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大切なことは、世界を五感で感じること

グローバルキャリアを歩むために──堀口美奈×藤井清孝 対談

2015/8/16
さまざまな場面で注目されるようになった「グローバルキャリア」。世界を舞台に活躍する人材の必要性が問われるとともに、本当に必要なのかと疑問が投げられることも多い。若手社員や、いま就職活動をしている学生などで、自分が目指すべきか悩んでいる人もいるだろう。NewsPicksの第1期プロピッカーとして、また5か国語を操るマルチリンガルとして商社で活躍中の堀口美奈氏と、ルイ・ヴィトン ジャパンカンパニーのCEOやSAPジャパンの代表などを務め、30年以上にわたってグローバルに活躍してきた藤井清孝氏が、グローバルに活躍するために必要なこと、そして、今まさにそれを目標としている若い人に向けたアドバイスを伝える。

グローバルキャリアを歩むきっかけ

堀口:藤井さん、今回はよろしくお願いします。はじめに、ここ何年も「グローバルキャリア」が注目を集めていますよね。そこで、この点を入り口にしながらNewsPicksを読んでいる学生や若い人に向けて、働き方や進路のヒントをうかがえればと思います。

藤井さんはルイ・ヴィトン ジャパンのCEOを務められるなど、30年以上にわたって世界中のビジネスの現場で活躍されています。グローバルキャリアを歩むことになった「最初の扉」は何だったんでしょうか。

藤井:こちらこそよろしくお願いします。僕は子どもの頃、外交官になりたかったんです。日本は外国なしでは成り立たない国ですが、わりと閉じている部分がありますよね。だから自分が外国のことを学んで、それをつなぐ人間になりたいという思いがありました。とにかく「日本を良くしたい」という思いでしたね。

堀口:そうなんですね。その後、外交官ではなくビジネスの世界に飛び込んだのはどうしてなんですか。

藤井:外交官は組織として仕事をしますよね。それに、日本政府と言うバックがあるからパワーがある。そう考えたとき、僕はまず大きな組織とは関係なく仕事ができなくちゃいけないと思ったんです。まずは個人が強くないとダメだな、と。そこで、大学時代に英語の勉強を始めました。

また、座学だけじゃなくて、実際にコミュニケーションをとるために、外国人相手のアルバイトをしていましたね。骨董品屋で、日本の古い美術品を売るバイトです。外国の人が本国に戻るときに大量に買い込むんですが、その売り子をしていましたよ。

堀口:カッコいいですね! その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社されていますが、就職活動はどのように考えたんですか。

藤井:当時も、商社や銀行、大手メーカーなど、人気があるところは今と同じでした。僕は就職活動でいろんな企業を受けたんだけれど、どれもピンとこなかったんです。

会社に入ってから、やりたいことを実現するまでの道のりが遠いなと感じました。何十年も勤め続ければ最終的にはたどり着けますけれど、当時は50歳近くになるまで大きな仕事は任せてもらえなかったですから。そう考えたとき、外資系くらいしか選択肢がなかった。そこで、マッキンゼーに学卒第一号で入社したんです。今でこそ、楽天やディー・エヌ・エー(DeNA)などのIT企業がありますけれどね。

堀口:そうだったんですね。今、グローバルキャリアというと、すごく高い意識を持っている人がそれを目指している一方で、自分には無理と考えている人も多いと思います。

でも、私はそういう人たちこそが、自分の好きなものやメッセージを外国に伝えられると、今までにない可能性が広がると思うんです。それは、個人にとっても、日本にとっても重要なはずです。

語学は、きっかけ一つで学ぶようになる

藤井:そうですね。グローバルで働くと言うのは、自分がやりたいこと、得意分野を外国でもできるようになるということなんです。世界を相手に何でもできる人なんていないわけだから、そんなに難しく考える必要はないんですよ。

語学だってどうにかなるものです。ダルビッシュ投手だって、英語は得意ではないけれど、メジャーで活躍するためには仲間と意思の疎通を図るために不可欠になります。そのために勉強するようになるわけです。必要に迫られれば、自然と学ぶようになるはずですよ。

堀口:はい。私も語学を学ぶ最初のきっかけは、グローバルキャリアがどうこうではなくて、外国の女の子と「ガールズトーク」がしたかったからです。そこが大きなモチベーションでした。そもそも、それまでは語学が苦手だったんです。テストでも全然点数が取れませんでしたし、「真剣に勉強しよう」という気持ちがわきませんでした。

でも、彼女たちとコミュニケーションを取る中で、感覚の違いや背景にあるものは、その言葉を知らないと理解できないものがあるな、伝わらない何かがあるな、と感じたんです。それをつかみたいと思ったときに、自然と語学を学びたいと思うようになりました。そこからどんどん語学が好きになって、5か国語を話せるようになったんです。

