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カギを握る「ビッグプレーヤー」と「新興メディア」

日経のFT買収は序章。グローバルなメディア再編が始まる

2015/8/23
日本と世界のメディア界に衝撃を与えた、日本経済新聞社によるフィナンシャル・タイムズ(FT)の買収。この買収は、日本メディアによる世界進出という視点だけでなく、グローバルなメディアの再編という面からも興味深い。日経・FT、読売、朝日、ニューヨーク・タイムズ、ブルームバーグなどの大手メディア。そして、Web領域で勃興するQuartz(クオーツ)、ビジネス・インサイダー、バズフィードなどの新興メディア。大きく変貌しつつあるグローバルメディアの過去と今と未来を追う。

日本がメディア再編の震源地となる可能性

「日本経済新聞社がフィナンシャル・タイムズ(FT)を買収」

「英エコノミストがオーナー交代」

「米NBCユニバーサルがバズフィードとヴォックスメディアに出資」

「バズフィードがヤフージャパンと提携して日本進出」

「ニューヨーク・タイムズのデジタル有料購読者数が100万人突破」

世界のメディア業界が揺れている。今年の7、8月だけでも、数多くのビッグニュースが飛び込んできた。

メディアの新潮流は、世界から“分離されている”と思われている日本とも無縁ではない。むしろ日本が変化の震源地となる可能性すらある。それを示したのが、日本経済新聞社によるフィナンシャル・タイムズ(FT)の買収だった。

では、なぜ日本が震源地となりうるのか。

答えは単純。新聞社を筆頭に、日本の大手メディアは規模が大きく、資金をふんだんに有する一方、改革の必要性がもっとも高いからだ。世界のメディアの潮流から5〜10年は遅れている日本のメディアにとって、時間とノウハウを買うためにも、世界のメディアとの提携や買収は有力な策となりうる。

以下の図には、世界の有力な新聞社・通信社の売上高を記している。
 grp_世界と日本の新聞・通信社の売上高 (1)

トムソン・ロイター、ブルームバーグは、法人向けの情報提供サービスなどの売上高を含むため、規模が突出して大きい。ただ、純粋なニュース事業だけでみれば、日本の新聞社の規模は世界でも非常に大きいことがわかる。たとえば、読売新聞、朝日新聞の売上高は、ニューヨーク・タイムズの売上高の、それぞれ3倍超、2倍超となっている。

「新聞離れ」が叫ばれているとは言え、日本の新聞社の衰退スピードは、海外の新聞社に比べればゆるやかだ。とくに、電子版の有料会員が40万人を超す日経新聞の業績を見ると、安定した数字を残している。
 grp_日経新聞の業績推移

しかも、大手新聞社は財務力という点でも秀でている。自己資本比率は、朝日は56.2%(2014年3月時点)、日経は62.9%(2014年12月時点)に上る。

ただし、これらの数字は、あくまで現時点のものであり、未来がこれまでの延長線上で進むわけではない。消費税増税、団塊世代の退職など、どこかのタイミングで、部数の大幅な減少に見舞われるおそれもある。

海外メディアの大型買収のトップバッターは日経新聞となったが、今後、紙の購読者数と広告がさらに落ち込む中で、読売、朝日の両社も、国内外のM&Aに活路を見出す可能性はあるだろう。

3つのグループが入り乱れる構図に

大雑把に言えば、今のメディア業界には3つのプレーヤーがいる。「遅れてきたビッグプレーヤー」と「改革トップランナー」と「デジタルネイティブの新興メディア」の3グループだ。

「遅れてきたビッグプレーヤー」とは、日本の新聞社や、各国の大手メディアなどを指す。たとえば、米NBCユニバーサルによるバズフィードやヴォックスメディアへの出資は、テレビをあまり見なくなった「ミレニアルズ世代(2000年前後に成人を迎えた世代)」にリーチするための、大手メディアの打開策と言える。

「改革トップランナー」とは、ニューヨーク・タイムズ、FT、ガーディアンなど、伝統的メディアの中で、積極的に改革に取り組んできたプレーヤーを指す。デジタル化にいち早く取り組み、成長を続けるブルームバーグもこのグループに入る。

最後に、「デジタルネイティブの新興メディア」は、ハフィントンポスト、バズフィード、ビジネスインサイダー、ヴォックスメディア、アップワーシーなど、ソーシャルやデジタルの流れの中で生まれ、存在感を増している新興メディアを指す。

以下の表には、米国におけるオンラインニュースメディアのユニークビジター数トップ30を記しているが、これを見ると、3つのグループが入り乱れていることがわかるだろう。
 grp_ニュースメディアtop30

今後は、この3つのグループが、ときに協調し、ときに競争しながら、再編を繰り返していくはずだ(もちろん、ネット企業など、どのグループに属しない異業種からの参入もありうる)。

とくに、注視すべきは、「遅れてきたビッグプレーヤー」がどこに金を投じるかと、「デジタルネイティブの新興メディア」がどれくらいのスピードで成長し、どのような“次の一手”を打つかである。

