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2020年、当たり前になっている「リモコン化」と「ハブ化」

スマートニュース創業者・鈴木健「スマホの未来にやってくる2つのトレンド」

2015/7/28
30日連続の大型特集「2020年のモバイル」の最終回は、スマートニュース(SmartNews)の鈴木健CEOが登場。『なめらかな社会とその敵』の著者でもある鈴木氏は、経営者でありながら、研究者、思想家としての顔も持つ。東京大学大学院時代は人工生命を研究し、「PICSY」という仮想通貨も考案するなど、メディアの枠を超えて活動。インタビューは、モバイルの分野に限らず広範囲におよんだ。スマホの秘める可能性からニュースアプリの将来、果ては人工知能まで。国内外で存在感を示すモバイルキューレションメディアのパイオニアが90分間、語り尽くした。

スマホの未来は「リモコン化」と「ハブ化」

──本連載は「2020年のモバイル」というテーマですが、スマートフォンの未来を考えるうえで、どんなトレンドが生まれると思っていますか。

鈴木:スマホの未来について言えば、2つ大きなトレンドがあります。ひとつは「リモコン化」です。

最近、広い場所でドローンで遊んだりしますが、操作は全部スマホアプリなんですよ。スマホの画面にはドローンに搭載されているカメラからの映像がリアルタイムに映される。「Parrot Bebop」や「DJI Phantom 3」などのミドルクラスの機種になると、専用のコントローラーがついていますが、それすらもスマホやタブレットを装着し、画面や操作系として使います。

ドローンの例もひとつですが、これから進むIoT(Internet of Things)の時代になると、そのデバイスをどうコントロールするかは、全部スマホで操作していくわけです。「コントローラーとしてのスマホ」と言うとわかりやすいですかね。

もっと言えば、「Uber(ウーバー)」なども、実はある種のリモコンなんですよ。間に運転手という人が入っているのでそうは感じにくいかもしれませんが、ウーバーは自動運転の実用化も目指しています。そうすると、将来的には無人の車をスマホで呼んで、目的地を入力して降車する。「自分が乗り込むラジコン」ですよね。

もうひとつのトレンドは「ハブ化」です。ウェアラブル化が進んでいくうちに、スマホはありとあらゆるデバイスのデータのハブになるでしょう。

4G、5Gと高速化が進むにつれ、1個1個のウェアラブルデバイスが、別々にインターネットへの通信機能を持つようになるとは考えにくい。アップルウオッチがいい例ですが、スマホをハブにして、ウェアラブルデバイスでインターネットに接続するようになる。そうなると、基本の通信はスマホが担うので、スマホにパーソナルデータがどんどんたまるようになります。

こうした複数の種類のウェアラブル端末を持つようになるでしょう。ただ、その際に通信のハブになるのはスマホであることだけは揺らがない。

「リモコン化」と「ハブ化」の2つは絶対起きると思う。2020年には「当たり前」のレベルになっているはずです。
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ネットに必要なのは「建設的な仕事」

──ニュースの領域で言うとどんな変化がありますか。

スマホの浸透によって、世界中でこれだけ多くの人々が同じアーキテクチャの上で即時につながるというのは、人類史上初めてのことです。

今のスマホの利用者は世界でおそらく20億人くらいですが、2020年には40億人以上になるとも言われています。世界の半数の人々がスマホでつながるという非常に大きな話になる。

ソーシャルメディアの登場もつながりをより密にしました。ご存じの通り、ツイッターやフェイスブックが大きな影響力を持つようになった。たとえば、大統領選挙の結果に対して有効なマーケティングの方法が発見されたり、アラブの春のような一国の体制に影響を与えたりするようなことも起きました。

このように、ソーシャルネットワークは多くの人々を動員し、既存の勢力や権力に対抗してムーブメントやうねりを起こすのがうまい。しかし、代替的で安定的な制度や秩序をつくり上げることには、効果を発揮していません。

いわゆる「建設的な」議論がインターネット上では行われにくいのです。良質な言論空間が生まれ、そこから創造的で建設的な成果につながることを、古き良き時代のインターネット思想家たちは夢想していましたが、それはいまだ起きていないのです。

結局、「建設的な」仕事ができていないがゆえに、「インターネットが政治や社会をどう変えるか」という問いに明確な答えが出ずにいる。僕はそこを何とかしないといけないなと思っています。

