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会社の成り立ちの見直しを

「クラブで育った生え抜きが社長に」FC東京・大金社長の提案

2015/7/29

「地域密着」という理想がシンボルになり、Jリーグは日本初のプロサッカーリーグとして基盤を築くことができた。

ただ、プロ野球が「地域密着」を学んで新たな可能性を見いだしているのに対して、Jリーグはやや理念に縛られているきらいがある。公共性を軽んじてはいけないが、もっともっと事業性を重んじ、儲けることを考えてもいいはずだ。

FC東京の大金直樹社長は、ビジネススキームの見直し、および過去にとらわれない改革が必要だと考えている。

【第3回の読みどころ】
・このままではジリ貧になる恐れ
・会社の成り立ちに改革が必要
・もっと儲けていい
・胸スポンサーの相場を3億円から30億円に
・FC東京の社長は東京ガス出身でなくてもいい
・アジアの企業がFC東京で広告を出す可能性
・試合を観るとFC東京への見方が変わる
大金直樹(おおがね・なおき) 1966年茨城県出身。筑波大学蹴球部でMFとしてプレーし、4年時に関東大学リーグおよび総理大臣杯で優勝。同大学では1学年上に長谷川健太、1学年下に井原正巳、中山雅史がいた。 卒業後は東京ガスへ入社し、社員選手として1995年までプレー。FC東京創設後はしばらく社業に専念していたが、2004年にFC東京に出向して法人営業を担当。 2007年に東京ガスに戻るも、2010年12月にFC東京がJ2へ降格したことを受け、2011年に常務として再びクラブへ。2015年2月、東京ガスサッカー部OBとして初めてFC東京の社長に就任した

大金直樹(おおがね・なおき)
1966年茨城県出身。筑波大学蹴球部でMFとしてプレーし、4年時に関東大学リーグおよび総理大臣杯で優勝。同大学では1学年上に長谷川健太、1学年下に井原正巳、中山雅史がいた。卒業後は東京ガスへ入社し、社員選手として1995年までプレー。FC東京創設後はしばらく社業に専念していたが、2004年にFC東京に出向して法人営業を担当。2007年に東京ガスに戻るも、2010年12月にFC東京がJ2へ降格したことを受け、2011年に常務として再びクラブへ。2015年2月、東京ガスサッカー部OBとして初めてFC東京の社長に就任した

公共性に重きを置きすぎた

金子:東南アジアのリーグの給与水準が上がっており、J2やJ3から移籍する選手が増えています。FC東京が単独でどうこうできる問題ではないですが、Jリーガーの給料の安さについてはどう考えていますか。

大金:本当にこれは大きなテーマで、Jリーグに携わる多くの人が真剣に考えていることだと思います。このままではジリ貧になりかねないと。

今だからこれですんでいて、5年後にどうなっているのか。何もしなければ、もっと状況が悪くなっているかもしれない。

Jリーグのビジネススキームが、本当に正しいのかを検証しないといけないと思います。維持できないのであれば、変えなければならない。そのときがもう目の前に来ているのかなと思っています。

金子:その危機感は各クラブの共通認識でしょうか。

大金:認識はしているけれども、自分たちのことで精いっぱいなところはあると思います。

金子:Jリーグのクラブを見ていると、指示待ちというか、“親方”が決めるのを待っているように見えてしまうところがあります。

大金:Jリーグの多くのクラブは大きく分けて2つの側面を持っています。ひとつは株式会社という事業性。そしてもうひとつはサッカーの普及、地域貢献といった公共性です。

両面がともに成長していくことが理想ですが、気がついたら事業性が足踏みして、クラブのステークホルダーから距離感が出たり、アジアクラブに追い抜かれていたりしていたのではないでしょうか。会社としての成り立ちそのものに改革が必要かと思います。

