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育成と大物獲得の両立

中国の資金力には育成力で挑む。FC東京の強化戦略

2015/7/28

今、アジアにおけるリーグの勢力図が変化しつつある。中国が国策としてサッカーに資金を投じ、国際的なスター選手をかき集めているのだ。

今夏、広州恒大がブラジル代表のロビーニョに対して年俸14億円(推定)を提示して、大物FWの獲得に成功した(移籍金はゼロ)。すでに広州恒大は同代表のパウリーニョを約19億円の移籍金で手に入れていた。

この資金力の差を、Jリーグはどう埋めればいいのか。

FC東京の大金直樹社長がキーワードに挙げたのは「育成」だった。

【第2回の読みどころ】
・中国の資金力には育成力で挑む
・育成にはコストがかかる
・選手の人間性を重視
・FC東京は守備陣の育成がうまいと評判
・一方、ヴェルディは攻撃陣の育成がうまい
・アタッカーの武藤嘉紀が新たな一歩
・育成と同時に、大物獲得を視野に
大金直樹(おおがね・なおき)1966年茨城県出身。筑波大学蹴球部でMFとしてプレーし、4年時に関東大学リーグおよび総理大臣杯で優勝。同大学では1学年上に長谷川健太、1学年下に井原正巳、中山雅史がいた。卒業後は東京ガスへ入社し、社員選手として1995年までプレー。FC東京創設後はしばらく社業に専念していたが、2004年にFC東京に出向して法人営業を担当。2007年に東京ガスに戻るも、2010年12月にFC東京がJ2へ降格したことを受け、2011年に常務として再びクラブへ。2015年2月、東京ガスサッカー部OBとして初めてFC東京の社長に就任した

大金直樹(おおがね・なおき)
1966年茨城県出身。筑波大学蹴球部でMFとしてプレーし、4年時に関東大学リーグおよび総理大臣杯で優勝。同大学では1学年上に長谷川健太、1学年下に井原正巳、中山雅史がいた。卒業後は東京ガスへ入社し、社員選手として1995年までプレー。FC東京創設後はしばらく社業に専念していたが、2004年にFC東京に出向して法人営業を担当。2007年に東京ガスに戻るも、2010年12月にFC東京がJ2へ降格したことを受け、2011年に常務として再びクラブへ。2015年2月、東京ガスサッカー部OBとして初めてFC東京の社長に就任した

育成力なら勝負できる

金子:1993年にJリーグができた当初、日本から選手が出て行くことはほとんど考えなくて良かったのですが、今や日本人選手が次々とヨーロッパへ行き、そして先日、川崎フロンターレのレナトが移籍金約6億円で、中国のクラブに引き抜かれました。FC東京としては、中国サッカー界の経済力にどう対抗していきますか。

大金:もちろん脅威だと思っています。そこにどう追いつくか。しかし、私たちの売上は40億円弱です。中国の資金力があるクラブとは倍以上の開きがある。その中で対抗するには、やはり育成しかない。

選手を買ってくるというビジネススキームだけではなくて、選手を育てるというスキームを中心にしていかないと太刀打ちできない。もうこれしかないと思っています。

もちろん育成だけでは不十分で、収益が100億円を超えるクラブになるには、今のビジネスモデルでは難しいことは理解しています。

客観的に見たら、Jリーグの各クラブが成長しているかというと、正直、停滞あるいは衰退に近いのかもしれません。

金子:守らなければいけない理念もあるんでしょうけれども、約20年前につくったものが古びてきた部分もありますもんね。

大金:そのようなこともあるかもしれません。

ただし育成はコストがかかる

金子:スッと受け流してしまったのですが、「うちは育成型クラブを目指している」というのは、ほとんどのJリーグのクラブが言っていると思います。ほかとどんな違いがあるんでしょうか。