──そのためにはまず何が必要ですか。

人間は、自分から距離が遠くなればなるほどだんだん情報もわからなくなってくるし、リアリティが湧かなくなってしまう。当たり前ですが、自分の近くにある問題のほうがより具体的で、コミットメントできる。そういう意味で言うと、やっぱり自分から近い地方自治レベルからスタートしていくのがいいのではないかと思っています。

昔から、直接民主制が適応できるのは3万人程度と言われていて、そこを超えてしまうとなかなか機能しなくなってしまう。人数が多くなると、イシューの数も増えてくるし、自分の知らない話についてみんな興味が湧かないから、投票をする気も生まれにくい。

しかし、よりコンパクトで小さい規模でなら「建設的なこと」もできるでしょう。人々を同じアーキテクチャやプラットフォームに乗せることができるスマホがそういう役割を担わないといけない。

フェイスブック、アップルは脅威か

──さすが思想家だけあって、鈴木さんの話はスケールが大きい。「スマートニュース」のユーザー数は将来、どれくらいまで拡大できると読んでいますか。

現在、スマートニュースを利用しているアクティブユーザー数は月間で500万人以上います。500万人と言うと、実はちょっとした都市の人口規模くらいはあります。ただ、スマホで数十億人が使うサービスが、これからの世界では複数出てきますから、この規模ではまだ小さいくらいです。

──スマートニュースはすでに海外に参入し、ユーザー数を伸ばしていますが、海外のメガプレーヤーとどう戦っていきますか。何を差別化としますか。最近では、フェイスブックが「インスタント・アーティクルズ」を始動させ、アップルもニュースアプリ参入を発表しました。

インスタント・アーティクルズは、要するにスマートニュースのオフラインモードでもあるスマートモードに相当するものですけれど、われわれは2年半前から提供し、スマートニュースの躍進のきっかけになった機能です。主要な効果としては記事を読む速度が早くなるわけであって、フェイスブック自体が持つ、記事を発見する部分における本質的なユーザー体験はさほど変わらないでしょう。

アップルニュースは、フリップボードに近い雑誌購読型のものなので、「雑誌と新聞って競合しますか」という質問と同じだと思います。そもそもレイアウトデザインや体験などいろいろなものが違うから、それぞれのサービスは長らく共存してきたわけです。だからこれからも、人々はさまざまなサービスを補完的に使いこなしていくようになるのだと思います。

スマートニュースは、今まで通り、スマホユーザーに向けて、良質な情報を発見するための最高の体験を提供し続けます。

皆、おカネに興味がありすぎる

──2020年に向けて、これからスマートニュース内で起こる可能性のある面白い動きは何でしょうか。たとえば、スマートニュースが仮想通貨を扱う可能性はありますか。鈴木さんは、かつて貨幣についても研究していますし。

ある意味、おカネにそれほど興味がないから、おカネの研究をしているんですよ。なんでこんなにつまらないものが、価値を持っているんだろうというのが長年の謎だったんです。でも研究をしていくと、確かに存在理由があることに気づきました。

要するに、通貨は、交換の媒介として働くことによって、経済活動を支えているわけです。貨幣がなくなってしまうと、結局、物々交換に頼らざるを得ないですから。

ではもし、物々交換を効率的につなぐ方法が存在したらどうなるか。貨幣というのは本質的には負債ですから、物々交換を円環的につなぐマッチングサービスができれば、交換の媒介としての存在理由はなくなるのではないか、と考えることもできます。

僕が電子貨幣を研究し始めた2000年頃には、実際に物々交換を円環的にマッチングするサービスがありました。

でも、貨幣には、もうひとつの大事な役割があります。それは財の最適配分機能です。言い換えれば、価格メカニズムの必要性と言えます。

経済学的には最適配分を実現するために一般均衡の実現が必要です。ところが、価格が存在しないところで物々交換すると、そのモノが一体その何個に相当するのかという基準がなくなってしまう。

結局、貨幣のある市場メカニズムに頼ったほうが客観的で効率的になる。いわゆる厚生経済学の第一定理ですね。よって、経済規模が大きくなった社会で経済を回すためには貨幣は必要になります。逆に言えば、規模によっては貨幣なき経済システムというのも成立するのです。

