dronebiz_03_bnr

顧客ニーズ、コストダウンを分析

アマゾンのドローン配送、勝算はあるのか

2015/8/6
前回の記事では、国内市場において農薬散布などで産業用無人ヘリが活用されており、今後は測量や監視などの分野での伸びが期待されることを紹介した。一方、海外ではアマゾン・ドット・コムをはじめとする配送用ドローンの開発が進む。今回は、その可能性を探る。『ドローン・ビジネスの衝撃』(朝日新聞出版)の筆者でITコンサルタントの小林啓倫氏が追う全6回連載の2回目。
第1回:イラク戦争もスマホ操作のホビー機も。そもそも「ドローン」って?
第2回:産業用無人ヘリ先進国の日本、7年後の市場予測は406億円

スイスの郵便局も実証実験

狭い国土に3400もの郵便局があるスイス。面積あたりの郵便局の数では、欧州諸国内でトップクラスである。そんなスイスで郵便事業を担う、国営企業スイスポストの新たな武器となるのがドローンだ。彼らは米国のベンチャー企業であるマターネットと提携し、同社のドローンを配送用に導入することを計画。7月から実証実験を開始している。

実験段階とはいえ、導入されたドローンは1キログラムの荷物を載せて、10キロメートルの距離を飛行できる。しかも、マターネットが用意している専用クラウドに接続して、安全な飛行経路を自動で設定するという優れものだ。当面は、医薬品などの緊急輸送が想定されているものの、実験が順調に進めば、スイスが世界初の「ドローンによる郵便事業」を開始する国になるかもしれない。

アマゾンは本当に2015年内にサービス開始するのか

こうした「ドローン配送」に取り組んでいるのはスイスポストだけではない。ほかにも多くの大手企業が、ドローン配送を実現しようと積極的に投資をしている。中でも有名なのが、米ネット通販大手のアマゾンだ。

2013年12月1日、アマゾンは「プライムエア」と名づけられたサービスを計画中であることを発表した。これは特別に開発した配送用ドローンを使い、注文から30分以内に商品を届けるという大胆なもの。しかもアマゾンは、早ければ発表から2年後の2015年内にも開始すると宣言したのである。

アマゾンが発表した「プライムエア」Amazon.com, Incのサイトから

アマゾンが発表した「プライムエア」(c)Amazon.com, Inc

発表当時、誰もがアマゾンの意図を疑った。いくらさまざまな技術革新を成し遂げてきた彼らでも、さすがにドローンを使った配送は無理があるだろうというのだ。中には「無理なのはアマゾンもわかっていて、株価対策で注目を集めようとしているだけだろう」という声すらあった。

しかし、それから2年が経とうとする今、アマゾンの本気が証明されつつある。アマゾンはドローンの産業利用に関する規制が緩いカナダや英国といった国々に研究拠点を開設し、専用ドローンの開発を推進。今年3月にはついに、米国内で実証実験を行う許可を米連邦航空局(FAA)から勝ち取った。

また、今年7月に米航空宇宙局(NASA)が開催したカンファレンスでは、高度200フィート(約61メートル)から400フィート(約122メートル)の空間を、高速で飛行可能な配送用ドローン専用の空域として確保することを提案するなど、単なる技術開発だけでなく事業環境の整備に向けた働きかけも行っている。

GPSで自分の居場所に荷物が届く?

さらに、アマゾンが作成した特許申請用の資料からは、より大がかりなシステムにドローンを組み込もうとする意図が見えてくる。米特許商標庁のWebサイトで公開されている情報によれば、アマゾンのドローン配送はドローン本体と、複数の機体を管理可能な「UAV(Unmanned Aerial Vehicle、無人航空機)管理システム」で構成されている。

ユーザーがドローン配送を注文し、さらに「ブリング・イット・トゥー・ミー(自分のいる場所まで配送)」オプションを選択すると、ユーザーのスマートフォンからGPSの位置情報が取得される。

