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ユーザーの生活を変えることがシャオミのゴール

シャオミがつくっているのは商品ではない。ライフスタイルだ

2015/8/10
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。第1回と第2回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
本編第3回:ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」
本編第4回:シャオミのファン育成戦略、「ランク分け」で競争心を煽る
本編第5回:シャオミ、CEO雷軍が重視した「起業家としてのブランド価値」

体験こそがすべて

雷軍曰く、「すべてのインターネット企業は、ユーザーの使用感と口コミを少しずつ、究極まで押し上げていかねばならない。これは、インターネットが旧来の産業にもたらした最も重要な思想である」。インターネット時代には、すべての業種、すべての企業がサービス業となるのだ。

シャオミをはじめるにあたって雷軍はまず、ユーザーの心の声に耳を傾けようとした。当時、Androidを搭載した携帯電話は中国市場において約90%のシェアを占めていた。しかし、多くの人がAndroidに関して文句を言っていた。なかでも最も多く聞かれた不満は、「電池の減りが早すぎる」というものだった。

買ったばかりの携帯で、何の機能も使わず、電話もせず、ネットにもつながず、ショートメッセージも受け取っていないのに、12時間で電池が切れてしまうというのだ。ユーザーの不満に対し、雷軍は、MIUIを使って電池の問題を解決しようと試みた。

シャオミの研究開発チームは、Androidの携帯電話の電池がなくなる根本的な原因は、インストールされているアプリをバックグラウンド状態にしていると、システムが頻繁に再起動することにある、と分析した。この問題に関して、MIUIシステムが開発した第一の機能が、アプリケーションコントロールであった。

この機能があればどのアプリをバックグラウンド状態にして、どのアプリを自動で再起動できるようにするか、ネットにつなぐようにするかをユーザーが自分で設定できる。そうすると、100個ものアプリケーションをインストールしている状態でも、待ち受け時間は以前の2倍になった。

このイノベーションにより、「シャオミ1S」の待機時間は最長7日まで延びた。このイノベーションにユーザーは喜び、その反応はすさまじかった。このとき、雷軍はユーザーの「使用感」に配慮することが企業の競争力の源泉だと確信したのだ。

北京や上海などの都市では、多くのビジネスマンが毎日1~2時間を通勤に費やしている。それゆえ、彼らはバスや地下鉄の中で携帯ゲームをするのが習慣になっている。

特に、80年代以降に生まれた人たちにとって、携帯ゲームはすでに生活の中で欠かすことのできない娯楽となっている。彼らに最高の使用感を体験させるために、シャオミはゲームのプラットフォームの構築にも大変注意を払っている。

携帯電話のスペックに関して、シャオミはどのバージョンでも3つの「最」にこだわっている。すなわち、「最高の性能」「最大のメモリ」「最高の画像処理能力」だ。

たとえば、「シャオミ1」と「シャオミ2」はどちらも一流メーカー「高通」の主力のチップを初めて搭載した機種だった。これらのスペックの高さはゲームのスムーズな進行を保証し、ユーザーに究極の使用感を提供するために欠かせない要素だった。

また、シャオミはゲームメーカーと提携して、オーダーメイドのゲームを売り出すことにも挑戦している。2014年の「ビーフンフェア」で、あるゲームメーカーがシャオミのプラットフォーム上にてゲームを公開した。その中には、あちこちに「シャオミ」の名前とイメージキャラクターが現れ、シャオミユーザーに親近感を抱かせた。

洪峰曰く、「人が必要とする『特別感』や『品のある楽しさ』を満足させることはとても重要なことだ。特定のプラットフォームに対して、特定の人たちにゲームをつくってもらったからこそ、そのニーズを充分に満足させることができた」。

このようにわざわざオーダーメイドで作られたゲームは、ビーフンたちに「自分のためつくられたゲームだ」という特別感を提供し、見えない形で使用感を高めた。

オーダーメイドの携帯ゲームを出したことで、ユーザーはいつでもどこでもゲームに没頭することができるようになった。しかし、家でゲームを楽しむときには、テレビに比べて小さいスマホのディスプレイでは、没頭できない。