胸スポンサーの相場を30億円にしたい

金子:Jリーガーの給料をバーンって上げる特効薬はありませんか。

大金:あったら教えてほしい(笑)。選手たちに対して「より多くのおカネを払えるようにしたい」と言っているのですが、まだまだ道半ばです。

私どもの事業規模は、この10年ほとんど変わっていないんですね。一般の企業だったら株主から「何をやっているんだ」とつつかれてもおかしくない。

もっとビジネスライクなところがあってもいいかな、と。「儲かるじゃないか!」というところを、もっともっと追求していかないといけない。

胸のスポンサーは相場でいうと1億円から3億円くらいです。それを30億円にするために、もっともっとテレビに出たり、もっともっと世界に出て行かないと、企業が高いスポンサー料を払うはずがない。

それはもう市場の原理だからです。

大金直樹社長と金子達仁氏は同じ1966年生まれ。ともに「東京にサッカー専用スタジアムが必要」と考えており、すぐに意気投合

大金直樹社長と金子達仁氏は同じ1966年生まれ。ともに「東京にサッカー専用スタジアムが必要」と考えており、すぐに意気投合

いつか社長は東京ガス出身ではない人に

金子:すべてのJリーグの社長さんに聞こうと思っていることがあります。後継者に求める条件・資質はなんでしょう?

大金:まずは人間性。FC東京が大切にしている「人を育てる」という資質がないとダメです。あとは夢とビジネス感覚の両面を持った人ですね。

金子:東京ガスに籍を置いた人でないとダメでしょうか。

大金:実は社長を任命されたとき、私は「東京ガスの人間ではないほうがいい」と言ったんですよ。

金子:1度断っていたんですね。反応は?

大金:時期尚早と言われました。

金子:なるほど。まだ早すぎる、と。逆に言えば、この先はありえるということですね。

大金:はい。FC東京が育てた選手が、社長になったら素晴らしいことではないですか。

アジアからスポンサーを呼び込む

金子:アジアの市場をどう見ていますか。

大金:できればアジアのスポンサーをFC東京に呼び込みたいと思っているんです。今、足がかりをつくっている段階です。

実は今、アジアの企業が、日本で広告を出したいというニーズはあると思います。それを「東京という首都にあるクラブでどうですか?」というのは魅力ある提案になるはずです。

金子:日本に進出したいアジアの企業はいっぱいありますもんね。

試合観戦が最高の営業ツール

大金:国内におけるスポンサーも増えてきています。きっかけはクライアントになりそうな人たちに、FC東京の試合を観戦していただいたことでした。

以前は営業をしても、クライアント候補の人たちがFC東京のスタジアムで何が起きているかを知らなかったんですね。

ただ、スタジアムに来て体感してもらったら、企業のオーナーや広告担当者が「すごい、こんなに人が来るんだ」と価値を見いだしてくれるようになった。3万人、4万人が集まる空間は、やっぱりすごいわけですよ。

飛田給駅近くの『すき家』さんに行かれたことはありますか? 店内は青と赤のFC東京カラーで染まっていて、足下はサッカーコートになっている。うれしいことに、それで売上が伸びたそうなんです。

価値をただ言葉でプレゼンするだけではなくて、やっぱり体感してもらうことが大事です。

金子:となるとサッカー専用スタジアムができたら、一気に広告収入が上がるのでは?

大金:広告収入に連動するかどうかは不明ですが、サッカー専用スタジアムは夢ですね。

(構成:木崎伸也、写真:福田俊介)

*「Jリーグ・ディスラプション」の第2弾となる大金直樹社長(FC東京)インタビューを、月曜日から水曜日まで3日連続で掲載した。木曜日はデロイト トーマツの会計士によるFC東京の経営分析を掲載する。

<連載「Jリーグ・ディスラプション」概要>
本連載はJ1クラブの社長を、スポーツライターの金子達仁がインタビュー。月曜日から水曜日まで社長インタビューを掲載し、木曜日にデロイト トーマツの会計士による経営分析、金曜日に総括を掲載する。8月3日から始まる第3弾では、川崎フロンターレの藁科義弘社長を取り上げる予定だ。