ユーザーが口にするのは「スタッフが友人のようだった」
「シャオミハウス」が次々につくられた理由
2015/8/13
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。前々回と前回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
本編第3回:ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」
本編第4回:シャオミのファン育成戦略、「ランク分け」で競争心を煽る
本編第5回:シャオミ、CEO雷軍が重視した「起業家としてのブランド価値」
本編第6回:シャオミがつくっているのは商品ではない。ライフスタイルだ
本編第7回:シャオミCEO雷軍のポリシーは「神は細部に宿る」
本編第8回:雷軍本人こそがシャオミの「トップカスタマーサービス」
アフターサービスという「メディア」
発売当初、シャオミでは、携帯電話販売数があまりにも急速に伸び続けたため、アフターサービスが追いつかなくなり、非難を浴びた。雷軍は批判に対し、こう答えた。
「シャオミは急速に成長している最中です。われわれは自信と決意をもってアフターサービスをいいものにしてみせます」
もし、アフターサービスの問題が解決しなければ、シャオミは多くのユーザーを失うことになるだろう。それは、耐えがたい損失となる。
ほどなく「シャオミハウス」という施設が次々につくられはじめた。シャオミハウスでは、ユーザーは携帯電話を手に取ることができ、商品コンセプトの説明か操作方法のレクチャー、ひいては、ゲームテクニックなどの質問にまで、シャオミのスタッフが熱心に答えてくれる。
シャオミハウスは、温かみのないカウンターを通じて、無機質にユーザー対応をするための場所ではない。スピーディーかつ細やかなアフターサービスを提供する場所なのである。
シャオミハウスはすぐに各地域のシャオミユーザーが集う場となった。シャオミハウスでは定期的にオフラインイベントも行っており、ビーフンなら自由にそれを楽しむことができる。
雷軍はシャオミハウス創設にあたって1つの原則を設けた。
「サービスの質の向上といい評判を目指し、最良のメンテナンスをする。利益を中心に考えてはいけない」
シャオミの携帯電話は2000元以下だ。よって、メンテナンス費用がそれに比して高すぎることで評判が落ちるのは避けたいと、雷軍は考えていた。
実は、携帯電話のメンテナンスは大変高利益なのである。ディスプレイを交換するための相場は4~500元、キーを1つ直すのに、7~800元だ。雷軍はこのメンテナンスによる利益を捨てようと主張した。ユーザーが離れる方が、利益以上に問題だからだ。
2011年4月6日、全国で最初のシャオミハウス―「北京シャオミハウス」が誕生した。シャオミのアフターサービスは、このときはじめて正式にスタートしたといえる。
2012年3月11日、鄭州、長沙、無錫、東莞、済南、大連の6都市の「シャオミハウス」が一斉に開業し、シャオミは全国的に拠点を配備した。現在、シャオミは全国で29の「シャオミハウス」を展開し、大都市すべてに設置している。
2014年6月10日、シャオミは「シャオミサービス『いいね!』月間」をはじめた。シャオミハウスかアフターサービススポットにはこう書かれたポスターが貼ってある。
1. 18のシャオミハウスでは保護フィルムを無料でお貼りいたします。
2. 任意のシャオミハウスかアフターサービススポットにご来店になると、無料で携帯電話のクリーニング及び検査、カスタマイズ、ソフトウェアのアップグレードなどのサービスが受けられます。
3. 任意のシャオミハウスかアフターサービススポットにご来店になると、メンテナンスを受けていない携帯電話を無料でメンテナンスいたします。
4. 1時間以内にメンテナンスしてお返しします。
5. 18のシャオミハウスと、500のシャオミ公認アフターメンテナンスセンターへ行き、アフターサービスをご体験いただき、オフラインでの『いいね!』キャンペーンにご参加いただくと、抽選でプレゼントが当たります。
この「シャオミサービス『いいね!』月間」で提供したサービス項目の大部分は、シャオミではなく、ユーザーが決めたものだ。
フィルム貼り、清掃、修理など、多くのメーカーが高い価格をつけているサービスをすべて無料にしたことによる「お得感」は大変強かった。
また、これらの無料サービスはシャオミの携帯電話に限ったサービスではなかったため、無料フィルム貼りにやってくるユーザーの手にはシャオミだけでなく、Apple、サムスンなど、2台あるいはそれ以上の携帯電話が握られていた。
シャオミハウスのスタッフはそれを見ると、ユーザーが持ってきたすべての携帯電話を積極的にクリーニングし、フィルムを貼り替えた。その様子を見たユーザーは喜び、「お得だなあ」と呟いては、友人を誘ってまたやってきた。
ここでもシャオミはまた「期待を超え」、ユーザーの最大の驚きを引き出した。統計によると、シャオミハウスは週末には一店舗あたり300人の客を受けつけたという。
シャオミハウスを体験したユーザーは、口々に「スタッフが友人のようだった」と語った。
「他の携帯電話のアフターサービスは、ただ用件を受け付けるだけで、ユーザーが携帯電話をふだんどんなふうに使っているかなんて聞きもしないのに」
まさに、雷軍の言葉のとおりである。
「究極思考をもってアフターサービスのレベルアップを図り、『ユーザーと友だちに』という理念を体現すれば、新しい業界の基準を作ることができる。これは2014年のシャオミの最重要任務になるだろう」
「シャオミサービス『いいね!』月間」の直接の目的は、ユーザーの参加を促し、全国にシャオミの「究極思考」と「ユーザーと友だちに」という理念を浸透させることであった。
シャオミが製品に関して持つ究極思考は、アフターサービスのシステムにも活かされている。「参加感」と「ユーザーとのふれあい」を重視し、イノベーティブな方法で業界にサービスの新しい基準をつくりあげた。
企業とユーザーが接触する最後のポイントであるアフターサービスは、ユーザーをつなぎとめるのに有効だ。アメリカの「ホテル王」ことヒルトンはかつてこう言っている。
「ヒルトンホテルから帰るとき、ぜひ改善すべき点などを教えてください。あなたが次に我がホテルにおいでになったときには、決して同じ思いをさせませんので。これが、わが社の経営の秘密です」
アフターサービスが良ければ、次の購入の呼び水になる。消費者の間でいい評判が確立すれば、すぐに噂は広まる。だからこそ、シャオミはアフターサービスのためのコストを惜しまない。
シャオミにとって、アフターサービスとは、もはやユーザーの相談に対応するなどという初歩的なものではない。アフターサービスは顧客との交流のチャンスであり、ユーザーがシャオミの文化を理解するためのひとつのメディアなのである。
*本連載は、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」と第8章「エクスペリエンス」を抜粋、同書の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムとともに掲載し、今回で最終回です。シャオミの戦略の詳細は、同書もぜひご覧ください。