そのため、シャオミのゲームは周辺設備との接続が常に考慮されている。たとえば、シャオミが出しているセットトップボックス「シャオミボックス」を使えば、特大ディスプレイで心ゆくまでゲームを楽しむことが可能だ。

シャオミでは、携帯電話、シャオミボックスに続いて、シャオミテレビを売り出した。シャオミの開発チームはこう豪語する。

「シャオミがつくっているのは商品ではない。ライフスタイルだ」

シャオミが今後続けて出す商品は、生活の様々な分野に波及していく。シャオミの「ユーザーエクスペリエンスシニアディレクター」である唐沐はこう語る。

「シャオミはある商品を開発する際に、必ず、全体のシステムの中で、それぞれの側面を総合的に考えます。

われわれがターゲットとしているのは、どんな客層で、その客層はどのレベルの体験を要求しているのか? より際立っているのはどのような使用感だろうか? 商品の性能をどのように配分すべきだろうか? 価格はどのあたりが最適だろうか? というように。

一連の要素を総合的に考えてこそ、真に完璧な商品設計ができるのです。ユーザーはこの製品を家に持って帰り、使用し、楽しんで使い、そしてその商品を手放せなくなる。こうなって初めて、ユーザーの生活を変えたといえるのです。これが、シャオミのゴールです」

シャオミに、理由なく作られている製品は存在しない。すべて、ユーザーのニーズに触発されてつくられている。ユーザーにより素晴らしい体験をしてもらうことが、製品開発の根本だ。このため、カスタマーサービスにも万全を期している。

2013年6月、シャオミは業界をリードするアバイアオーラプラットフォームと提携し、新しいカスタマーサービスシステムを取り入れた。

このシステムにおいては650人のオペレーターが同時に対応可能で、共通のインターフェイスを通じて、顧客からの問い合わせを、最適な社員に振り分けることができる。受けた社員は、通話、メール、インターネットなど様々なルートを使って顧客の問題を解決していく。

このシステムのおかげで、シャオミは社全体で顧客のフィードバック情報を収集及び共有し、即座に的確な解決方法を採ることができている。新システムは、スマートで迅速かつ自動化されたカスタマーサービスを実現するのに役立った。また、これにより、顧客はどのチャネルを使っても均質のカスタマーサービスを受けることが可能になった。雷軍曰く、

「われわれは顧客の使用感を非常に重視しています。しかしユーザーの体験というのは、製品を使用した体験だけではありません。われわれは、顧客が接するすべての局面で、最高の経験をしていただきたいのです。シャオミの新しいカスタマーサービスのプラットフォームはこの目標を実現するために非常に重要な作用もたらすことでしょう」

シャオミは商品販売の末端に位置する物流においても抜かりがない。

2014年3月末、物流業者、順豊の創業者兼総裁の王衛が、シャオミのインターネット思想を理解しようと視察にきた。雷軍はこの機を借りて、シャオミも物流をもう一段階レベルアップしようと考えた。

2014年4月8日、「ビーフンフェア」において、シャオミは130万台の携帯電話と480万個の付属品を売り出したが、そのうちの60%の携帯電話の配送は順豊に任された。順豊はシャオミのユーザーのために、専用の人員と輸送車を確保し、48時間内に18都市に配送することを可能にした。

「ビーフンフェア」での大量の販売に対応するために、シャオミは2カ月で天津、鄭州、広州、南京に新たに4つの倉庫を建設した。2014年4月までに、シャオミは全国で10の物流センターを所有し、総面積は5万㎡(2年前の最初の物流センターはたった900㎡であった)となり、物流チームも、400人から1500人に増員した。

シャオミのユーザーの使用感を重視するという姿勢は、商品開発、デザイン、カスタマーサービス、物流配送などすべてのプロセスに現れている。全力で「究極」を目指し、ユーザーの期待を上回ろうと、改善に余念がない。

インターネット時代において、情報は日に日に可視化されるようになった。いまや、消費者のサービスに対する満足度は、インターネットを通じて瞬時にすべての人に知れ渡る。ユーザーは市場の支配者であり、企業や商品の生殺与奪の権利を握る存在なのだ。

以前は、商品を消費者の手元に届ければそれで商売は終了だったが、現在では、そのときが商売の始まりなのである。

*8月5日から毎日、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。
 シャオミ_書籍紹介