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雷軍は心からユーザーを「友人」と捉えた

シャオミCEO雷軍が重視した「起業家としてのブランド価値」

2015/8/9
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。第1回と第2回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
本編第3回:ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」
本編第4回:シャオミのファン育成戦略、「ランク分け」で競争心を煽る

起業家こそが一番のブランド

20世紀初頭より、国外の国家首脳のイメージデザインを専門的に行っている機関が出現しはじめた。ビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチ、スティーブ・ジョブズなどの世界的な企業のCEOなどを含む様々な有名人も、ブランド戦略及びそのPRを経て、時代の偶像となっている。起業家個人のブランドや評判は、今や企業のマーケティングの重要なツールのひとつだ。

雷軍もまた、シャオミを始めたその日から、個人のブランド価値というものを大変重要視してきた。シャオミはインターネットを使ったマーケティングモデルで、数多くのファンを生み出した。

「ファン」というからには、その対象となる偶像が必要となる。ビーフンたちの偶像は、シャオミの携帯電話ではなく、雷軍本人だ。ビーフンたちの多くは、今までスターに夢中になったことはないという。雷軍は、彼らが唯一追いかけるアイドルだ。

ビーフンたちの特徴を理解すれば、この話も誇張ではないとわかるだろう。シャオミの分析によると、典型的な「ビーフン」は、以下のようなタイプだ。年齢は20代で、職業は理系、経済力は悪いとまでは言えないが、購買能力には制限がある。

これらの若く、コストパフォーマンスに敏感な層が雷軍をアイドルとして崇めるのは不思議ではない。ビーフンたちは雷軍をビジネスの伝説であり、スマホの神様であるジョブズになぞらえ「レイブズ」とよび、二人を同列に見ている。この呼び名ひとつとっても、ファンの中で雷軍がいかに大きな存在かがうかがえる。

雷軍は重度の携帯電話マニアを自任している。彼が使った携帯電話は60台にのぼり、その中には、モトローラの初期の煉瓦のように大きい携帯電話も含まれていたほどだ。雷軍自身の携帯電話に対する愛着も、マニア気質を持つファンたちの共感を呼ぶ理由のひとつである。

雷軍は個人的な魅力を除いても、非常に高いセルフブランディング能力を備えている。2011年8月16日、北京の798芸術エリアで行われたシャオミのはじめての携帯電話発表会で、雷軍はジョブズのような黒のTシャツ、ジーンズで、アングリーバードのスニーカーをはいていた。

黒×ジーンズというジョブズの象徴的なファッションとような身振り手振りで情熱を込めて語る姿をみると、雷軍とジョブズを結びつけずに考える方が難しいほどで、そのスタイルは大いに話題を呼んだ。

シャオミのステージデザインもまた、Appleの携帯電話発表会を参考にしていた。プロジェクターとスクリーンの位置、理念の提示方法、すべてが驚くほどAppleの発表会に似ていた。

一回の成功で、瞬く間に雷軍とシャオミは人気を集めた。メディア関係者は皆「レイブズ」と彼をもてはやした。しかし、シャオミが次々と大きな成果を上げるに従い、雷軍にまとわりついていた「ジョブズ」の影は少しずつ消えていった。彼自身が伝説になれば、他者の威光を借りる必要はもはやないのだ。

雷軍はソーシャルメディアを上手く使い、影響力を広げていった。彼はウェイボマニアだったが、無駄な書き込みはほとんどなく、すべてがシャオミの携帯電話関連に関する話題だった。メディアやビーフンたちの賞賛、そして批判も、彼はすべてそのままリツイートしたり、コメントを返したりした。

シャオミの設立当初、雷軍が毎日その精力の大部分を注いでいたのは、ビジネスパートナーとのつきあいではなく、ビーフンたちとのやり取りであった。彼は、ファンのアイデアのなかに優れたものがあると、フォーラムの中で公表し、そのファンの名がフォーラム内で知られるようにした。

アイデアを持ったファンを招聘して、シャオミに入社させたことさえある。ウェイボを通じて、雷軍はファンとコミュニケーションを図り、情報を集め、彼らの心の声に耳を傾けた。このようにして自らユーザーや、大衆との距離を縮めてきた。雷軍はこのようにして大量の熱烈なビーフンたちを育て上げ、圧倒的な影響力を持つにいたった。

重要なのは、雷軍は、決して孤軍奮闘してきたのではないということだ。シャオミは既に全方位からソーシャルマーケティングの体制を整えており、ウェイボもそのマーケティングツールのマトリクスを形成する要素のひとつにすぎない。

ウェイボのアカウントには「@雷軍」の他、「@黎万強」、企業アカウントは「@シャオミ」、商品は「@シャオミ携帯電話」、フォーラムは「@シャオミコミュニティ」、ファンチームの「@シャオミファン後援会」など多岐にわたった。これらを有効に活用し、携帯電話の「シャオミ1」と「シャオミ2」関連の投稿は100万回近くリツイートされ、コメントは全部で50万以上に上った。

また、起業家としてブランドを確立するにはネット上でのやり取りやPRだけでなく、オフラインでの活動も重要となる。雷軍は心からユーザーを「友人」と捉え、ビーフンたちの感情に大いに気を配っていた。どんなに業務が忙しくても、彼はファンとの交流を図るためにできる限りの努力をした。

有名な「ビーフンフェア」という盛大なファンミーティングで、雷軍は直接ファンと交流を図り、意見を交換するだけでなく、ファンにミニカーやオリジナルのマスコットなど、心を込めて用意したプレゼントを贈った。

物が溢れる社会においては、起業家や有名人だけでなく、すべての人が自分独自のキャラクターを確立することに気を使うべきである。

持って生まれたものであろうと、努力して作り上げたものであろうと、何千万といる人の中から抜きんでるにはキャラクターが必要だ。個人のイメージはいまや口コミ、ブランドに直結する、マーケティングのひとつの手段なのである。

*8月5日から毎日、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。
 シャオミ_書籍紹介