Xiaomi_09_bnr

小さな改良の積み重ねがユーザーを感動させる

シャオミCEO雷軍のポリシーは「神は細部に宿る」

2015/8/11
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。第1回と第2回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
本編第3回:ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」
本編第4回:シャオミのファン育成戦略、「ランク分け」で競争心を煽る
本編第5回:シャオミ、CEO雷軍が重視した「起業家としてのブランド価値」
本編第6回:シャオミがつくっているのは商品ではない。ライフスタイルだ

神は細部に宿る

雷軍は海底撈にサービスを学んだ。海底撈のサービスのカギは、細かい部分で人の心を動かしている点にある。雷軍曰く、「僕は、長い間、海底撈がどうしてこんなに人気が出たのか考えていた。あるとき海底撈で食事をしていて、食べきれなかったスイカを持って帰ろうとすると、スイカをまるまるひとつ持たせてくれた。そのとき、なぜ人々が海底撈のファンになるのかがやっとわかったよ。人を感動させるサービスの本質は細部をおろそかにしないことにある」。

スマホの普及とともに、携帯電話でインターネットにつながることは、食事したり街をぶらついたり遊んだりするときに必要不可欠のものになった。いまや、人々の間には、新しい症状が蔓延しはじめている。「Wi-Fi依存症」だ。どこへ行っても、まずWi-Fiがあるかどうかを確かめる。彼らはWi-Fiなしでは生きていけない。

2014年3月、人々のWi-Fiに対する渇望を満たすため、シャオミは、バージョンアップしたMIUIに「無料Wi-Fi」機能を搭載した。シャオミは、無料Wi-Fiプロバイダーであるウィーワイド(迈外迪)と提携し、シャオミの携帯電話ユーザーに向けて無料Wi-Fiを提供した。

ウィーワイドがサービスを提供している地域では、シャオミの携帯電話は自動で無料Wi-Fiの電波を見つけ出し、接続するかどうか聞いてくる。「イエス」をタッチすると、すぐにWi-Fiにつながる。

この一連の作業でID番号や、パスワードを入れるなどの面倒な作業は必要ない。ウィーワイドはすでに全国各地のカフェ、レストラン、ホテル、飛行場、駅などを含む2万以上のスポットを設置しており、シャオミのユーザーはこれらの場所ならどこでも無料Wi-Fiを利用できる。

シャオミは今後さらに無料Wi-Fiの使える地域を広げる予定だ。それこそが、ユーザーの「使用感」を高めることに直結する。雷軍曰く、「この小さなサービスが多くのユーザーに歓迎されている。実際、この種の改良がシャオミの携帯電話の中には数えきれないほどあり、小さな点でユーザーを感動させている。一度利用しさえすれば、なぜこんなにシャオミに人気があるかわかるだろう」。

雷軍は、こうも言っている。

「リーダーなら、細部においてまでこだわりを発揮することができるだろう。あるいは、すでにあなたのチームの中にそのような文化が根付いているかもしれない。そうなっていれば、うまくいく。柳伝志の話を引用すれば、これは、誰よりもしっかり土台を固めるということだ。しっかり土台を固めていさえすれば、少しぐらい遅れをとっていてもなんということはない」

雷軍をよく知る人は皆、いつも彼のシャツにはしわのひとつもなく、革靴にも汚れはひとつもないことを知っている。彼はことの大小にかかわらず、他の人がいい加減にしがちなことにも気がつく性格なのだ。雷軍曰く、

「すべてのことは細部から成り立っている。細部がちゃんとしていれば、すべて自然とうまくいく」

人を食事に招待するというささいなことでも、雷軍のこだわりは変わらない。

「一人の客を招待するにはよっつのプロセスを踏まなくてはいけない。1つ目、前もって1週間か2週間前に、その相手に電話して状況を話しておく。2つ目、1週間前に手紙かファックスで招待状を送っておく。3つ目、1日前に確認を入れる。4つ目、招待した時間の30分前に相手に電話をして確認をとる。ここまですれば、客は必ず来てくれる。それでも来なければ、相手はあなたに大きな借りを作ったことになる。次は1回の電話で必ず来てくれるだろう」