藤井:その感覚は良くわかるね。語学はそれ自体が目的ではなくて手段、ツールだからね。

堀口:はい。今も会社で英語を使って交渉する機会などはたくさんあるんですけれど、それ自体が面白いわけじゃなくて、コミュニケーションを通して生まれる相手との関係に魅力を感じますね。

堀口美奈(ほりぐち・みな) 1990年トルコ生まれ。日本とトルコのハーフとして生まれ、人生の半分を海外(トルコ、パキスタン)で過ごす。母国語である日本語とトルコ語のほか、英語・スペイン語・中国語の5言語を話す。語学は「語楽」がモットー。NHK「マイケル・サンデルの白熱教室」、「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」などに出演。早稲田大学卒業後、大手総合商社勤務。

堀口美奈(ほりぐち・みな)
1990年トルコ生まれ。日本とトルコのハーフとして生まれ、人生の半分を海外(トルコ、パキスタン)で過ごす。母国語である日本語とトルコ語のほか、英語・スペイン語・中国語の5言語を話す。語学は「語楽」がモットー。NHK「マイケル・サンデルの白熱教室」、「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」などに出演。早稲田大学卒業後、大手総合商社勤務

「得意」が価値を生む環境へ

堀口:ところで、日本の大組織にいると、個人のグローバルな能力ってそんなに求められていない気もします。強い組織が全体をカバーしてくれるので。その意味で、今、私は商社で働いていますが、商社だからと言って、全員がそうした能力が伸びるわけではないですし、また別のベクトルですよね。

藤井:そうですね。その意味で、会社に入っただけで満足してはいけない。また、周りと良好な関係もつくらなければいけません。

堀口:確かに、まずは周囲から理解を得ることは大切ですよね。仕事を始めてから、ある先輩に「周りから好かれるためには、みんながやらない仕事をすればいい」と言われました。

藤井:日本はそういう哲学があるからね。雑巾がけしていない人はリスペクトされないですし、耐えることが美徳とされる。いろんなことを耐えると、その人たちの気持ちがわかる、だから人の上に立てるというロジックは間違っていませんし、そこで学ぶことも多い。でも、それだけではいけないのが難しいところなんです。

堀口:何も生み出していなくても耐えたということが評価になるとよくないですよね。

藤井:そうですね。「我慢の人」の力だけで国は大きくならないですし、イノベーションも生まれません。

その意味で、うちの娘には好きなことをやるように言っているんです。そういう我慢が向いていないこともありますが(笑)。最低限の守るべきところは守って、プラスの部分を伸ばすように言っています。必ずしもそれが成功するとは思わないけれど、ひとつのやり方ではあると考えています。

堀口:なるほど。我慢させ続けることで、本人や組織が硬直化したり、適材適所ができなくなったりしてはいけないですよね。それは、グローバルキャリアという意味だけでなく、働き方を考えるにあたってすごく重要なポイントだと思っています。自分の得意なことで価値を生み出せることが理想ですよね。

ミッショナリーとマーサナリ―

堀口:私は就職活動をしている学生から相談されることが多いのですが、藤井さんもたくさんの学生と関わられていますね。

藤井:はい。相談の内容は本当にさまざまです。「ビジネススクールに行くべきですか」、「マッキンゼーはどうですか」という具体的なものから、「私はどうすべきですか」というものまであります。その中で、一番厄介なのが「やりたいことがわからない」人です。

堀口:そういう学生はとても多いと思います。どんなアドバイスをされるんですか。

藤井:どんな人でも、子どもの頃や学生時代に夢中になったことってあるんですよ。それが何かをもう1度考えてみるように、と言いますね。僕は小さい頃に本を読んでいて、いろんな国に行ってみたいなと思ったのが根本にあります。そのときに思いついたのが、職業としては外交官でした。それが今でもつながっているわけです。

堀口:子どもの頃の原体験が今をつくっているんですね。私も最近、心の底からやりたい、成し遂げたいという強い思いを持っていないと、本当の意味で一流にはなれないのではないかと考えるときがあるんです。そういう思いを持っている人は、どんな状況でもぶれない強さを持っています。

就職しやすい学部を選んだり、資格を選んだりする人もいますが、結果的には自分のやりたいことからどんどん遠ざかると思います。それは個人だけじゃなく、社会にとっても良くないことだと思います。

藤井:そうですね。「ミッショナリー」と「マーサナリー」という言葉を知っていますか? ミッショナリーは伝道師、マーサナリーは傭兵のことです。自分の考えを伝えることを第1に働く人と、お金で働く人の違いは非常に大きい。

キリスト教伝道師は、自分がそれを信じているから布教するわけです。お金を払ってでもやるような人ですよね。一方で、マーサナリーはお金がなければ動きませんが、戦い方を知っていますので、現場では非常に力を発揮します。それぞれ、強みは持っているんです。

