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オバマ大統領愛用のスキンケア商品も登場

景気後退で“攻め”に転じた「LA男のスキンケア」

2015/8/2
「LA男性の身だしなみ」についてお届けする本記事の前篇では、LA男性のフレグランスや脱毛などに対するこだわりについてお伝えしました。後篇は、話を聞いた20人全員が実践していると答えた「スキンケア」についてお届けします。
前編:「乳首はビーチに置いてこい!」LA男の身だしなみ

「必要以上に老けてみせる必要はない」と、スキンケア商品をライン使い

前回、男性のスーツの着こなしについて興味深い意見を聞かせてくれたスーツブランド勤務のMike氏。彼が今一番力を入れているのが、スキンケアです。

スーツブランドに勤務するMike氏。ちなみにこの日はオフで、身支度にかけた時間は5分、お肌の手入れもしてないとのこと。

スーツブランドに勤務するMike氏。ちなみにこの日はオフで、身支度にかけた時間は5分、お肌の手入れもしてないとのこと

「キールズ(Kiehl’s)の『フェイシャル・フュール(Facial Fuel)』ってシリーズを、ライン使いしているんだ。これを使うようになって、シワが目立ちにくくなった気がする。せっかくYシャツにアイロンがかかっていても、その上にある顔が荒れていてはスタイリングが台なしだ」というMike氏。

「もうすぐ30代後半に突入するけれど、必要以上に老けてみせる必要はないと思っている。自信を持つためには、スキンケアは必要なメンテナンスなんだ」

ニューヨークの調剤薬局から生まれた「Kiehl’s」。天然由来成分を使った製品が多く、LAでも愛用者が多い。

ニューヨークの調剤薬局から生まれた「Kiehl’s」。天然由来成分を使った製品が多く、LAでも愛用者が多い

「プロフェッショナルに見られたい」……。意識するのはプライベートより仕事

LAの男性から身だしなみへのこだわりを聞いてまわるうちに、人からどう評価されたいかに言及する人が多いことに気付きました。

「モテたい」「魅力的にみせたい」といったプライベートの充実を目的に身だしなみを整える人が多いのかと思いきや、そう話したのは4人と少数。

過半数の男性は、身だしなみを整えるモチベーションについて、「プロフェッショナルに見られたいから」と答えていました。

そんな彼らのあいだでスキンケアは、「プロフェッショナルに見られる」ための大事な“ツール”のひとつと位置付けられているようです。

運動とスキンケアは「毎日続けることが自信につながる」というEdmond氏。

運動とスキンケアは「毎日続けることが自信につながる」というEdmond氏

金融関係の企業に勤めるEdmond氏も、「プロフェッショナルに見られたい」と答えたひとり。「何も特別なことはしていない」としつつも、「毎朝20分間の運動と、洗顔後のローションとクリームを欠かさない」といいます。

「仕事もスキンケアも、積み重ねが大事だと思っているんです。毎日続けることが『自分は大丈夫だ』って自信につながると思うから」とEdmond氏。

そのためには「忘れずに続けられるように、生活習慣に組み込んでしまうのが秘訣」だと話してくれました。

売上の伸びが顕著なスキンケア部門

スキンケアに積極的な男性の消費行動は、商品の売上にも表れ始めています。

調査会社のミンテル(Mintel)が2014年に発表したリポートによれば、米国男性のパーソナルケア用品(日本でいうトイレタリー用品)の売上の中で、過去5年間でもっとも伸びが顕著だったのが、スキンケア部門です。

男性陣に話を聞いた商業施設にある百貨店でも、「男性スキンケア商品の売上は、年々伸び続けている」とのこと。

この百貨店では、男性が商品を手に取りやすくするため、店内のレイアウトを変更したといいます。それまで、女性スキンケアコーナーの一部だった男性用セクションを、男性用ファッションコーナー内に移動させました。

大手百貨店内の男性スキンケア売り場。ここでの売れ筋は、エスティー・ローダーが開発した「Lab Series」のラインとのこと。

大手百貨店内の男性スキンケア売り場。ここでの売れ筋は、エスティー・ローダーが開発した「Lab Series」のラインとのこと

なぜ、男性用スキンケア商品の売上が、最近は伸び続けているのでしょう。意外なことに、スキンケア商品を長年販売している販売員のMinea氏は、不景気がきっかけだと感じているそうです。

「これまでケアしたことがないというお客様に、なぜ来店しようと思ったのか尋ねると、『仕事探しのため』と答える人が多かったの」(Minea氏)

景気の後退が、男性をスキンケアに導いた?