大金:そもそも育成というのは、すごくコストがかかるんですね。収益が限られたクラブにとっては、下部組織の存在は逆に負担になりかねないわけです。

金子:重荷になる、と。

大金:はい。だからJリーグのクラブのすべてが育成型かというと、そうではないのが現実だと思います。

スクール事業には月謝がありますが、育成そのもので収益を得られるわけではありません。

インタビューは小平市にあるFC東京のクラブハウスの社長室で行われた

インタビューは小平市にあるFC東京のクラブハウスの社長室で行われた

育成では人間性を重視

金子:しかも育成に投資したからといって、選手がトップに上がれるとは限らないですもんね。

大金:コストがかかったとしても長い目で見ると、良い人材、良い選手を生み出していくことが、私たちにいつか返ってくると思っています。

「良い人材」というのが私たちのキーワードで、マインツに移籍した武藤嘉紀はそのお手本だと思います。

高校を卒業して、トップに上がれない選手に対しても、すごく目を配っています。武藤もそうでしたが、たとえば大学へ行ってからもFC東京に呼んで、練習に参加させます。

プロになれなかったとしても、いつか社会人になって、ビジネス経験を積んで、スタッフとして戻って来てほしい。そんなビジョンを描いています。

FC東京らしい育成の色

金子:ある意味、東京ヴェルディと正反対ですね。

大金:それは私にはわかりません。

金子:東京ヴェルディの下部組織はやんちゃな子が多い印象ですが、それに比べると東京は真面目な印象があります。

大金:そこにはデメリットな部分もあって。うちのジュニアユース、ユースの選手を見て、金太郎飴と言う人もいるんですよ。

人を大事にしすぎなのかもしれないですし、標準的な選手が多いと。

金子:とがった選手が少ない?

大金:もちろん長所と短所はコインの裏表なのですが。よく言われるのは、FC東京のアカデミーは、守りの選手しか出てこないよね、と。

一方、東京ヴェルディは攻撃的な選手が輩出されている。だから今回、攻撃の選手として武藤が日本代表になったというのは、FC東京にとっては革新的でした。

金子:東京ヴェルディがJ2にいる今、FC東京にとって「ここには負けられない」という存在はどこのチームでしょうか。

大金:浦和レッズだと思っています。Jリーグのすべてのチームがベンチマークにしているのではないでしょうか。チーム力、集客力、ファン・サポーターの数、すべてがトップレベルですから。

育成と同時に、大物獲得を視野に

金子:シャビを獲ろうという報道も一時期あったじゃないですか。必ずしも可能性はゼロではなかった、と。次はいつ大物獲りに動きますか。

大金:名実ともにある選手が獲得できたらいいと思います。

東京にあるクラブは、輝いている必要がある。輝きは何かと言うと、コンテンツだと思っています。コンテンツは選手であったり、チーム力であったり、サッカーそのものの本質であったり。

そのためには、誰もがわかる、そして戦力となる選手が欲しいんです。

ただし、サッカーは高いクオリティでもうプレーできません、単に人気がありますという選手は必要ありません。名実ともに活躍できる選手が欲しい。

金子:ブラジル代表のロビーニョが広州恒大に行きましたが、Jリーグにもそういう補強が可能ですよね?

大金:あれだけの資金力があるかどうかはわかりませんが、Jリーグにも必要ですし、FC東京も欲しいと思いますよ。

金子:社長の決断になるのでしょうか。

大金:ある程度の大きな投資をするので、私の判断もあります。40億円の収益をどう使い、分配していくかというのがテーマのひとつでもあります。

金子:選手の獲得・放出にも関わるということですか。

大金:最終的な判断はしますが、餅屋は餅屋。強化に精通した者がいますので、彼らに判断を委ねるところが大きいです。

金子:社長としては、「武藤よ、もうちょっと東京にいてくれ」というのはなかったんですか。

大金:半分ありましたけれど、ビジネスとしては今が出すタイミングだとも思っていました。ファン・サポーターを含めると、このタイミングがベストではないけれども、ベターだと判断しました。

(構成:木崎伸也、写真:福田俊介)

*「Jリーグ・ディスラプション」の第2弾となる大金直樹社長(FC東京)インタビューは、月曜日から水曜日まで3日連続で掲載する予定です。

<連載「Jリーグ・ディスラプション」概要>
本連載はJ1クラブの社長を、スポーツライターの金子達仁がインタビュー。月曜日から水曜日まで社長インタビューを掲載し、木曜日にデロイト トーマツの会計士による経営分析、金曜日に総括を掲載する。8月3日から始まる第3弾では、川崎フロンターレの藁科義弘社長を取り上げる予定だ。