グローバル経済における貨幣の必要性を前提にすれば、今の貨幣に替わる新しい貨幣システムができないのかと考えていくことになります。貨幣の問題点というのは、いわゆる貨幣の「フェティシズム」にあります。みんなおカネに興味がありすぎる、おカネに執着しすぎる、ということです。

おカネそのものにはさほど興味がない身からすると、なぜそういうことが起きるのかが謎ですよね。その貨幣のフェティシズムを加速しない貨幣制度はないだろうか、もっと考えていくことが必要です。シルビオ・ゲゼルの減価通貨もそういった発想から生まれていますし、僕の考えた伝播投資貨幣「PICSY」も同様です。

──将来、スマートニュース内で仮想通貨が流通することもあり得る?

そういうこともあるかもしれません。

シンギュラリティの正確な意味

──もうひとつ鈴木さんに聞きたいテーマは、人工知能(AI)です。人工知能の進化は世界をどう変えるのですか。

僕は東大の池上高志研究室で人工生命の研究をしていましたし、今でも研究室の特任研究員の席があります。大学院時代には、リカレントニューラルネットワークの研究もしていましたし、人工知能学会誌の学生編集委員をしていたこともあります。いわば人工知能という研究分野のやや外側から人工知能をみてきました。

しばしば人工知能の未来を占ううえで、2045年にシンギュラリティが訪れると言われますが、シンギュラリティの意味を誤解している人が多すぎますね。

──2045年に人工知能が人間の知能を超える、という意味ですよね?

いえ、違います。それは“結果”です。

シンギュラリティというのは、(技術的)特異点という意味なのですが、その特異点になると、人工知能自体が人工知能自体を改善するスパイラルに入ってくるということなんですよ。人工知能自体が人工知能をバージョンアップするブートストラップ状態になるから、知能の指数関数的向上が起きて、結果として人間の知能を、あっという間に越えるという意味なんです。

そのことによって、人間の知能なんてどうでもよくなるくらいのレベルまで一気に向上する。しかもそれが、ソフトウェアのレイヤーだけではなくて、ハードウェアのレイヤーにまで浸透する。空間そのものに、自分たち自身が増殖していくCPUをつくり出したりするといった話なんです。この動きは、ちょうど40億年前に生命が発生したのと同じくらいのインパクトを持っている、と。

現代的コンテクストでシンギュラリティを提唱したレイ・カーツワイルの本のタイトルは、“The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology”、邦訳のタイトルは『シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき』です。つまり、人類(がつくり出した機械を含む人工物)が生命を超えるという話をしているわけです。そもそも、機械が人類を超えるという話ではないのです。

人工知能研究者には、機械が人類を超えることがシンギュラリティであると言っている人もいます。人工知能というのは、もともと「機械によって人間の知能を実現できるか」という、シンギュラリティ論と比較すると、こう言うと語弊があるかもしれませんが、目線の低い目標の研究分野だったので、その視点からシンギュラリティを矮小(わいしょう)化してしまったのでしょう。それすらも人工知能の分野では、「Strong AI」(強いAI)と呼ばれる難しい問題設定なのです。

人工知能の分野でも応用研究を行う「Weak AI」(弱いAI)の研究者たちは、人工知能についての哲学的議論に慣れておらず、シンギュラリティの概念を矮小化してしまう傾向にあります。

米国のインターネット業界の著名人たちも同様です。人工知能を使った事業を展開していたり、人工知能の応用研究をしているからといって、知能について、あるいは知能の進化について深く考えているわけではないのです。

カーツワイルの議論が、既存のStrong AIといった人工知能の議論を吹っ飛ばすような、圧倒的なスケールの大きなビジョンを打ち出したことによって、人工知能研究者をびっくりさせてしまったのです。言うなれば、「Super Strong AI」でしょうか。多くの人工知能研究者にとってですら、スケールが大きすぎて、概念を正確に理解できないくらいなのです。

もしシンギュラリティが起きたら、「機械によって人間の仕事が奪われるのではないか」というような設問が、無意味になるくらい劇的な変化が起きます。人類などというのは40億年の生命の進化のプロセスの中で、数十万年スパンの存在でしかありません。

シンギュラリティはそのベースになる40億年もの多様性を生み出した生命そのものを超えるような存在が生まれることを予見しているのです。議論のスケールが圧倒的に違うのです。