米国では2007年から2009年にかけて景気が大幅に後退し、米国全体で9%、カリフォルニア州では12%を超える失業率を記録しました。6人に1人はエンターテインメント・ビジネスに従事しているといわれるLAでは、その影響は長く尾を引いたといわれています。
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エンタメ・ビジネス専門ニュースサイト『ザ・ラップ(TheWrap)』は、この時期にソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(Sony Pictures Entertainment)やワーナー・ブラザーズ・ピクチャーズ(Warner Brothers Pictures)、パラマウント・ピクチャーズ(Paramount Pictures)といった大手配給会社も、リストラや部門統合を繰り返したとのこと。さらに、製作される映画の本数が減ったことで、エンタメ・ビジネスに携わる多くの人々が激しい競争にもまれ仕事を失ったと報じています。

私の周りでも、「映画の仕事では食べていけない」と撮影技師の友人がフィットネスジムのインストラクターの資格を取ったり、映画プロデューサーが菓子職人に転向したりしました。

Minea氏の働く店舗は、エンタメ・ビジネスの中心地にあるだけに、業界関係者を多く顧客に持つとのこと。生活を維持するのさえ大変だったかもしれない時期に、「少しでもよい仕事に就きたい」とスキンケアに取り組み始めるLA男性たちの姿勢に、前向きさやたくましさを感じます。

「身だしなみは自己投資」言い切るロビイストが使う男性用メイク

そして今、LAの男性達の関心は、メイクにも向けられ始めたようです。

「身だしなみは投資」というロビイストのTY氏。最近購入したのは男性用コスメ「Mënaji(メナジー)」

「身だしなみは投資」というロビイストのT.Y氏。最近購入したのは男性用コスメ「メナジー」

「身だしなみは投資だよ」と言い切っていたのが、40代のT.Y氏。

「手入れが行き届いていないと、ダメな奴だって思われてしまうからね。クライアントや交渉相手から信頼されることが仕事だから、そのためにプラスになることなら何だってするよ」

そう話す彼の職業はロビイストです。企業などの依頼を受けて、彼らに有利な政策が実現するよう、政治家に交渉するのが仕事だといいます。

そんなT.Y氏に、最近買ったパーソナルケア用品を聞いたところ、「メナジーって知ってる?そこのスキンケアと男性用コスメを一式買ったよ」と答えていました。

「オバマ大統領とか、アル・ゴア元副大統領も使ってるって噂を聞いて、気になったから買ってみたんだ」

弁護士からの依頼が生んだ男性スキンケア&コスメブランド「メナジー」

T.Y氏が使い始めたというメナジーは、メイクアップアーティストのMichele Probst氏が手がける男性用のスキンケアとコスメのブランドです。

政界に愛用者が多いと噂の男性用スキンケア&コスメブランド「メナジー」。キャッチコピーは「Skincare for the confident man.(自信あふれる男性のためのスキンケア)」

政界に愛用者が多いと噂の男性用スキンケア&コスメブランド「メナジー」。キャッチコピーは「Skincare for the confident man.(自信あふれる男性のためのスキンケア)」

映画俳優やテレビのニュースキャスターたちのメイクを手がけてきた彼女が、このブランドを立ち上げるきっかけとなったのは、ある弁護士からの依頼だったといいます。

「どうしても勝ちたい裁判があるんだけれど、陪審員の心証を良くしたいので、メイクをお願いできないか」との言葉に、男性用メイクのニーズがあることを確信したのだとか。

黒を基調とし、タバコのパッケージをイメージしたというメナジーのデザイン。クマ隠し用のコンシーラーは「Urban Camouflage(都会のカモフラージュ)」、ファンデーションには「Anti-Shine(テカリ防止)」といったクールな印象の商品名が付けられています。

「メイクは男がするものではない」──。世の男性たちがメイクに持つ気恥ずかしさを打ち消してくれるような配慮の行き届いた商品でした。

「僕たちはまだ10%も自らのポテンシャルを生かせていない」

近年、クリニークやイヴ・サンローラン、トム・フォードといった有名ブランドからも、続々と男性用メイクが発売されています。そんな中、雑誌『タイム(TIME)』や地元紙『ロサンゼルス・タイムズ(LosAngeles Times)』に連載を持つ人気コラムニストのJoel Stein氏は「2015年、男のメイクは当たり前になる」との持論を展開しました。

「女性誌でよく“セレブのすっぴん”が特集されていて、とても同一人物とは思えない姿がさらされているだろう? あれが今の僕たちの姿だ。つまり、メイクする女性に比べて、僕たちはまだ自らのポテンシャルを10%も生かせていないってことなんだ」

攻めの姿勢で自分磨きに挑むLA男性が、「すっぴんをさらしていいのは家族だけ!」と言い出すのも、そう遠くはなさそうです。

<連載「『駐在員妻』は見た!」概要>
ビジネスパーソンなら一度は憧れる海外駐在ポスト。彼らに帯同する妻も、女性から羨望のまなざしで見られがちだ。だが、その内実は? 駐在員妻同士のヒエラルキー構造や面倒な付き合いにへきえき。現地の習慣に適応できずクタクタと、人には言えない苦労が山ほどあるようだ。本連載では、日本からではうかがい知ることのできない「駐妻」の世界を現役の駐在員妻たちが明かしていく。「サウジアラビア」「インドネシア」「ロシア」「ロサンゼルス」のリレーエッセイで、毎週日曜日に掲載予定。今回は「ロサンゼルス駐在員妻」編です。

<著者プロフィール>
 アキコ
 神奈川県生まれ。父の転勤により6歳で初めて渡米し、現在までに4回の米国居住を経験。2014年から夫の転勤でロサンゼルスで駐妻生活中。一児(娘)の母。