するため、8月26日から大阪に来ている。改めて感じているのが、高校野球人気の高さだ。

NPBエンタープライズの事業部兼広報部の加藤謙次郎氏によると、20日にU18日本代表が発表された際、侍ジャパンのホームページは160万PVを記録。それ以降も、毎日80万PVをたたき出している。SNSからの流入よりも、ユーザーが自ら検索してたどり着くケースが多く見られるという。ちなみに昨年11月、トップチームが日米野球を戦ったときには月間1000万PVを記録したが、それを上回るペースのようだ。

「プロより高校生の人気が高くて、果たしていいのでしょうか」

あるプロ野球関係者がそうこぼすほど、現在の高校野球人気はすさまじい。全国47都道府県からそれぞれ代表が選ばれる夏の甲子園大会は、すべてのファンが「自分のチーム」に感情移入することができる。そうした地盤に加え、現場で感じるのはスーパースターをつくり出そうというメディアや周囲の空気だ。

大学日本代表戦は4番で出場

その主役が、スーパー1年生の清宮幸太郎(早稲田実業)。4月に発表された第1次候補には入っておらず、今夏の活躍で選ばれた格好だ。そして西谷浩一監督は、清宮の飛躍を起用で後押ししている。26日に壮行試合として行われた大学日本代表戦で、4番で先発出場させたのである。

「状態も上がってきていましたし、ほかのバッターのことも考えて。彼にはいいところで回ってくるというか、打順の巡りを考えて、今日は4番がいいんじゃないかなと思いました」

筆者は清宮の父で、ジャパンラグビートップリーグのヤマハ発動機ジュビロを率いる克幸を取材したことが1度ある。最も印象に残ったのが、猛烈な威圧感だ。あれほどまで聞き手として品定めされている感覚を持ったのは、野村克也氏以来のことだった。

清宮幸太郎の言動を見ていると、そんな父親のメンタリティを確かに引き継いでいることがよくわかる。首脳陣の期待をプレッシャーに感じず、むしろ力に変えているのだ。

壮行試合で4番に抜てきされたことについて、清宮はこう話した。

「前の練習試合で5番を打たせていただいて、でも全然打てなかったんですけど。今日はどんな打順になってしまうのかなという不安もあったんですけど、4番と言っていただいて、逆に吹っ切れたというか、燃えるというか。4番はチームの中心なので、打線を引っ張ってやるぞという気持ちが出ました」

 清宮幸太郎(きよみや・こうたろう) 1999年5月東京都生まれ。ラグビー元日本代表で、早稲田大学ラグビー蹴球部を率いた清宮克幸の息子として生まれる。小4まではラグビーもプレーし、以降は野球一本に。2012年夏、東京北砂リトルの一員として中学1年でリトルリーグ世界選手権に出場し、5試合で打率6割6分7厘、3本塁打で世界一の立役者になった。早稲田実業に進んだ2015年夏には甲子園大会に出場し、5試合で打率4割7分4厘、2本塁打。同年U18W杯に出場する日本代表では、唯一3年生以外から選ばれている(写真:SAMURAI JAPAN via Getty Images)

清宮幸太郎(きよみや・こうたろう)
1999年5月東京都生まれ。ラグビー元日本代表で、早稲田大学ラグビー蹴球部を率いた清宮克幸の息子として生まれる。小学4年生まではラグビーもプレーし、以降は野球一本に。2012年夏、東京北砂リトルの一員として中学1年でリトルリーグ世界選手権に出場し、5試合で打率6割6分7厘、3本塁打で世界一の立役者になった。早稲田実業に進んだ2015年夏には甲子園大会に出場し、5試合で打率4割7分4厘、2本塁打。同年U18W杯に出場する日本代表では、唯一3年生以外から選ばれている(写真:SAMURAI JAPAN via Getty Images)

大学生No.1投手からセンター前安打

その言葉通り、いきなり結果を残した。大学日本代表との壮行試合では初回、2死3塁で打席が回ってきた。相手の先発投手は最速155キロを誇り、来年のドラフトの目玉として注目を集めている田中正義(創価大学)。

先頭打者のオコエ瑠偉(関東第一)は153キロ、152キロ、153キロのストレートに1度も手を出せないまま見逃し三振を喫し、続く篠原涼(敦賀気比)も153キロのストレートで空振り三振に切って取られた。3番の平沢大河(仙台育英)はライト前に弾き返し、相手エラーが絡んで2死3塁で清宮に打順が巡ってきた。

「前の篠原さんに『大丈夫だ、当たるぞ』と声を掛けていただいて。それで楽に入ることができて。田中さんが真っすぐ勝負できてくれていたので、真っすぐに絞って。球に押されて詰まっていたんですけど、いいところに飛んでくれました」

田中の投じた3球目、148キロのストレートが真ん中に甘く入ると、清宮はセンター前に運んだ。この打席についてのコメントがまた、負けん気の強さを表している。

「4番ということで打線の中心としてやっていかなければいけない中、最初にチャンスで回ってきたので。初回に先制されていたので、これで流れを変えてやろうという気持ちで打席に立ちました」

シチュエーションをすべて力に変えて、結果を出してみせたのだ。

木製バットを操り、視線はすでに3年後

さらに、木製バットへの対応も評価されている。普段使っている金属バットの特徴を簡単に言えば、スイートスポットが広く、バットの反発力が高いため、ボールに力を伝えやすい。一方、木製バットは芯に当てなければボールがなかなか飛ばず、強い打球を打ちたい場合、インサイドアウト(バットを内側から出していくこと)のスイングが不可欠になる。

清宮は木製バットへの適応について聞かれると、こう答えた。

「日本代表に入ってからずっと言っていますけど、木製だからとか、金属だからということで自分のスタイルを変えると、全然打てないと思うので。木だろうが、金属だろうが、自分のかたちを崩さずに、しっかり振っています」

たとえばオコエは、木製への適応に苦しむかもしれない。スイングの最後で手打ちのようなかたちになっており、身体から生み出してきた力がうまくボールに伝わっていないからだ。

一方、清宮は木製バットでもうまく力をボールにぶつけている。その証拠に、詰まってもセンター前に運べた理由について、「しっかり振れたのはあります」と振り返っている。清宮はすでに木製バットを使う3年後、つまりプロの舞台を見据え、スイングのかたちをつくっているのだ。

打線の中心として、日本初の世界一へ

「日本の4番ということで、ああいう場面で1本出るのは自分にとっていいことです」

そう話した清宮は、U18W杯に向けて意気込みをこう語った。

「打線の中心を任されたいと思っているので、任されたからには結果で応えて、しっかりチームのために打点を稼いで。最終的には世界一になれればいいなと思っています」

この夏にさっそうと現れたスーパー1年生は、周囲の期待を力に変えて、どこまでステップアップしていくのか。盛り上がる周囲の喧騒(けんそう)に取材者として身を置いてみると、スーパースター候補の出現にワクワクさせられる理由がよく伝わってくる。

(取材・文:中島大輔)

<連載「侍ジャパンRe:birth」概要>
プロとアマ、セ・リーグとパ・リーグなど、一つになり切れていない野球界を結束させる存在として誕生した「侍ジャパン」。さまざまなステクホルダーが存在する野球界において、侍ジャパンの担う役割は単なる代表チームではない。野球人気低下、競技人口減少という深刻な問題に対処すべく、球界の英知を結集させたプロジェクトだ。国内マーケットの拡大、そして世界市場に打って出ようとする侍ジャパンの取り組みについて、毎週土曜日にリポートする。