UAV管理システムはユーザーの位置情報を定期的に収集し、ユーザーが今どこにいるのかを確認。ユーザーが自宅から離れたとしても、今いる場所にドローンが向かうように飛行ルートを設定して、機体側に指示する仕組みだ。

加えて、外を飛んでいるドローンは、天候や道路状況といった周辺環境に関するデータを収集する。これをほかのドローンと共有して(ドローン同士が直接やり取りするケースも想定されている)、最適な飛行ルートを割り出すようになっている。

目的地に障害物がないか、といった情報まで事前に確認することを試みるようだ。自動車の世界でも、個々の車両に搭載されたセンサーから情報を収集・集約し、渋滞情報などを割り出すテレマティクスの取り組みが行われているが、それと似た発想だろう。

ちょうど働きバチが「働きバチ」という個々の生物というよりも、群れが一丸となってひとつの生物として機能するように、アマゾンのドローンも複数の(おそらく非常に多くの)ドローンが一丸となって機能するものと考えるべきなのかもしれない。

ドローン配送でアマゾンはコストダウンできるのか

それではこれから技術や法制度などの問題がクリアされたとして、ドローン配送はどこまでコストに見合う取り組みになっていくのだろうか。いくつか興味深い試算が発表されている。

米国の調査会社ARKインベストメント・マネジメントが行った試算結果は、アマゾンはドローン配送を88セントで行えるというものだ。

試算の前提は、1回の荷物は5ポンド以下(約2.3キログラム)で、輸送距離はアマゾンの拠点から10マイル(約16キロメートル)以内というもの。ジェフ・ベゾスは以前、アマゾンが行っている配送の86%は5ポンド以下と発言している。アークではこうした配送の25%が、アマゾンの拠点から10マイル以内と試算している。

「プライムエア」サービスに必要なインフラのコストは、推定5000万ドル。ドローン本体とバッテリーにかかるコストが推定8000万ドル。合計で1億3000万ドルとしている。運用コストは3億5000万ドルと見積もっている。

さらにアマゾンが買収したキヴァ・システムズの共同創業者の1人、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のラファエロ・ダンドレア教授は、IEEE(米国電気電子学会)に寄稿した記事の中で、4.4ポンド(約2キログラム)の荷物1つをドローンで6マイル(約9.7キロメートル)配送するのにかかるコストを、たった20セント(エネルギーコスト10セント、機体コスト10セント)と見積もっている。

ダンドレア教授はこの試算結果から、ドローン配送の実現可能性について、「コストの点から考えれば非合理的なものには見えない」としている。アマゾンは現在、最終的に注文客に商品を届ける配送、いわゆる「ラストマイル」に荷物1つあたり2~8ドルのコストをかけていると言われる。それを考えれば、確かにドローン配送は十分に魅力的な話だ。

顧客は追加料金を払うか

一方で気になるのは、ドローンによる超短時間配送に対し、ユーザーがどれだけ追加料金を払う意図があるのだろうかという点である。

これについても、面白い調査結果が出ている。2015年2月に米国の調査会社、ウォーカーサンズが発表した調査によると、アンケートに回答した米国人のうち約80%が、1時間以内に商品が届くのであればネット通販をさらに利用すると回答した。また同じく80%が1時間以内のドローン配送サービスに料金を支払う意思があると答え、さらに46%が11ドル以上支払うと回答した。

また、何を配送するならドローン配送が信頼できるかという質問に対しては、本が74%、衣服やアパレル品が73%、ペット用品が54%という順番であり、逆に最も信頼できないのがラグジュアリー品で15%だった。配送する商品を選べば、十分に利益が出せるサービスということになる。

こうした試算やアンケート結果がどこまで正しいのか、答えは実際にサービスがスタートしてみるまでわからないが、ドローン配送は顧客に対するサービスとしてだけでなく、企業にコストダウンをもたらすソリューションとして導入が進む可能性があることを示していると言えるだろう。

<著者プロフィール>
小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルティング 経営コンサルタント
1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業を経て、2005年から現職。著者に『災害とソーシャルメディア』(マイナビ)、訳書に『ウェブはグループで進化する』(日経BP社)など。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。