マッキンゼーOB琴坂氏が語る「マッキンゼーのデザイン会社買収は必然だ」

2015/8/16
世界一のコンサルファームとして名高いマッキンゼー・アンド・カンパニー。2015年5月14日にデザイン会社LUNARを買収した。わずか80人にも満たないLUNARだが、実はデザイン業界では有名だ。ナイキやコカ・コーラなどの大手企業を顧客にもつ老舗デザイン会社である。マッキンゼーの狙いはどこにあるのだろうか。
「マッキンゼーとしては、当たり前のことをしたまでではないか」。立命館大学経営学部准教授で自身もマッキンゼー出身の琴坂将広氏は、マッキンゼーのLUNAR買収をこう分析する。ロジックが武器の“左脳型”のマッキンゼーと、クリエイティビティに強みを持つ“右脳型”のLUNAR。両社の結び付きは「至極、真っ当で合理的」と語るにはこんな根拠がある。
ゴルフがうまい、コンサルタントが派遣される
「私の知るマッキンゼーという会社は、顧客が抱える問題を解決するためには手段を選びませんでした。たとえば、キーマンを説得するのに、ゴルフをすることがいちばん合理的と判断したら躊躇なく、最もゴルフが上手いコンサルタントを派遣してゴルフ場でビジネスを進めるでしょう。
実際、私もデータベースをにらんで仕事をするより、クライアントの社内や客先を駆け回ることにはるかに多くの時間を使っていました。意外かもしれませんが、非常に泥くさい側面を持った会社です。ですから、今回のデザイン会社の買収も『クライアントの課題解決のために』という前提があったと想像するのが妥当かと思います」
とはいえ、LUNARはわずか80人弱の小さな会社である。マッキンゼーはLUNARを足がかりにデザインコンサルティングという新領域に進出するわけではなさそうだ。ならばデザインの力をどう活用するのか。琴坂氏が提示した答えは、「コミュニケーション」の媒介としてのデザインだ。
たとえば、コンサルティング会社が製薬会社の営業部隊の生産性を改善する提案を求められたとしよう。ありがちなのが、その薬の効き目や安全性、副作用などを成分から分析し、分厚い資料をつくり、営業部隊の商品知識を高めようと促すことだ。
あるいは、営業力を高めるべく、営業部長を全員集めて研修プログラムを組むアイデアも考えられる。だが、そこから一歩進んで、営業部隊が顧客である医師に自社製品の有効性を、ビジュアルを使って短い時間で完結に伝えるビジュアル資料があったらどうだろう。
「資料のキャッチコピーなどの言葉遣い、ビジュアルの完成度が高ければ、営業成績が目に見えて向上するのは、経験的にも統計的にも明らかです」
さらに、営業部隊が日々その資料を見ることで、自身の商品理解も深まる、一石二鳥も狙える。このように、デザインの持つビジュアルの力を加えれば、さらに効率的でパフォーマンスの高い営業が実現できる可能性が高い。
営業資料のビジュアルを洗練する──。微々たることのように思えるが、大規模な製薬会社になると営業部員は5000人以上におよぶ。ということは、ドクターへの営業は年間数十万回にのぼるだろう。
「これだけの規模のクライアントの場合、こうした微々たる改善が、とてつもない倍数となり効いてくるケースは多い」
そして、こうした「微々たる」ことが、意外に当事者のクライアント自身は思いつかない。
「そして、コンサルタントの役目はクライアントが“やらない・できない・思いもつかない”ことに目をつけることにほかなりません」
かつて、琴坂氏もマッキンゼー時代に「ここまでやるか」という事例に出合ったことがあるという。
ロボットアームの中の小型モーターの品番を調べる、泥くささ
とある電子部品の生産効率化を要求されたときのことだ。現場を精査していくと、確かに製造機材もすべて最新機種がそろっており、部材コストはギリギリまで切り詰めている。一部の隙もないほど徹底した効率化が図られていることがわかった。
だが、ひとりのコンサルタントが膨大な生産設備の中から、1機のロボットアームに目をつける。「このロボットアームも新品で導入されたばかり」と工場長は胸を張る。だが、そのロボットアームの動作速度が工場全体の生産性に影響を与えているのではないか、と判断したコンサルタントは、そのロボットアームを完全に分解して、内部の小型モーターの品番まで確認し始めた。
それに、新規参入してきた大手競合の売り上げや顧客構成などのデータがないのであれば、「わからない」では終わらせない。派遣社員を何十人も雇用して、日本中の店舗を観察させて概算の数字を即座に出すこともある。
数億円のコンサルタントフィーがかかることもあるが、その数十倍も工場の生産性が向上することが実際にある。大手競合の参入で先が見えない不安にさらされていたところから、具体的な数字で明確な選択肢を理解し、今やるべきことを整理して実行にまで落とし込めることがある。「ここまでコミットすることも、大手の外資系戦略コンサルタントが高いフィーで仕事をしていることの理由でしょう」。
コンサル業界の王者が戦ってきた「陳腐化の歴史」
クライアントが“やらない・できない・思いもつかない”発想を持つ頭脳集団を擁し、業界の固定概念にとらわれない買収策を仕掛けるマッキンゼーだが、一方で今回の買収の裏には、“背に腹はかえられない事情”もあるようだ。