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コアユーザーは極秘商品の開発にも関与

シャオミのファン育成戦略、「ランク分け」で競争心を煽る

2015/8/8
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。第1回と第2回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
本編第3回:ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」

ユーザーのマネジメント

ウェイボ、ウィーチャット、QQ空間などの新興メディアにおいて、シャオミファンの数は、単純に合計すると数千万人になる。この大規模で、熱のあるファンのグループを、どうやってマネジメントすればいいのだろうか。

シャオミは、ユーザーとファンをランク分けし、ピラミッドを作るという方法をとっている。一番下はシャオミのユーザー。彼らはウィーチャットやウェイボなどを通じてシャオミの活動に参加しているが、それほど深入りはしていない。この層は数こそ多いものの、熱心なフォロワーではない。中間層は熱狂的なファンである「ビーフン」、そしてピラミッドの頂点にいるのが、様々な決定に関与できる「マニア」である。

この集団において、もっとも自慢できる立場は「栄誉開発組」、略して「ロンズー(荣组儿)」だ。「ロンズー」という称号を与えられたユーザーは、方針決定への関与を奨励される。たとえば、彼らは未公開の開発版を事前に試用することができる。

条件は新しいシステムに自分の視点で評価を与えられる批評眼とテクノロジーに対するリテラシーを備えていることである。彼らの権限は大きく、極秘商品の開発にさえ参加できる。

そのため、シャオミのエリートプログラマーは、「ロンズー」に深い敬意を抱いている。もし「ロンズー」がシャオミのプログラマーに「この問題が是正されなければ、ダメなバージョンだと判断されます」と言えば、プログラマーはすこぶる緊張して、すぐに「ロンズー」の提示した問題を解決する。

また、「ロンズー」はシャオミの要請を受けてMIUI V5という商品の研究開発にも関与した。この件に関して、MIUIの責任者である洪峰はこう語る。

「コミュニケーションを双方向的にするためには、ユーザーにも権限は必要だ。もちろん、前もって『ロンズー』にV5という新バージョンを試用させることには、機密漏洩のリスクがあった。しかし、われわれは10人程度のユーザーを選び、試用してもらう道をとった。これらのユーザーは『ロンズー』の中で人柄や品性を試されてきている、いわばユーザーの中の『常任委員』だった。本当にユーザーを信じれば、ユーザーもわれわれを信じてくれる」

シャオミの熱狂的ファンは学歴、経歴、職業とは関係なく、「テクノロジーの最新トレンドを追い求める」という共通点を持つ。彼らはシャオミブランドに信仰を持ち、その忠誠心からシャオミの応援団となり、外に向けて積極的にPRする。また、シャオミブランドの長期的な発展もサポートしてくれている。

シャオミのピラミッドは、底辺から頂上まで、クラス分けして管理されている。安定的で戦力の高いファン集団をつくるために、人に応じて適切な対処をしているのである。

期待値を下げる

2011年12月17日、AAMA(Asia America Multi-technology Association)での講演において、雷軍は鋭い問題提起をした。

「ある携帯電話ブランドでは一年間に広告費を20億元も使っていると聞きました。どうして、わが業界は、この20億元をユーザーに還元しないのでしょう? 街いっぱいに広告を打ち、数百元の携帯電話を数千元で売っている。まるで、中身はたいしたことがないのに高い値段のつく健康食品のようだ。こんなことは長く続きません。今日のようなソーシャルメディアが発達した時代に、口コミより大事なものなんてあるでしょうか?」

過去数年において、経営コストと物流コストは上昇し続け、電気製品メーカーの負担は大きくなった。だからこそ、節約が必要なことはわかっているのだが、なかなか広告に対する投資は削りにくい。

しかし、雷軍はその意見には同意しない。

「もしあなたの商品が本当に良ければ、良い噂が伝わるでしょう。ですから、私はシャオミを企画したとき、インターネットを使って口コミを広めました。マーケティングには一銭もかけていません」

シャオミ設立当初、雷軍は口コミによるマーケティングこそが最善だと決めた。しかし、口コミとは一体何だろうか。雷軍はこう言う。

「海底撈は、一見特別に豪華でもないが、あそこのサービスはわれわれの期待を超えている。だからこそ、素晴らしいと感じるのだ。一方、わたしは世界一のホテルだと言われるドバイのブルジュ・アル・アラブに行ったとき、がっかりした。わたしががっかりしたのは、あのホテルが悪かったからではない。期待しすぎていたのだ。口コミの真髄は、すなわち『期待を超える』ことに尽きる」

ユーザーの期待を超えるために雷軍が導き出したふたつの方法は、極めてシンプルだ。

ひとつは、「ユーザーの期待値を下げること」。もうひとつは「ユーザーのニーズを超えること」。

隠遁生活に別れを告げ、再び世に出てシャオミを作った際、雷軍は創業チーム内部に向けて「機密の保持」と、「控えめにスタートする」という2点を強調した。そうすれば、ユーザーの期待値はゼロになる。

