J1Dis_tokyo04_bnr

Jリーグ・マネジメント・カップの4位はFC東京

FC東京はお一人さま観戦が多い? デロイト トーマツが見る課題

2015/7/30
デロイト トーマツがJリーグの経営力を測るべく、新たな試みを始める。各クラブの経営力を数値化してランキング化する「Jリーグ・マネジメント・カップ」だ。今秋の正式発表に先駆けて、本連載では注目クラブの順位、そしてデロイト トーマツによる分析を掲載する。
「Jリーグ・マネジメント・カップ」概要:Jリーグのビジネス力を数値化。経営最強クラブはどこか

FC東京、ビジネス面で大躍進

2013年度は6位だったFC東京。それが2014年度は、合計122ポイントを獲得し4位へと順位を上げてきました。2つ順位を上げたことも着目されるのですが、われわれが何より注目したのは、ビジネス・マネジメントポイントの成長です。

前年113ポイントだった総合得点は、今年122ポイントへと9ポイントも増加しました。この9ポイントの増加というのは、2014年度J1昇格組(ガンバ大阪、ヴィッセル神戸、徳島ヴォルティス)を除き、最も大きい値になります。すなわちビジネス・マネジメントレベルの成長という点では、FC東京がJ1の中で1番だったということになります。
 grp_tokyo_point

では、どのようにポイントを伸ばしたのでしょうか。以下でその要因を具体的に見ていきたいと思います。

【今回の読みどころ】
・FC東京の売上高成長率は−8.3%から+8.9%にアップ
・広告料収入が17%アップ
・地元スポンサーの増加
・広告料アップは会計基準の変更も寄与
・新規観戦者割合が5.2%から1.4%へ低下
・FC東京は1人観戦が多い
・1stステージの平均観客数は3万人超え
・FC東京のアカデミー運営経費は平均の約2倍

躍進できた最大の要因は「4thステージ:財務状況」

4つのステージの中で、FC東京が最もポイントを伸ばしたのが「4thステージ:財務状況」でした。

2013年度に33ポイントだったものが、2014年度は44ポイントへと、11ポイントの大幅増加に成功しています。なお、この44ポイントという値は、J1の中で最も高い値です。2位の浦和レッズ、ガンバ大阪、徳島ヴォルティスが37ポイントですから、他チームを大きく引き離す圧倒的な1位であったと言えます。

では、何が「財務状況」のポイントを伸ばしたのでしょうか。その主要因は「売上高成長率」です。2013年度は8.3%のマイナス成長であり、J1の中で下から2番目というロースコアでしたが、2014年度は逆に8.9%のプラス成長へと大きく改善しました。

この売上高の成長に大きく貢献したのが広告料収入です。2013年度は14億2200万円でしたが、2014年度は16億6500万円と、わずか1年間で約17%も伸びました。これは、近年FC東京が取り組んできた、地元東京企業に対するスポンサー営業の強化が、実を結びつつあることが背景にあると考えられます。

地元意識の薄い東京という土地柄もあり、FC東京では地元企業の接点が少なく、地元スポンサー獲得が課題となっていました。そこで東京オリンピック招致活動への協力などを通じて、「東京を本拠地とするクラブチーム」としてのブランドイメージを高め、地元企業との関係を見直すことにしたのです。

地方にあるJリーグのクラブは、すでに地元スポンサーを開拓し尽くしていることが多いのですが、東京に限っては、地元意識の薄さから、開拓が進んでいませんでした。東京オリンピックで地元意識が向上したことで、地元スポンサー開拓に追い風が吹いたかたちであり、それをうまく捉えたビジネス・マネジメントの成果と言えるでしょう。

なお、売上高が増加したもうひとつの理由として、自主的な会計基準の変更があります。

内容としては「用具関連のサプライヤー契約のオンバランス化」というものです。用具など物品の提供を受けたものは、従来会計処理していませんでしたが、2014年度より金額換算したうえで広告料収入として処理することとしたため、その分、前年度比でプラスの効果が出ています。

この部分はビジネス・マネジメントの成果とは若干性質が異なりますが、実態をより明確にステークホルダーに伝えようというクラブ経営層の姿勢は評価に値するものと考えます。

躍進のもうひとつの要因は、「勝点1あたり入場料収入」の増加

ビジネス・マネジメントポイントが伸張したもうひとつの要因は、「2ndステージ:経営効率」における「勝点1あたり入場料収入」の増加です。この指標は、実際の試合に勝つことが、どれだけ売上、中でも入場料収入につなげられているのかを示すものです。まさにフィールド・マネジメントとビジネス・マネジメントをつなぐ重要な指標のひとつです。

