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コメントしないのは自信のない人だ

炎上、上等。夏野剛が“本音芸”を貫く理由

2015/8/14
NewsPicksの最大の特徴は、多様なピッカー(読者)の多彩なコメントだ。ただ、記事をピックしコメントする面白さとともに、難しさを感じる人も多いのではないだろうか。また、会議や商談などあらゆるビジネスの場、日常的な人付き合いの場において、「それで、あなたはどう思うの?」と“コメント力”を求められる機会は多い。では、コメントを仕事の一部とするプロのコメンテーターたちは、どのような哲学や法則にのっとってコメントしているのだろうか。テレビのコメンテーターあるいは、NewsPicksのプロピッカーという、いわばコメントのプロたちに、「コメント力」の鍛え方を聞く。

NTTドコモ「iモード」の生みの親で、現在9社の取締役や、慶應義塾大学の大学院政策・メディア研究科特別招聘(しょうへい)教授、テレビコメンテーターなどとして活躍している夏野剛氏。経営学やメディアへの専門的な知見に基づいたコメントはNewsPicksでも人気だが、その、時にユーモラスで、時に辛口、だけど常に的を射たコメントの背景にあるものとは。

真意が伝わったのなら、炎上もいとわない

僕は、とにかく本音芸なんです。あまり発言を包み込もうとはしません。もちろん、あやふやな伝聞情報に基づいた類推や陰謀論などは、書きません。しかし、否定的なことであってもがんがん書く。たとえば、「ビジネスセンスがない、どこそこの企業」とかね。その結果、僕のコメント自体がニュースになって炎上することもある。

炎上してしまったときも、そのとき本当にそう思って書いたことで炎上するなら、別にいいんじゃないかと僕は思っています。自分が思ってもいないように解釈されたり、自分の発言が誤解されて炎上するのは不本意ですが。

本音ベースでコメントするのは、テレビで発言するときもNewsPicksやツイッターで書くときも変わりません。ただ、話し言葉では許されるコメントも書き言葉にした瞬間、強烈なメッセージになってしまうことがあるため、この点には注意しています。

もっとも、酔っぱらった後の帰りのタクシーでツイッターを見て、そのまま思ったことを書いてしまうなんてこともしばしば。だからこそ、私は炎上が多いのかもしれません(笑)。教訓は、「酔っぱらったらツイートするな、ピックするな」ですね。

自分の「見立て」に自信を持て

そもそもコメントすることは、世の中で起こったことに対して、自分がどう反応したか、どう感じたかを残すことでもあります。後で振り返ろうにも、自分が以前に思ったことなど普通忘れてしまいますからね。ところが、コメントしておけば自分で振り返ることができるのはもちろんのこと、ほかの人が「あのときこう言っていましたよね」と自分の反応を覚えておいてくれる利点もあります。

翻って、コメントしない人とは、自信がない人だと思う。昔はSNSで発言していたけれど、いろいろと面倒くさいトラブルがあってやめた人や、立場上発言を残せない経営者や著名人は別として。自信がない人は発信しない。

私が言う「自信がある」とは、自分が正しいことを言っているかに対する自信ではなく、自分がそれをどういうふうに見たかという、つまり自分の「見立て」に対する自信のこと。

たとえば、この製品は裏でいろんな人が努力した結果出てきたものだ、というふうに見えたとする。

実はその製品は偶然できたものだということが後で判明するかもしれないけれど、当初の時点では得た情報からつくり込んである、と思ったんだったら、それでいいじゃないですか。もし間違っていたとしても、「ああ、ごめん間違えた。でも、あれは力が入っているふうに見えたよ」と言えばいいだけ。

コメンテーターの役割は、正しい事実を掘ることじゃないですからね。それは、記者や元の記事をつくった人がもっと掘り下げてくれればいいわけですから。

正しい事実を指摘できているかはあまり気にせず、自分の見立てに自信を持ってコメントすればいいと思います。

夏野剛(なつの・たけし) 1965年生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘(しょうへい)教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

夏野剛(なつの・たけし)
1965年生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

分析コメントと瞬発コメント

私は、NewsPicksをプライベートでも使っていますが、NewsPicksをはじめとするソーシャルメディアにおける“良いコメント”には2種類あると考えています。ひとつは、きちんとした分析に基づいた長いコメント。起承転結がきちんとあり、情報量も豊富で有用である。でも、こういうコメントは、えてして時間がないと書けない。

一般的に、「すごい人」とは多忙です。もちろん、暇ですごい人もいますが、暇ですごくない人もたくさんいて、長くて中身がないコメントに、「すごい人」が書いた良いコメントまで紛れちゃうんですよね。その見極めが難しいところ。

もうひとつとは、瞬発芸的なコメントです。たとえば、記事を読んでハッと気づいたこと、感じたことを、すっと短く書く鋭いコメント。こうしたコメントのつくり手の典型がホリエモン。私も、どちらかと言えばこちらのタイプだと思います。

短く鋭いコメントは、特定の専門的なキャリアを持つ人や、際立つ分析力や洞察力がある人が、ある出来事に対してどのように反射的に判断するのか、その思考を知るうえで、役立ちます。

もっとも、短いコメントの扱いにも注意が必要で、中には、反射的に、感情的に反応しているだけのものも多く、玉石混交です。良いコメントが、良くないコメントに紛れやすいのが難点です。NewsPicksのコメント欄の場合、読むに値するようなコメントが見つけやすいため、さほど問題を感じませんが。

また、コメントの長短に関して僕がいつも思うのは、社会で注目されている人が今どういう状態にあるかが、コメントから推し量ることができること。もし、その人が長いコメントを書いていたら余裕があり、短いコメントを書いているときは、今は忙しいのだなと、その人の時間的余裕がコメントに如実に表れる気がします。

コメントを書く前に一拍置く理由

人間はコミュニケーションする動物ですから、コメントが苦手って人は本来いないと思うんです。苦手だと思い込んでしまう人は、自分の考えを整理しきれていないままコメントしてしまっているんじゃないでしょうか。

まずは、一拍置いて、考えを整理することを意識するといいと思いますよ。次に、とにかく相手の立場に徹底的に立って、今書いていることを相手がきちんと理解できるだろうかを常に考えるようにする。これだけで、コメントもだいぶ得意になるはずです。

特にコメントすることが思いつかないときは、無理に反応しなくていいと思います。自分なりの視点を出せるときや、追加情報を組み込めるとき、本当にすごく同意したときなど、何かしらのメッセージがあるときだけコメントすればいいんじゃないでしょうか。

夏野剛の「コメント力」の秘訣
1. 真意が伝わっていれば、炎上もいとわない
2. 自分の「見立て」に自信を持つ
3. 良いコメントは長文の分析コメントか、短文の瞬発コメントだ
4. コメントを書く前に一拍置き、考えを整理する

(取材・文:村井京香、撮影:福田俊介)

*明日掲載の「飯田泰之、コメントは話すなら15秒、書くなら120文字」に続きます。