2010年4月6日のシャオミ設立後1年以上が経った2011年7月12日、ようやくシャオミは雷軍が作った会社で、MIUIがシャオミの製品であることが外部に知らされた。このとき、MIUIはすでにビーフンたちの口コミだけで既に世界中の50万人以上の携帯電話マニアの注目を集めていた。世界24カ国のMIUIファンはそれぞれの言語によるバージョンを自主的に作っていた。

ある人が雷軍にこう聞いた。

「もし、最初からシャオミを華々しく始めていたら、もっと多くのユーザーを獲得できていたのではないですか? MIUIの使い勝手もよかったのだから、雷軍と名だたる創業者チームの知名度を活かして派手に宣伝することもできたはずだ」

しかし、雷軍の意見は違った。

「ユーザーに期待を抱かせなかったからこそ、彼らはこの商品を良いと感じてくれたのだ。もし、事前の期待値が高ければ、商品をいいと思ってくれたかどうかはわからない」

これこそが、「ユーザーの期待を超える」ということだ。

雷軍曰く、「ユーザーの体験が最も重要なのだ。企業が提供するものは、包装紙や箱であれ、30日無料返品可能制度であれ、ユーザーの期待を超えるために存在する」。

シャオミの携帯電話が世に出たとき、税務局からシャオミに与えられた「発票(公式に認められる領収証)」が非常に少なかったため、多くのユーザーに「発票」がすぐに発行できなかったことがあった。

のちに、印字発票(機械で印字するタイプの発票)の申請を税務局が承認したため、シャオミではすぐさま12台の高速印字機を使って、10日以上作業を続けたが、あまりの作業量に2台の印刷機が壊れてしまった。このとき、シャオミの判断基準は大変シンプルだった。

「何よりも優先して、早く発票をユーザーの手に届けなければならない」

そのため、発票はすべて速達で送った。また、雷軍は、発票とともに、イメージキャラクターのミトのかわいらしい年賀カードと携帯電話の保護フィルムを一緒に送るよう細かく指示を出した。ユーザーは発票とそれらのプレゼントを受け取ると大変喜び、感謝の手紙がシャオミに数多く寄せられたという。

2012年4月27日、シャオミは「最初の30万台を予約してくれた『ビーフン』への感謝キャンペーン」を打ち出した。最初の30万台の携帯電話ユーザーのためにわざわざ「感謝カード」を作り、全員に無条件に100元分のクーポンを発行した。

このクーポンはシャオミのサイトで、他に何も買わずとも、100元分の商品ならどれでも買えるようにするものだった。ユーザーは携帯を買った後に、さらにメーカーから何か貰えるなどとはまったく期待していなかった。

だからこそ、シャオミは彼らに100元分のクーポンを発行した。これはユーザーの期待を超え、大変驚かせ、喜ばせた。このようにして、シャオミのいい評判は自然と口コミで広まったのである。

すべてのマーケティングにおいて、高品質低価格は、最強かつ最も簡単にユーザーの期待を超えることができる武器である。

雷軍曰く、「ある友人が、PC産業の問題は、すべての作り手が『ユーザーは最も安い商品を求めているはずだ』と考えている点にあると言っていた。その結果、確かに商品は安くなったが、ユーザーを喜ばせることはなくなった。本当は、ユーザーが最も求めているのはいい商品なんだ。そしてその次に、安さを求める」

シャオミとしては、低コストであっても高品質でなければまったく意味がなかった。品質を損なわずに低価格を実現するにはどこでコストを削減できるだろうか? シャオミは、流通コストに着目した。

雷軍はこう語る。

「シャオミは携帯電話をキャリアからの注文ではなく、ECのみの販売とすることで、最大限中間コストを削減した。また、インターネットによる直接販売をするにあたって、インターネット広告を利用したが、実際の効果に応じて広告費用を払う方式を採っており、運営コストは旧来の広告手法に比べて大幅に抑えられ、その結果小売価格も低くできた」

2012年8月、「シャオミ2」の発表会で、雷軍は高品質低価格というのを利用して、「ユーザーの期待値を超える」ひとつの実験をしてみた。

開場したとき、雷軍は「シャオミ2」に使われているCPUがAPQ8064 1.5GHzであると発表した。このCPUは「高通」社製のハイエンド商品である「驍龍(シャオロン)S4シリーズ」の商品であり、そのなかでもこの製品の性能は最高だとも述べた。

また、「シャオミ2」には、強力な「心臓」が備わっている、とも言い、その後に、一連のデータを発表した。800万画素のメインカメラ、200万画素のフロントカメラ、高い図形処理能力、PPIの極めて高い高機能ディスプレイなど、どの数値を見ても「シャオミ2」の性能の高さを物語っていた。

ファンたちがこのハイスペックスマホの値段を推測しはじめ、2500元か3000元か……と考えたときを見計らって、雷軍は高らかに発表した。

「定価は、1999元です!」

このとき、会場は興奮の渦に包まれ、すべての人の購買意欲に火が点けられた。このようにして、この機種は名実ともに「コストパフォーマンスの王様」と評されることになった。

*8月5日から毎日夕方、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。明日は朝に掲載します。
 シャオミ_書籍紹介