FC東京の2013年度における「勝点1あたり入場料収入」は1億4600万円でした。これが2014年度には1億7900万円と22.6%も増加しています。入場者数自体はほぼ横ばいですから、入場者1人あたりの単価が大きく向上したことになります。

これは、注目度の高いホームゲームに集中的にプロモーションをかけ、観客数を増加させることによって客単価を向上させようとした施策がうまく成功したということだと考えられます。

実際、最も観客動員数の多かった上位3試合の平均集客率を見ると、2013年度は68.7%だったのに対し、2014年度は76.9%と大きく向上しています。集客率を意図的に高め、単価の高い座席を多く販売するという、ビジネス・マネジメントの取り組みの効果が表れた結果と言えるでしょう。

実は大苦戦だった「1stステージ:マーケティング」

ここまで見ると、FC東京にとって2014年はビジネス・マネジメントに大成功した年だったように見えます。ですが、実は「1stステージ:マーケティング」では大苦戦を強いられました。その最大の要因は「新規観戦者割合」の減少です。

スタジアム来場者に占める観戦暦1年未満のサポーターの割合が、2013年度は5.2%だったのに対し、2014年度はたった1.4%と大きく低下しました。J1の平均が4.6%ですから、随分と低い値であることがわかります。これにより2013年度は12ポイントだった得点が、2014年度はわずか2ポイントと、10ポイントも低下してしまったのです。

新規観戦者割合低下の理由を特定することは非常に難しいので、ここでは、これに関連するデータをご紹介することにしましょう。Jリーグ観戦者調査によると、「周囲の人からJリーグ観戦をよく誘われますか」という質問に対し、「まったく誘われない」と回答した割合がFC東京では39.5%にものぼります。Jリーグ平均31.2%と比べて非常に高く、またこれはJ1の中で最も高い値です。

また「誰と観戦に来ましたか」という問いについて「1人」と答えた人もJ1リーグ平均16.4%のところ、FC東京では21.1%であり、こちらもJ1で最も高い値です。さらに「チケットの入手方法」について「シーズンチケット」と回答した割合も72.5%と、Jリーグ平均の46.8%を大きく上回っています。

このように、あくまでもJリーグ観戦者調査の結果からの推測にはなりますが、FC東京の観戦者はほかのクラブに比べて、コアなサポーターがシーズンチケットを購入して、1人で観戦する傾向がやや強いのではないか、ということがわかります。

そして、注目すべきはこの傾向が2013年度と比べて強まっているということです。直接的な関係は公開情報からだけでは十分な分析ができませんが、この観戦者の傾向が、新規観戦者割合の低下に少なからず影響しているのではないか、と考えることもできるように思います。

キーワードは「満員のスタジアム」

2015年2月に常務から社長に就任された大金直樹社長は、元選手という経験も踏まえて、今後も継続して売上を伸ばすポイントとして「満員のスタジアム」を挙げています。そして、インタビューでも随所に見られるように、その「満員のスタジアム」をつくり出すためには、ファン・サポーターを惹き付ける「魅力的な選手の育成」という観点が不可欠であると考えているようです。

FC東京は味の素スタジアムをホームとして使用していますが、サッカー専用ではないうえ、キャパシティも4万9970人と大型です。そのため観客数が3万人を切る試合では、試合会場でしか感じられない臨場感や非日常的な空間といったものをつくり出すのが難しく、足を運んで観戦することの価値をつくり出すのが難しいという課題があります。

そんな中でも2015年度は武藤嘉紀選手の活躍などにより、話題性や注目度が高まり、1stステージは目標としている1試合平均観客動員数3万人を超える集客を実現しています。武藤選手は移籍してしまいましたが、外国人スター選手に頼るだけでなく、長友佑都選手や武藤選手のような魅力的な選手を今後も輩出していくことが重要、と大金社長は述べています。

実際、FC東京のアカデミー運営経費は平均して毎年約2億5000万円と、J1の中でトップクラスです。J1平均水準が1億2000万円前後であるところ、およそその倍の規模をアカデミー強化に「投資」しており、クラブの姿勢が財務数値でも確認できます。

選手としてのフィールド・マネジメント経験、そして経営者としてのビジネス・マネジメント経験。この双方を持つ大金社長が、今後どこまでFC東京の経営を向上させていくのか、今後が注目されます。

(文責:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 川上裕義・里崎慎)

<連載「Jリーグ・ディスラプション」概要>
本連載はJ1クラブの社長を、スポーツライターの金子達仁がインタビュー。月曜日から水曜日まで社長インタビューを掲載し、木曜日にデロイト トーマツのコンサルタントによる経営分析、金曜日に総括を掲載する。8月3日から始まる第3弾では、川崎フロンターレの藁科義弘社長を取り上げる予定だ。