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Chapter 2:「産みたい国」日本をめざして

「産みづらく」「育てにくい」国、日本

2015/8/3
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第五弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.5「2040年の崩壊 人口減少の衝撃/地域活性化の現状と課題」』(初版:2015年5月22日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
Chapter 1では、確実に労働力人口が減少し続ける日本の将来をデータから読み解く。安倍政権が人口減少に対する有効な解決策を提示できない中、経済は縮小スパイラルに突入し、国債デフォルトのリスクが高まることが予想される。人口減少が経済にもたらすマイナスの影響と、政府が採りうる解決策を俯瞰する。
前編:2040年に向けて沈みゆく日本。この国はどうなるか(7/13)
後編:少子化問題と移民政策は国の最優先事項だ(7/20)
本編第1回:人口減少による「国債暴落」のシナリオは回避できるか(7/27)

先進国で唯一、人口減少を放置する日本

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人口減少に対して、諸外国ではどういった対策を講じているか。まず、先進国の人口増減率の推移を見てみましょう(図-7)。

自然増減率は濃い棒グラフ、社会増減率は薄い棒グラフで示してあります。日本を除く先進国は、自然増(出生率改善)に社会増(移民増)を組み合わせることで人口を増やしています。日本だけが自然増減に任せています。減り続けてタッチダウンし、現在はマイナスになっています。

米国は移民を入れて人口を増やし、イギリスも最近は移民が多くなっています。フランスはアルジェリアなどから移民を受け入れましたが、いろいろな問題が起こっています。そこで、自然増に力を入れ、合計特殊出生率(女性が一生の間に何人子供を産むかを表す指標)2.0という数字を達成しています。

ドイツは主として欧州の他の地域から移民を入れています。スウェーデンも最近は移民を入れていますが、自然増の部分も回復しています。

先進国の中でも下位にある日本の合計特殊出生率

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OECD(経済協力開発機構)の統計で、合計特殊出生率を見てみましょう(図-8)。もともと子供の数が多いアラブ諸国に囲まれているイスラエルや、中南米のメキシコは高い数字です。また、教義上堕胎ができないカトリック教徒が多い国も、比較的高い数字になっています。

日本は2012年現在で1.41です。韓国やポルトガルは日本よりさらに低い数字です。OECD加盟国の平均は1.71です。1.7くらいになると、人口減少が緩やかになります。出生率が2になると、完全に人口を維持することができます。

ここで、図-9を見てください。スウェーデンとフランスは、合計特殊出生率「2」までリカバーさせています。これは、かなりいろいろな政策を打った結果です。日本は、2005年に1.26まで落ちていた出生率が、何とか1.41まで盛り返していますが、フランスやスウェーデンとの差は広がっています。
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欧米の女性は、結婚する前に産んでいる

図-10、女性の平均初婚年齢を見てください。日本の平均初婚年齢は29.2歳、第1子出産時の平均年齢が30.3歳。結婚後、妊娠して子供を産むという、日本ではごく一般的な女性のモデルが浮かび上がってきます。

一方、フランスを見てください。平均初婚年齢が30.8歳、第1子出産時の平均年齢は28.6歳です。結婚する年齢と、出産する年齢が逆転しています。さらに他国も見てみましょう。

イギリスは初婚年齢が31.8歳、第1子出産は30.6歳です。スウェーデンは顕著です。初婚年齢33歳に対し、第1子出産が29歳。ドイツは初婚が30.2歳、第1子出産は29歳。米国は25.1歳で出産し、25.8歳で結婚と、いずれも第1子出産の方が早いです。

つまり、「結婚後、出産する」という順番が一般的なのは、日本だけなのです。他の先進国では、初婚年齢より第1子を産むときの女性の年齢の方が若いのです。この逆転現象には、後述しますが日本の「戸籍制度」が大きく関わっています。
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婚外子も当たり前? フランス52.6% VS 日本2.1%

次に図-10の中段、婚外子の割合を見てみましょう。フランスでは、結婚していない人の子供が半数超、52.6%です。スウェーデンも54.7%と半数を超えています。イギリスが43.7%、ドイツが32.7%、米国が40.6%。これら諸外国の数字に対して、日本は世界最低レベルの2.1%です。

この数字が何を意味するか。婚外子の割合が高いフランスやスウェーデンでは、事実婚や未婚でも、妊娠したら出産する女性が多いのです。

一方、日本では、「子供ができたから結婚しなければ」と入籍する「できちゃった婚」が多い。加えて、未婚のまま妊娠した場合、堕胎するケースが非常に多いです。これも他国と比べ特殊な状況です。

夫の家事・育児時間 欧米は日本の2~3倍

次に、図-10、夫の家事・育児時間を見ていただきたい。日本はわずか1時間と極端に少ないです。スウェーデン、米国、ドイツは3時間を超えています。イギリス、フランスも2時間半以上です。

なぜこのような違いが生まれてくるのか。長時間労働者の割合という項目にその答えがあります。週に49時間以上働く長時間労働者の割合が、日本の男性は31.6%と突出して高いのです。男性が長時間働いて、なかなか「イクメン」にならない。

このためますます子供を産みにくい状況になっています。「日本の男よ、覚悟はあるか」ということです。

「産みたい国」になるためには、予算が必要

図-10の一番下の数字は、「家族関係政府支出の対GDP比」、すなわち、政府が家族関係の支出をどのくらい出しているかという数字です。

日本の国防費が1%と言いますが、家族関係の支出はそれを下回る0.96%です。フランスは3.2%、イギリスは3.83%、スウェーデンは3.76%という割合になっています。

少子化を解消している国では、予算を割いて、手厚い育児支援制度を整えています。子供の数を増やすには、お金をかける必要があるのです。

次回、「フランスの手厚い育児支援と日本人が子供を産まない理由」に続きます。

*本連載は毎週月曜日に掲載予定です。

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