FTを凌駕する、バズフィードの企業価値

いよいよ、本格的な再編の時代に突入する世界のメディア業界。本特集では、「再編の行方」を占うべく、メディア業界の新潮流をたどるとともに、再編のカギを握るプレーヤーたちの戦略に迫っていく。

【Vol.1】 では、メディアの新潮流をおさらいする。2000年代にメディアに訪れた変化を、「ブログ」「ソーシャル」「モバイル」などの切り口から、インフォグラフィックで描く。

次に【Vol.2〜4】では、日経新聞によるFT買収をテーマにして、FTの全貌をスライドストーリーでたどるとともに、今回の買収の評価と課題を、元日経新聞記者で『不思議の国のM&A』などの著者があるジャーナリストの牧野洋氏と、世界のメディア関係者たちに聞く。

【Vol.5】【Vol.6】では、「改革トップランナー」に位置づけられる、ブルームバーグとニューヨーク・タイムズについてのレポートを掲載する。

ブルームバーグは、オーナーのマイケル・ブルームバーグ氏がニューヨーク市長退任後に経営に復帰したが、幹部の退任が相次ぐなど内紛もささやかれる。ビジネス面では優等生ながら、ニュースメディアとしては課題が残るブルームバーグ。その現状を追った、ニューヨーク・タイムズのレポートを掲載する。

ニューヨーク・タイムズは、デジタル有料会員が100万人を超すなど、伝統メディアのお手本と言える実績を残している。ただ、そんな同社でも、業績面では依然苦戦が続く。以下に記したように、過去10年で売上高は半分にまで落ちており、デジタル事業が好調とはいえ、やっと長年の衰退トレンドに歯止めがかかったにすぎない。
 grp_NYT業績推移

ここから、本物の成長トレンドに回帰することができるのか、そのためにどんな挑戦が必要なのか。同社のパブリックエディターであるマーガレット・サリバン記者が、同社CEOのマーク・トンプソン氏へのインタビューを基に記したコラムを掲載する。

【Vol.7〜9】では、注目の「デジタルネイティブの新興メディア」を3つ取り上げる。

1つ目は、経済メディアとして存在感を増している、スマホメディアの「Quartz」。いたずらに規模を追うのではなく、ターゲットをグローバルエリートに絞った戦略で、ビジネスと影響力を拡大する同メディアの戦略を追う。

2つ目は、元カリスマITアナリストのヘンリー・ブロジェット氏が2009年に立ち上げたビジネスインサイダー。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOも出資する同メディアは、米国のオンラインニュースの中で、ユニークビジター数13位に食い込むなど、急成長を遂げている。同社のジュリー・ハンセンCOO兼社長へのインタビューを通じて、その成長の秘密を探る。

3つ目は、ヤフージャパンとの提携による日本上陸が決まった、バズフィード。8月18日には、NBCユニバーサルによる2億ドル(約240億円。1ドル=120円換算)の出資も発表された。

米メディア「Re/Code」によると、今回の出資にあたり、バズフィードの企業価値は、15億ドル(約1800億円)と評価されたという。「高すぎる」と言われる日経によるFTの買収価格が1600億円だったが、設立から9年のバズフィードはFTの企業価値をすでに凌駕したことになる。業績面でも、以下に示したように、バズフィードの売上高と従業員数は、目覚ましいスピードで拡大している。
 grp_バズフィード

バズフィードが、単なる「猫の写真で有名なサイト」ではなく、なぜ「メディア業界の真の革命児」と言えるのか。その理由を記す。

【Vol.10】では、今後のメディアを占う上で欠かせない存在である、フェイスブック、アップル、グーグルに着目。ネットの巨人とメディアの関係について分析したFTのレポートを掲載する。

そして最終回の【Vol.11】 では、「5年後、メディア業界で勝つのは誰か」と題して、5年後に勝者となるための条件について考える。

特集:グローバル・メディア再編
【Vol.1】インフォグラフィックでたどる、メディアの新潮流
 【Vol.2】スライドストーリーで見るFT
 【Vol.3】日経のFT買収、成否のカギは「FTの日経化」回避にあり
 【Vol.4】オリンパス元社長ら海外有識者は、日経のFT買収をこう見る
 【Vol.5】資金は潤沢、ビジョンは不明。ブルームバーグの確執と混乱
 【Vol.6】デジタル有料会員100万人突破。ニューヨーク・タイムズの次なる課題
 【Vol.7】ターゲットは世界のエリート。スマホ経済メディア「Quartz」の戦略
 【Vol.8】ベゾスも出資。ビジネスインサイダー社長が語る「急成長の秘密」
 【Vol.9】バズフィードが「真の革命児」である10の理由
 【Vol.10】フェイスブック、アップル、グーグルはメディアの敵か味方か?
 【Vol.11】5年後、メディア業界で勝つのは誰か

【Vol.1】インフォグラフィックでたどるメディアの潮流
【マスター】メディア特集インフォグラフィックバナー_20150821