【BCG御立】これからのコンサルには、地政学の素養が必要

2015/8/19
グローバルのコンサルティング業界において、マッキンゼーとともに双璧をなすボストン コンサルティング グループ(BCG)。本特集でも何度も言及されたが、BCGをけん引する当の本人は、今のコンサルティングビジネスの状況をどう見ているのか。各ファームが新たな領域に参入する中で、どのような「次の一手」を模索しているのか。日本代表・御立尚資氏に聞く。

価値が出せると思う仕事しか受けない

──BCGのコンサルティングビジネスの現状は?
御立 年に15〜20%という割合で、業績は順調に伸びています。しかし、コンサルティングビジネスを取り巻く状況には危機感もあります。もはや先進事例などの情報を収集し、提言するだけの従来型のコンサルティング手法では、付加価値がつかなくなった。また、クライアントの要求も日に日に高まり、「口は出すが、結果責任は負わない」コンサルティングビジネスでは通用しません。
その中でBCGは、「リターン・オン・コンサルティング」という考えを重視しています。クライアントは、われわれに高額のコンサルティング・フィーを払っている以上、その10倍、20倍のリターンがなければ、株主や取締役会といったステークホルダーを納得させられない。
だからわれわれは、戦略のみならず実行フェーズまでクライアントの支援を行い、プロジェクトの効果検証をして、十分な付加価値を出せているかクライアントと確認します。
時には「結果リンク報酬」という、結果のレベルに応じて報酬の額が左右される契約も結びます。「リターン・オン・コンサルティング」にこだわった結果が高いリピーター率で、今ではクライアントの8割がリピーターです。
結果にこだわるため、われわれはBCGに価値が出せると思ったプロジェクトしかお受けしません。
私は以前、レーシック手術を受けたのですが、私が行った病院では手術の成功確率が99.9%だという。そんなこと本当にあるのかと聞いたところ、「われわれは手術前に徹底的に検査をして、角膜が薄いなど少しでもリスクがあったら、手術をしないことにしている」と教えてくれて、とても納得しました。
コンサルタントも本来、成果に自信がなかったら、このレーシックの医者のように「うちではやらないほうがいい」と判断すべき。1963年に日本に進出して以来、さまざまな企業の幅広いテーマに長い間取り組んできた結果、幅広い領域の専門家が日本でも育ったので、自信を持ってお受けできる範囲も広がり、逆に言えばお受けしないという判断もできるようになりました。
コンサルティングビジネスは、クライアントとコンサルタントの緊張関係がなくなると、一気にダメになります。その意味では、結果をシビアに問われる今のスタイルは、健全な姿と言えるでしょう。

ドリームインキュベータ設立時は「非常事態」

──1966年の東京オフィスの開設以来、BCGの経営状況はどのような経過をたどってきたのですか。
BCGの東京オフィスは1966年、ボストンオフィスに次ぐ2つ目のオフィスとして開設されました。
堀紘一さんや、マッキンゼーの大前研一さんが活躍した時代は、業界の知名度が低かったため、苦労も多かったと聞きます。調査のために電話をかけたところ、「ボストン コンサルティング」という名前を「お布団コンサルティング」に聞き間違えられ、「お布団は間に合ってます」と言われたという、冗談みたいな話もあるくらいですから。
その後、先輩たちの貢献もあって、業績は順調に伸びていきました。ただ「スピンオフ」で苦労した時期が2回ありました。具体的には、1986年のコーポレイト ディレクション(CDI)と、2000年のドリームインキュベータ(DI)の設立時です。いずれもBCGのパートナーが独立して立ち上げたファームで、複数の幹部メンバーが移籍しました。
DI設立時は、内田和成さん(現・早稲田大学ビジネススクール教授)以外のパートナーは若手しか残らなかったので、さすがに「非常事態」とみなされました。当時、パートナーになって2年目の私も内部管理の責任者に任命された。あの出来事がなければ、ここまで早く責任者にはならなかったでしょう。
ただ、幸いにも、人が抜けてもクライアントが離れなかった。コンサルティング業界が一部のスター頼みから、組織戦へと成熟してきた証でしょう。実際、DI設立の翌年の2001年には、過去最高益を記録しました。その後、BCGは日本市場において戦略ファームで圧倒的な規模を有するところまで来られました。
──BCGが日本市場に入り込めた理由は?
ほかのファームに比べて早い時期に進出した、という先行者利得も重要ですね。それによって、日本のビジネス界において、インサイダーになれた。
早くから「日本発の、グローバルで勝てる会社をつくりたい」と日本企業の支援に力を入れてきたことも大きい。重要な経営課題について、経営トップと直接議論ができるので、人が育ちます。外資系企業のお手伝いも大事ですが、この割合が大きすぎると、いつも支店長としか付き合えない。
また、バブル後の不況の中で、日本企業のプライオリティ(優先順位)を下げる同業もある中、あくまでもBCGは日本企業にこだわった。その差がわれわれに有利に働きました。
──BCGの最大の競合はマッキンゼーですが、率直に、マッキンゼーの存在についてどう思いますか。