他社は容易に真似することができない
ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」
2015/8/7
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。第1回と第2回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
飢餓感商法の功罪
2012年12月、雷軍はウェイボで、こう発表した。
「毎週金曜日に携帯電話の『シャオミ2』を販売します。そして、その販売量は『当日ある分だけ』です」
以前と同じく、雷軍のこの手法はまたしても「飢餓感商法」として批判を浴び、ネット上ではその是非を巡って舌戦が繰り広げられた。
周鴻褘に代表される反対派は、「シャオミの『飢餓感商法』は暴利をむさぼるためのものだ」と考えていた。電子製品は部品の価格下落が早く、一カ月もすれば明らかに製造原価は下がる。そのため、シャオミは知恵を絞って出荷を遅らせ、自らの利益を増やそうとしているというのだ。
周鴻褘はシャオミの「飢餓感商法」は「先物携帯」を売ることにあると考えていた。シャオミは将来売るべき携帯電話を現在販売し、価格の低さでライバルを打ち負かし、注目と名誉を自分に引きつけようとしている、と。
これに対し、雷軍はこう反論した。
「限定数での販売はシャオミの望むところではない。単に製作が追いつかないだけだ。飢餓感商法なんてものは存在しない。商品があるのに売らないことに何の意味があるだろう? 頻繁に品切れになれば、消費者は嫌な思いをする。それはビジネスのロジックに反する。ハイエンドの携帯電話は各方面のサプライヤーの努力と調整の賜物だ。サプライヤーは皆切磋琢磨している。しかし、不可抗力により、『シャオミ2』の供給状況は非常にタイトになっている」
実際、生産能力の問題の背後には、現在の携帯電話メーカーが直面している共通した問題がある。一旦量産すると、コストとリスクが激増し、ひとつの機種が失敗するだけで企業をつぶしてしまうこともあるのだ。
シャオミの携帯電話が本当に不足しているのか、あるいは、偽の「先物」なのかはともかく、雷軍の消費者心理に対する洞察は鋭い。
2011年9月5日、シャオミの携帯電話のネット予約が正式に解禁となった。その2日後には予約数が30万台を超え、シャオミのサイトは販売ページを一旦閉じることとなった。
2011年12月18日早朝、シャオミは携帯電話の一般の消費者への直接販売を開始した。一人あたり2台限りであったが、3時間後には10万台の在庫がすべて売り切れた。そして2012年1月4日午後、第2弾の10万台もたった2時間で完売してしまった。
消費者はなぜこれほどまでにシャオミの携帯に敏感に反応するのだろうか。
経済学の世界では有名な「羊の群れ」効果というものがある。人は常に多数派の影響を受けるので、周囲がほしがるものをほしがるという心理的反応のことを指したものだ。
シャオミの携帯電話は、売り出されて以来ずっと供給不足の状態が続いており、消費者に我慢を強いてきた。気付かないうちにその希少性と価値は増す。また、手に入りにくくなればなるほど、人の購買意欲はそそられるのだ。シャオミは期待感を醸成することで、消費者の購買欲求を刺激している。
シャオミの携帯電話を買いたいと思うユーザーは、あらかじめシャオミのサイトで予約しなければならず、買った日とそれから一週間以内に、少なくとも2回は、シャオミの公式サイトにログインする必要がある。
また、アクセスする際に、ユーザーは販売ページの他の商品も見る仕組みになっており、ついつい他の商品も買ってしまうことになる。雷軍曰く、
「旧来のメーカーは1台の携帯電話を売ると、それで商売が終わったと思っている。しかし、シャオミにとってそれは商売のはじまりにすぎない。まず、携帯電話でユーザーを惹きつけ、徹底したサービスでファンになってもらう。それから他の方法で商売を続ける。やはり、ただのユーザーよりは、ファンからの方が稼ぎやすい。今何が得られるかは気にするな。そんなに大きな損を出さない状況で、ユーザーを丁寧に扱いさえすれば、最後は必ずわれわれにお金を支払ってくれる」
シャオミの手法について、もちろん、こう忠告する人もいる。
「飢餓感商法は、極度の熱狂の中で、ビーフンの『シャオミ2』に対する期待を高める。だが、もし、ユーザーの忍耐力の限度を超えたら、マイナス効果を生むだろう」
飢餓感商法の前提は常にユーザーの「期待を超える」ことにあり、長く待つ価値があると確信させ続けることだ。現在、シャオミは既に創業初期の生産能力不足の時期を過ぎているが、飢餓感商法と呼ばれる戦略を変更してはいない。
現在、シャオミは「オープン販売」制度を打ち出しており、販売は毎週火曜日の正午のみ行われる。その前の週の金曜日にあらかじめネット上で予約して、購入資格を得て、火曜の販売を待つという制度だ。この「オープン販売」制度は、思いがけず大変なブランド伝播力を持った。
統計によると、毎週の「オープン販売」期間には、シャオミのバイドゥでの検索数は5倍から10倍に跳ね上がる。時間が限られているがゆえに、商品は数秒で売り切れる。買えなかった消費者は次の機会を待つしかない。
シャオミの「飢餓感商法」の成功は多くの企業に影響を与えた。みな、シャオミの真似をして商品の訴求力を高め、消費意欲を刺激したいと考える。しかし、成功者はほんの一握りだ。賛否両論はあるとしても、まず、この手法はシャオミだからこそ可能なのだという事実を否定することはできない。
徹底したサービスによる「ファン」が基盤にあり、高品質低価格の「驚きの声を上げさせる」製品を提供できて、はじめてこの手法は可能になる。それゆえ、いきなり他社が手法だけを真似ても、その効果には天と地ほどの差が出てしまう。
*8月5日から毎日夕方、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。明日、明後日は朝に掲載します。