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わが道を行くジャック・マーとの違い

シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」

2015/8/3
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。本連載では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の一部を抜粋して掲載するとともに、訳者の永井麻生子氏による書き下ろしコラムを本日と明日掲載。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。

40歳で起業した「IT業界の模範労働者」

NewsPicksの読者なら「シャオミ(Xiaomi)」という企業をご存知の人も多いだろう。シャオミは、2010年に設立されたまだ若い企業だ。「企業」という漠然とした単語を使ったのには理由がある。2015年7月現在、この会社の代表的な製品はスマートフォンであるが、シャオミは自らを「スマートフォンメーカー」と定義づけてはいない。

彼らはあくまで自らを「インターネット企業」だと考えている。2015年上半期に、3470万台のスマートフォンを売り上げてはいるが、スマホはシャオミにとって「シャオミワールド」への入り口に過ぎない。

シャオミの正式名称は「北京小米科技有限責任公司」。2010年4月設立、2015年1月には「創業5年で売り上げ1兆円超え」と報道され、世間の注目を集めた。

創業者のレイ・ジュン(雷軍)は、1969年生まれ。1992年に「金山ソフトウエア(金山)」に入社し「IT業界の模範労働者」と呼ばれるほどの仕事をこなし、社長まで上り詰めるも、上場を機に辞任した。

その辞任の動機は「自分の人生を16年間も注ぎ込んできた結果と言える株価が、アリババなど、ほかのIT企業に比べてあまりに低かったことにショックを受けたため」だという。

その後、スタートアップ中心の投資家として成功を収めるも、40歳のときに起業し再び自らビジネスの海にこぎ出すことを決意する。そうしてできたのが「シャオミ」である。

風が吹くところで努力せよ

レイ・ジュンには、「レイブス」という愛称がある。スティーブ・ジョブズに心酔し、ファッションまでジョブズにそっくりだからだ。

しかし、この愛称は彼の「真似ぶり」だけからついたのではない。ビーフン(中国語:米粉。「粉」は音が「fan」に近いことから「ファン」をさす。「米」はシャオミの漢字表記が「小米」であることから)にとって、レイ・ジュンの存在がまるでスティーブ・ジョブズのように魅力的でカリスマ的な存在だからである。

では、なぜレイ・ジュンは、こんなにも中国の若者をひきつけるのか。

それは単にシャオミの製品がスタイリッシュでコストパフォーマンスが高いからではない。レイ・ジュンの生き方そのものに魅力があるからだ。レイ・ジュンには明確な人生の戦略がある。「自らを解剖して導き出した」というこの5つの法則には、シャオミの快進撃の秘密が隠されている。

1つ目の法則は、「流れに乗ること」。

レイ・ジュンの言葉、「風の吹くところに立てば、豚だって空を飛べる」は有名だ。いい風に乗れば、能力以上のことが達成できる。その風の吹く道を見極めることが大事なのだという。このように書くと、日和見的な人物のように感じられるが、そうではない。

彼は、金山において優秀なスタッフが昼夜を問わず努力を続けてきたにもかかわらず、上場時の株価が期待外れだった理由を「インターネットという風をつかみ損ねたからだ」と考えている。

金山はインターネットが普及し始めた頃、事務用ソフトウェアの開発に力を注いでいた。風の吹かないところでひたすら努力していたのだ。その結果に大きく絶望した彼は、「流れに乗る」ということの価値を知り、また、その難しさも身をもって感じているのである。

人の欲を深く知る

2つ目は「真のインターネット思想をもって行動する」。

レイ・ジュンは、インターネットを技術だとは考えていない。彼にとってインターネットは「思想」だ。彼は、従来の枠にとらわれず、自由に誰とでもつながるすべてをひっくり返すような考え方を「真のインターネット思想」と呼んでいる。

インターネット思想においてビジネスを構築すれば、リアル店舗も自社工場もいらない。何ひとつ持たずに、いや、持たなかったからこそシャオミはこの5年間、世間が驚くような成長を遂げてきた。ファンとの徹底した交流も、このインターネット思想からきている。

