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情報発信する人に情報が集まる

永濱利廣、難解なことを平易に伝えるコツは「たとえ話」と「全国ネタ」

2015/8/17
NewsPicksの最大の特徴は、多様なピッカー(読者)の多彩なコメントだ。ただ、記事をピックしコメントする面白さとともに、難しさを感じる人も多いのではないだろうか。また、会議や商談などあらゆるビジネスの場、日常的な人付き合いの場において、「それで、あなたはどう思うの?」と“コメント力”を求められる機会は多い。では、コメントを仕事の一部とするプロのコメンテーターたちは、どのような哲学や法則にのっとってコメントしているのだろうか。テレビのコメンテーターあるいは、NewsPicksのプロピッカーという、いわばコメントのプロたちに、「コメント力」の鍛え方を聞く。

「ひるおび!」(TBS)やNewsPicksの第1期プロピッカーとして知られる第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣さん。素人には敬遠されがちなマクロ経済について語るとき、永濱さんが意識することとは?

細かい数字より「○倍」「○分の1」のほうが伝わる

コメントをしたり、解説をしたりするときは、「聞き手がどういう人か」を重視しています。そのうえで、聞き手にとってイメージしやすい例を引き合いに出そうと心がけています。

たとえば、お茶の間の主婦たちが見ているであろう情報番組で「もし、ギリシャがデフォルトしてほかの国に波及したらどうなるか」について話すとしましょう。そういった場合、「輸出企業の業績が悪化して、株が下がって……」と言うよりも、端的に「要はリーマンショックの後みたいなことが起きるんですよ」と言うほうが伝わりやすいです。

「あのとき何が起きたでしょうか、派遣村で派遣切りにあった労働者が列を成したりしましたよね。あんなようなことが起こって、世の中苦しくなるんです」。そんなふうに、事実を歪曲しないような範囲で、たとえ話をします。

さらに、私はコメントや解説をするときは細かい数字はできるだけ言わないようにしています。その代わり、「○倍」「○分の1」という言い方をすることが多いです。

理由は2つ。まず、「○倍」「○分の1」といった表現のほうがインパクトがあって聞いている方もイメージがしやすいから。次に、急に数字が必要になり、記憶に頼って細かい数字を持ち出すと、正確に覚えていないために間違った数字を言ってしまい、墓穴を掘る場合があるからです。

失敗してもくよくよしない

私は、商売をやっていた父親に似たのか、しゃべりは苦手なほうではないのですが、そうは言っても、コメンテーターとして番組出演する際に緊張してなかなかうまくいかないこともありました。オーソドックスな結論ですが、うまく、端的に話せるようになるために大事なのは、聞き手の立場に立つことを意識しながら場数を踏むことなのではないでしょうか。

失敗したことに対して、すぐに心が折れてしまったり、なかなか立ち直れなかったりする人もいるかと思いますが、そこでやめてしまうと上達しないままです。また、そういう傾向にある人は、自分が周りから注視されていると思い込んでいる人も少なくないですが、言ってしまえばそれは「自意識過剰」です。

逆の立場になって考えてみてください。恋愛感情があって、よっぽど好きな人とかでもない限り、他人のことはそこまで気にならないじゃないですか。

コメンテーターをしていると、クレームの電話があったり、ネットで「あいつが間違ったことを言っている」などと書かれることもあります。でも、そうは言っても、その人が四六時中私のことを考えているはずはないですよね。「世の中にはいろんな考え方があるし、多分この人は、自分にだけでなく、いろいろな人に主張している人なんだろう」と思うようにしています。

データや数字だけに頼らず全国津々浦々のネタを話す

エコノミストはデータや数字だけでしゃべるきらいがありますが、みんなと同じことをやっても差別化できないです。だから、僕は「全国でこんなことが起きています」という、データだけでは見えてこない話もするんです。でも、こういう興味深い話って、いきなり誰かが教えてくれるわけではないんですよね。

興味深い話は、こちらが発信した情報が呼び水となって入ってきます。たとえば、私が北海道で講演をしたとき、北海道の網走市の漁師が最近儲かっているという話をすると、聴衆から今度は「十勝では農家が儲かっている」という話が寄せられてくる。このように、興味深い話は、情報発信するところに集まってくるようにできているのだと思います。

永濱利廣の「コメント力」の秘訣
1. 聞き手がどんな人かを把握。その人に伝わりやすい例を引き合いに出す
2. 失敗してもくよくよしない。精進あるのみ
3. 発信することによって情報は集まる

(取材・文:村井京香、撮影:福田俊介)
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*明日掲載の「中野信子、コメントするときは『中野先生』、メタ認知を貫く」に続きます。