コマツのICT建機もドローン測量で進化
スタジアム空撮やカラス対策、人手不足の建設現場で活躍
2015/8/20
前回の記事では、ドローンを使って安心・安全を確保する取り組みについて紹介した。少子高齢化で働き手の減少が避けられない日本社会にとって、ドローンは警備やインフラ監視といったマンパワーが要求される分野での人手不足を補う可能性を秘めている。こうした分野と同じように、人材の確保に苦労しているのが建設業界だ。そしてここでも、ドローンを活用しようという取り組みが積極的に進められている。
人手不足に悩む建設業界
東北復興需要、2020年の東京オリンピックなど、日本国内の建設市場には追い風が吹いている。また日本建設業連合会は、東京オリンピック後の2025年度まで市場が安定的に推移すると予測。今年3月に公表した「建設業の長期ビジョン」の中では、2025年度の建設市場の規模を2014年度と比較して横ばい、もしくはやや拡大と予測している。
その一方で、業界各社が頭を悩ませているのが人手不足だ。高齢化の影響で熟練工の退職が続いており、貴重な経験やノウハウが失われつつある。また少子化によって若手の数も不足しており、実際に1996年度に約577万人だった建設業界の従業員数は、2012年度には約432万人にまで減少。
しかも建設業者の約9割が、従業員10人以下で年商6億以下の中小企業であり、大がかりな対策を打てる状況にない。そこで検討されているのが、ドローンをはじめとした先端技術の活用による、各種作業の効率化というわけだ。
たとえば建設大手の大成建設では、高知県で建設中の和食ダムの工事において、米オートデスクとイリノイ大学が開発したドローン測量技術の実証実験を行っている。
これはドローンで現場の様子を空から撮影し、その画像から三次元モデルを作成、工事の進捗(しんちょく)管理に役立てるというもの。画像の分析によって得られる三次元モデルは、位置情報の誤差が最大でプラスマイナス10センチメートルと精度が高く、盛り土や切り土の量を自動で算出することができる。また自然の地形と工事現場との境界線や、構造物の判別も自動で行うことが可能だ。
これまで工事現場の状況把握については、三次元レーザースキャナなどを使い、人力で測量を行うことが一般的だった。これでは算出に時間がかかり、人手も確保しなければならない。
しかしドローンを使えば、短時間かつ自動的に作業を済ませることができる。実際に大成建設の実証実験では、従来1週間かかっていた作業を半日に短縮し、オペレーター数を数名から最小1名に削減することができたと発表されている。また現場の形状や土量の変化から、工事の進捗を自動的に計算し、今後の工事予定を確認することにも成功したそうだ。
従業員の安全伝達にも活用
また竹中工務店では、ドローンを工事記録の撮影や従業員の安全管理に活用している。大阪府吹田市で建設中の「吹田市立スタジアム(仮称)」がその現場だが、これは縦160メートル×横210メートル×高さ40メートルという巨大なスタジアムで、この全景をとらえるためには高度160メートル以上から空撮する必要があった。しかし周囲には高い建造物がなかったため、ドローン活用に踏み切ったというわけである。
一方この工事では、作業床・足場を必要最低限にする工法が使われており、さまざまな箇所で同時並行的に作業が行われている。そのため管理者は、多くの作業場所を均一に管理しなければならない。
そこでドローンの空撮画像を使い、作業品質や安全管理を確認するという活用が行われている。またドローンにトランシーバーをつけ、安全事項の伝達や注意喚起を行うという取り組みまで実施されているそうだ。
さらに同社は、ドローンに巡回ルートを設定し、人手が不足する夜間巡回警備にも活用している。また建設中のスタジアムにカラスや鳩が巣をつくったり、糞で現場を汚したりしないように、ドローンにカラスの頭を模したものを付けて飛ばしているそうだ。
アイデア次第で、ますます多くのドローン活用が建設現場から生まれてくるかもしれない。
ドローンをシステムに組み込むコマツ
さらにシステム化されたドローン活用を進めているのが、大手建機メーカーのコマツだ。2015年2月から、ICT(情報通信技術)を活用した建設現場向けソリューション「スマートコンストラクション」の提供を開始している。これは工事を始める前の測量の段階から、完了後の維持管理に至るまで、さまざまなデータを収集・統合して最適な施工計画をつくるというもの。