3つ目は「人の欲は天の理に適っている」。

すべてのビジネスは人の欲をいかに満たすか、である。彼は消費者の欲望をないがしろにしない。シャオミの製品は、常に消費者の不満を解消することを念頭につくられ、改善され続けている。不満とは欲望である。「こうであってほしい」という欲望があるから不満が生まれる。

このように、レイ・ジュンはユーザーの小さな欲望を満たし続けることでシャオミを成長させてきた。そのためには、エンジニアだけでなく、経営陣までもがインターネットを通じて直接ユーザーとやり取りする。

シャオミではすべてのエンジニアにユーザーとの交流を課しているほどだ。ビーフンに対する、ほかに類を見ない積極的な働きかけ(オフラインでのイベント開催や熱狂的なアフターサポート)なども、この考えから来ている。

より多くの人の欲をより深く知ることで、シャオミの製品は成長し、シャオミは発展する。そして、自分の欲を満たしてもらったユーザーたちは満足し、より熱心なビーフンとなっていくのだ。

ひとつに集中し、とことん突き詰める

4つ目は「人の縁を大事にする」。

レイ・ジュンは、投資家時代から「人」を重要視している。投資してほしいと言われたとき、その事業の内容より、投資相手の「人」を見る。「友人か友人の紹介でなければ、その事業に投資することはない」とさえ言っているほどである。この、甘く公私混同のように見える投資基準だが、その結果、彼は世間から「雷軍派」と呼ばれるほどの強固な人(投資先企業)の縁を築いている。

シャオミが採算度外視とも言える商売を続けられるのも、すぐに利益を出さなくてもいいほど「雷軍派」諸企業が稼いでいるからだと言われている。また、「雷軍派」はシャオミがスマホをはじめ複数の分野に進出する際の力強いサポートを提供している。

シャオミだけをみても、その成長を説明することはできない。レイ・ジュンが人とのつながりを重視していった結果が事業の強固な基盤となっているのである。

そして、レイ・ジュンの人生戦略の5つ目は「集中すること」である。その、集中の仕方も普通ではない。たとえば商品を売り出すとき、ひとつのバージョンしか出さない。それは、そのバージョンに集中するためだ。ひとつに製品を絞るのは難しい。しかし、力を分散していたのではいいものはできない。何かひとつに集中し、それを究極までとことん突き詰め高めていく。それがシャオミの究極思考だ。

そのようにして、自分たちの商品を絶対的に素晴らしいものにしていった結果、シャオミはグーグルやフェイスブック、アップルですら成し遂げなかった「創業5年目の年商1兆円」を達成した。

いい風の吹いている通り道をみつけ、そこに集中して、周囲の助けを得ながら、まったく新しいものをつくり出す。そして、それを人の欲を満たすかたちで磨き上げていく。これが、レイ・ジュンの人生戦略である。

ジャック・マーとの差

レイ・ジュンが1990年代以降に生まれた若者に支持されている理由もここにある。シャオミの前に、世界の注目を集めた中国企業と言えばアリババだが、ジャック・マーは、「流れに乗れ」とは言わない。「自分が正しいと信じたことをしろ」という。ジャック・マーはレイ・ジュンより5歳年上だ。

筆者は、この5年の差が、「わが道を行くジャック・マー」と「周囲の状況を見るレイ・ジュン」というかたちで出ているのではないかと感じている。社会の成熟に伴い、自らの力で道を切り開いていくタイプよりも、周囲の状況に順応していくタイプのほうが求められるようになってきたのではないか。

だが、レイ・ジュンは単に社会に順応しているだけではない。その証拠に2015年のマサチューセッツ大学の機関誌では、シャオミは「最も革新的な50社」の2位にランキングされている。これこそまさに「真のインターネット思想」のなせる技である。

すべてをひっくり返すような革新性と社会を見る目を兼ねそなえることの重要性を、レイ・ジュン率いるシャオミの成功は教えてくれている。

*明日掲載の「シャオミ急成長の秘密を握る『4つのキーワード』」に続きます。
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