これがシンギュラリティの正確な理解です。ほとんどSFですが、これが現実になるのはそう簡単ではありません。人工知能だけではなく、人工生命、生物学、認知科学、物理学、数学を含んだ大きな知的ブレークスルーなくしては実現しないでしょう。

人工知能とロボティクスの融合

──具体的には人工知能の進化によってどのような変化が起きるのですか。

シンギュラリティの話はひとまず置いておきましょう。

人工知能の産業応用におけるトレンドを挙げろと言われれば、embodiment(エンボディメント:身体化)ですね。ソフトウェアだった人工知能が身体性を獲得していくのは必然の流れです。従って、ロボティクスとの融合がひとつのトレンドになるでしょう。自動運転やドローンもそのひとつの分野として有望です。

このパラダイム自体は、アカデミックコミュニティでは、僕が研究室にいた1990年代、あるいはその前の1980年代から言われていましたが、ソフトウェアの進化やディープラーニングなどの技術の進歩によってできることが増えたので、加速度的に進化を遂げていくと思います。

──そうした進化はニュースメディアにどういう影響をおよぼしますか。

今語った問題が、どういうかたちで技術的な進化を遂げるかで変わってきますが、メディアにおいては「マルチモーダル」がキーワードだと思います。要するにひとつの感覚器官から入ってきた情報ではなくて、複数の感覚器官の情報をもとに人間は意思決定をしているという話です。

たとえば、聴覚は、視覚の補助を受けていますし、時には視覚に引っ張られてしまうことがあります。たとえば、マガーク効果では、「バ」という発音を聞いていても、「ガ」の口のかたちを見ていると、人間は視覚をもとに「ガ」と認識したりするのです。

それくらい、情報というのは複数の器官で依存し合って認識、処理されています。それはニュースだって同じです。なぜ触覚でニュースを認識しないのか。ニュースが視覚・聴覚以外の感覚を扱わない理由がないんです。

──では、将来嗅覚でニュースを感じることもあり得る?

あり得なくはない話ですよね。

──スマートニュースでも何か考えていますか。

いやいや。ただ未来の行く末を考えているだけですよ。

広告以外の可能性はあるのか

──最後に、マネタイズの質問をさせてください。現在もこれからも、売上の中核となるのは、やはりインフィード広告ですか。それ以外の収益が生まれる可能性はありませんか。

今は、インフィード広告の占める割合が大きい。そのほかにも、ブランド広告もあります。プレミアム動画広告という動画広告の商品はとても好評です。

──ヤフーでも、ブランドパネルといったブランド広告の商品よりも、断然検索広告のほうが収益に占める比率が高いのと同じ構図ですよね。

そうですね。

──そうしたインフィード広告などの成長によって、広告収入を伸ばしていくというフェーズがずっと続くイメージですか。どこかでコンテンツの有料化もあり得ますか。

そこは悩ましい問題です。技術的には、有料化はすぐにでもできますが、どうやったら、ちゃんとした収益をつくれるのかが難しい。

スマートニュースの収益のことだけを考えたら、広告のほうが儲かるわけです。もし有料課金をやるとすると、やっぱり僕はメディアプロスパー(メディアの繁栄)の中に位置付けたい。有料でないと出てこない良質なコンテンツは多くありますから、それを読者が読めるようにするとともに、メディアにとっての収益基盤となるようにしたいわけです。

そのためには、それなりのユーザーがちゃんと課金してくれないといけない。今、どうやったらユーザーがそれだけ課金してくれるかを一生懸命考えていますが、課金でうまくいっているところはあまりない。

だから、何かアイデアが必要なんだろうと思っています。有料課金を大きな収益にするためには大きなブレークスルーが必要だろうなと思っています。

鈴木健(すずき・けん)スマートニュース共同創業者。1998年慶応義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)など。情報処理推進機構において、伝播投資貨幣PICSYが未踏ソフトウェア創造事業に採択、天才プログラマーに認定されている。

鈴木健(すずき・けん)
スマートニュース共同創業者。1998年慶応義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)など。情報処理推進機構において、伝播投資貨幣PICSYが未踏ソフトウェア創造事業に採択、天才プログラマーに認定されている

(撮影:福田俊介)

*NP特集「2020年のモバイル」終わり。