その軸となるのが、新たに開発したクラウドプラットフォーム「コムコネクト」だ。ここに現場の状況や工事の進み具合、人や建機の状態などあらゆる情報を集約。それを分析して施工計画を立て、さらに施工計画をシミュレーションし、最適な計画を決定する。
また、確定した施工計画のデータを、コマツが販売する「ICT建機」と連動すれば、さらに建設現場の自動化が進められる。ICT建機は、熟練作業者の操作データから割り出されたアルゴリズムにより、建機を数センチという単位で自動操縦することができるという機械だ。
それによって、初心者でも従来の数倍の生産性を達成できる。それをスマートコンストラクションに組み込むことで、工事全体のコストを2~3割削減できるとされている。
ところが従来、その出発点となる「測量」のフェーズに課題があった。建設現場の状態を正確に測量してデータ化することが、施工計画最適化の基礎となるのだが、この作業に手間がかかっていたのである。しかし正確なデータがなければ、せっかくのスマートコンストラクションがもたらすメリットも半減してしまう。
そこでドローンの出番というわけだ。ドローンを使って空から建設現場の現況を測量し、それを3次元モデル化してコムコネクトに蓄積する。これにより、人間なら1、2カ月かかるような規模の測量でも、わずか15分で終わらせることができる。
また測量結果のデータ化についても、データ処理プロセス全体を自動化することで、ドローンを飛ばしてから2日以内で完了することが目指されている。
使用するドローンは、米スカイキャッチ製の機体だ。彼らのドローンには、充電機能付き離着陸ステーション(中がすり鉢型をしていて屋外でも離陸しやすくなっている)などの設備があり、機体の大きさもほかの一般的な機種と違いがない。通常のデジタルカメラを使用して3次元測量を行う。
同じ場所を少しずつずらした画像を何枚も撮影し、その見え方の違いから高さを割り出して、3次元モデルに変換するのだ。スカイキャッチはこの画像処理において優れた技術を持つことが、コマツが今回採用に至った理由のひとつとなっている。
ドローン測量を行うことで、副次的な効果も期待されている。高い精度で3次元モデルを作成できるため、そこから現場にある土量の算出が可能になる。現状では、ある程度土を動かした後で再び測量を行い、最終的な仕上がりを調整する。
しかし、ドローン測量はごく短時間で終わらせることができるうえに、切り出した土の量・盛った土の量を得られたデータから即座に計算できるため、土量がどの程度不足しているかが正確にわかるのである。
クラウドプラットフォームで施工データを記録・蓄積しておくことで、災害への対応にも役立てられると期待されている。災害発生時に被災現場を直ちに測量し、記録されていた施工完了時のデータと照合すれば、復旧に向けてどのような工事が必要かをすぐさま判断できる。
そこから復旧工事計画を生成し、コマツのICT建機に流し込めば、無人機の力でいち早く復旧が行われるというわけだ。いずれにしても、その土台となるデータを迅速かつ正確に把握するのがドローンの役割であり、パズルの重要な1ピースを担っていると言えるだろう。
いずれこうした「ドローン測量による詳細な現況データ」が一般的になり、それを前提とした多くの作業やサービスが実施されるようになると考えられる。災害発生時の活用のように、それは建設業界という枠を超えた広がりを見せるようになるだろう。
都市計画やインフラ管理といった分野でも、こうしたデータが活用されるようになるはずだ。それがますます、ドローン測量のニーズを高め、ドローンのビジネス活用を促していくのではないだろうか。
(取材・文:小林啓倫)
<著者プロフィール>
小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルティング 経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業を経て、2005年から現職。著者に『災害とソーシャルメディア』(マイナビ)、訳書に『ウェブはグループで進化する』(日経BP)など。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。