この4段階を踏んではじめて「もてなし」と呼ぶことができる。

雷軍が事前の準備をいかに重要と考えているかは、次の言葉に表れている。

「何かの会の準備で、100人を招待していたら、80だけ椅子を用意しておけ。すべての席が埋まるようにするためだ。始まる直前に数列空いているというような不格好なことになってはならない。会の後は、それぞれの出席率を調べなければいけない。毎回10人誘って6人しか来ないようなら、やり方に問題がある。無数の細かい事柄を積み重ねてこそ、会全体の質が確保できる」

すべての細部は、ユーザーの心を動かすためにある。シャオミでは、包装、商品や社名のフォント、品物の大きさから並べる位置に至るまで、すべて雷軍が目を通している。

また、シャオミのウェイボに載せられる画像はすべて雷軍が決めたものだ。このようにして、シャオミが世に出すすべてのものに一貫性が担保され、シャオミは高い品質とブランドを保っているのである。

携帯電話の最も基本的な機能は通話だ。他のスマホと同様、シャオミも通話に関しては細かく手を掛けている。たとえば、ユーザーにマークを付ける機能。知らない番号から電話がかかってきたとき、シャオミの携帯電話なら自然に、たとえば「宅配業者の配達通知」とか「保険セールス」といったようにマークをつけることができるようになっている。

シャオミでは、着信音すらも考え抜かれている。音が数回鳴ると、自然に音量が上がり、最後の数回は最大音量になる。こうすれば電話の音を聞き逃して電話を取り損なうこともない。

また、着信音が鳴っているとき、電話を手に取ると、方向の変化から電話をユーザーが手に取ったことを感じ取り、自然に音が小さくなる。電話に出にくい状況で着信音が鳴り響いてユーザーが困ることがないよう、このような機能を付けられているのだ。

一斉に複数の相手にショートメッセージを送るとき、文章が形式的すぎて相手に素っ気ない印象を与えてしまっていないか不安に思ったことは、誰しもあるだろう。

この問題に関しても、シャオミは一斉メッセージであっても、相手の名前を入れられるように細かく機能を改良した。たとえば「呼び名」+「中秋快楽(中秋節、おめでとう)」と入れると、一斉メッセージを送るとき、電話が自然に名前を入れてくれる。

もちろん、個人ごとに名前を変えることもできる。まさに「スマート」フォンの名にふさわしい。また、シャオミの電話にはプライベートショートメッセージという機能があり、ユーザーがそのメッセージに「プライベート」というマークを付けたら、普通の画面からはどうやってもそのメッセージを見つけられなくなる機能もついている。

ユーザーとのコミュニケーションにおいて、ユーザーが多くの細かな問題や意見を提案してくれることをシャオミは重視している。あるとき、ユーザーがガールフレンドの写真を着信画面にできるかどうかと聞いてきた。

「やっと彼女のいい写真が撮れたんで、いつでも見ていたいんだ」

まもなく、MIUIに電話がかかってくると写真がフルスクリーンになる機能がつき、多くのユーザーが喜んだ。

もちろん、シャオミもユーザーの意見をすべて全面的に採り入れる、というわけではない。まず、調査や分析をし、それからその意見を採用するかどうかを決めている。このようにして、有意義な意見を取りこぼすことを防ぐと同時に、極端に偏った意見を受け入れないようにも留意している。

黎万強はこのように語る。

「情報が早く伝わるインターネットにおいては、イノベーションはもちろん重要だ。だが、革命的なイノベーションをもってしても、ユーザーのニーズに応え続けられるとは限らない。では、どうすれば、ユーザーのニーズに応え続けられるのか? それは、姿勢の問題だ。商品の細部にまでとことん工夫と技術を凝らすこと。これこそが、企業に求められる正しい姿勢なのだ」

*8月5日から毎日、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。
 シャオミ_書籍紹介