でも、本当に世の中を動かすのはどんなタイプの人間かと考えると、ミッショナリーの人が圧倒的に強いんです。スティーブ・ジョブズもビル・ゲイツも自分の信じているものがあるから、困難に打ち勝っていると思います。

藤井清孝(ふじい・きよたか) 東京大学卒業後、学卒第1号でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、ハーバード・ビジネス・スクール(MBA)卒業するとM&A分野で活躍。さらに、SAPやルイ・ヴィトンなどの日本法人社長を歴任。現在は、ザ・リアルリアル代表などを務めている。

藤井清孝(ふじい・きよたか)
東京大学卒業後、学卒第1号でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、ハーバード・ビジネス・スクール(MBA)卒業するとM&A分野などで活躍。さらに、SAPやルイ・ヴィトンなどの日本法人社長を歴任。現在は、ザ・リアルリアル代表などを務めている。主な著書に『グローバル・イノベーション 日本を変える3つの革命』(朝日新聞出版)、『グローバル・マインド 超一流の思考原理』(ダイヤモンド社)

堀口:孫(正義)さんもそうなんでしょうか

藤井:孫さんはまた特別な人だと思います。彼はもともとの信念ではなかったものをミッショナリーにすることができる人。ソフトバンクはIT企業のイメージが強いですが、最初はパソコンソフトの卸売業から始まっています。

彼は、時代を読んだ新しいサービスを非常に説得力のあるかたちで伝道できる力があります。その意味で、松下幸之助が電球ソケットから始まったようなかたちでのミッショナリーとは異なる能力ですよね。

堀口:そのお話は面白いですね。そう考えると、世の中を変えたいと思ったら、本当は何をやりたいのか、自分の心に耳を傾けたほうがいいですよね。目先のことだけを考えると、結局遠回りになります。学生の中にはつぶしが利くかどうかで就職先を選ぶ人もいますけれど。

藤井:その通りですね。それでも何をやりたいかわからない人は、とにかく手を出してみればいい。でも、テレビのザッピングのようにころころ変えるのではなく、ひとまず何か1つに取り組んでみてほしい。最初はつまらなくても、そこから見える景色もありますから。

世界に飛び込み、五感人材になろう

堀口:藤井さんは、世界で活躍したいというビジネスマン向けに私塾を開いているんですよね。それが、すごくいいなと思っているんです。日本の大学にある大教室の授業では、多くの人に届いているようで誰にも伝わっていないことがよくあります。少人数のほうが、濃いインタラクションが生まれますよね。

藤井:そうですね。僕の経験から言うと、そのほうが「伝染」していくんですよ。「こんな人がいたのか」、「この人みたいになりたい」と、影響されていくわけです。それによって、強い思いを持った人間の個々の能力を最大化させたいなと思っています。

明治維新を成し遂げたのは、日本の人口から考えると本当に少数の人たちです。彼らが本当に問題意識を持ち、危機感があったことで成功につながりましたよね。それと同じように、日本人全員がグローバル人材になる必要はないし、そもそも無理な話です。「みんなグローバル人材になりましょう」とうたうメディアは大間違い。そんなことに時間を使うのは無駄ですよ。本当にそうなりたい人を支援すべきなんです。

もちろん、どんなところで暮らしていても、すでにグローバル化の影響を受けていると認識することは大切です。もし機会があれば、海外に1度飛び込んでみるといいでしょう。そこでとにかく一つひとつの物事を感じてほしいですね。たとえ語学が不十分でも、五感で感じることで得られるものは非常に多いですし、財産になります。グローバル人材のスタートはそこになると思います。

堀口:世界に飛び込んで、「五感人材」になることが大切なんですね。

藤井:その通りです。

女性の「ロールモデル」はまだ少ない

藤井:最後に、僕から堀口さんにひとつお願いがあるとすれば、是非今後の働く女性の「ロールモデル」になってほしいなと思います。

商社で働くことや、グローバルに活躍するということに限らず、「ビジネスパーソンとして魅力的だな」と、思われるキャリアを歩んでほしい。一時的に注目されてメディアに出るだけの人もいますけれど、それではつまらないですからね。いま、若い人の目標となる女性が少ないので、是非そこにも挑戦してみてください。頑張れば、きっとそうなれると思いますよ。

堀口:ありがとうございます! 今回は、グローバルキャリアを中心に話をしましたが、大事なのは自分の思いを持って挑戦することだと思います。きっとそれは、どんな環境でも変わらないことですよね。藤井さんのお話をうかがったことで、その思いがますます強くなりました。改めて、本日はありがとうございました。

(取材・文:菅原聖司、写真:福田俊介)