育成をベースに攻めの経営へ
勇気ある宣言。10年後には東京にサッカー専用スタジアムを
2015/7/27
今、J1にいる唯一の首都のクラブがFC東京だ。
これまでに長友佑都や武藤嘉紀をヨーロッパに送り出し、現在もたくさんの日本代表選手を抱えている。浦和レッズに次いで観客数が多く、Jリーグをけん引することが期待される人気クラブだ。
ただその一方で、母体となった東京ガスサッカー部の殻を破れていない印象がある。ガス事業は公共性が高く、博打となるようなサッカーへの投資はしづらい。年間売上は浦和レッズよりも約20億円少ない(浦和が約58億円、東京が約38億円)。
東京ガスサッカー部のOBとして初めてFC東京の社長になった大金直樹は、首都のクラブを飛躍させられるのか。
スポーツライターの金子達仁が話を聞いた。
【第1回の読みどころ】
・ベースは育成型クラブ
・育成への投資を最優先
・長友移籍から武藤移籍まで5年
・第2の武藤を生み出すサイクルを早める
・武藤ファンもFC東京ファミリーの一員に
・10年以内にサッカー専用スタジアムを建設
キーワードの1つは「育成」
金子:長期・中期・短期でいろいろな目標があると思うんですが、FC東京はどこを目指していますか。現状、「育成型のクラブ」という面を打ち出していますよね。
大金:「育成型クラブ」というのは、外せないワードのひとつだと思っています。FC東京のアカデミーで小・中・高という年代を過ごした選手がトップチームで活躍する、ひいては日本代表で活躍する、最終的には海外へ出ていく、というチームをつくっていくことが最終形だと考えています。
金子:ひな型と言いますか、イメージしているヨーロッパのクラブはありますか。
大金:逆から言うと、優れた選手を資金力で獲得できるレアル・マドリーやバルセロナのようなクラブとは対極にあると考えています。
金子:ほかのクラブと比べると、育成への投資が多いのでしょうか。
大金:他クラブとの比較は立地も関係するので難しいのですが、少なくとも私たちの中では育成への投資を最優先している、というのは間違いないです。
第2の武藤を生むサイクルを早める
金子:育成クラブの宿命として、育てた選手を引き抜かれてしまうことがあります。日本の場合、個人についているファンが多い印象があり、その選手がいなくなってしまうと観客数が落ち込みかねない。実際どうでしょうか。
大金:最近の事例で言うと、武藤嘉紀のマインツへの移籍がわかりやすいと思います。
武藤という日本を代表する選手によって集客ができましたし、収益も上がりましたが、いなくなって今はどうか。象徴的なのは、小平の練習場に来る人が少なくなったこと。これは否定できません。
私たちは武藤に変わる存在をつくらないといけない。第2の長友佑都(現インテル)、第2の武藤を生み出すサイクルをできるだけ早くするということです。
長友佑都は私たちのアカデミー出身ではないのですが、大学3年生のときにFC東京にJFA・Jリーグ特別強化指定選手として加入し、2010年にイタリアのチェゼーナへ移籍しました。
長友の移籍から、武藤の移籍まで5年。このサイクルを短くしたいと思います。
武藤ファンもFC東京ファミリーの一員に
金子:人についているファンを、チームのファンに変えることはそもそも可能だと思いますか。
大金:可能だと思っています。なぜかと言うと、武藤を好きになってスタジアムへ来るようになった人たちが、武藤がいなくなった瞬間に全員来なくなるわけではないからです。
まだきちんと検証できてはいませんが、武藤の移籍後も14番のユニフォームを着たファン・サポーターがたくさん試合に来ています。
つまりFC東京ファミリーとして、まだ残ってくれているということ。武藤がマインツへ移籍しても、FC東京から切り離して考えているわけではないんですよ。
武藤を大切に思っていて、ウオッチし続け、同時にFC東京のファン・サポーターでもある。そういう流れが生まれていると思います。
金子:そのプロセスを積み上げていこう、と。
大金:そうですね。積み上げを怠ってきたわけではありませんが、そのステップの幅がヨーロッパに比べると小さかったかな、というのは感じています。
首都にサッカー専用スタジアムを
金子:FC東京に対して一番気の毒だと思うのがスタジアムです。味の素スタジアムは陸上トラックがあって、サッカー専用ではありません。このハンデをどうやって埋めていきますか。
大金:首都東京、メトロポリタン東京に国際試合を開催できるサッカー専用スタジアムがないのは、日本にとっても不利だと思います。
味の素スタジアムは素晴らしいスタジアムですし、これまで協力してスタジアム造りをしてきましたが、FC東京にとっても、サッカー専用スタジアムをホームの会場にすることが必要だと考えています。
金子:各所に訴えたりしているわけですよね。
大金:具体的ではないですが、なかなか思うようにいきません。
金子:のれんに腕押しですか。
大金:腕押しではないのですが、ただし、大きなバルーンを上げないと何も始まりません。ある程度の年数とコストを想定して、クラブとして着実に動こうと考えています。
この秋、ガンバ大阪の新スタジアムが完成しますが、そこにたどり着くまでに相応の年数がかかっています。それを踏まえて、スタートを切りたいと考えています。
夢は10年以内のスタジアム建設
金子:何が障壁になりますか。
大金:まずはコスト。初期投資だけでなく、建設したあとのランニングコストも含めてです。どのような事業をやって、誰が所有して、管理するのか。これが1番の問題になると思います。
金子:クラブの母体である東京ガスがぽーんと払ってくれるというのは無理なんですか。
大金:それは難しいです(笑)。民間会社とはいえ、公益性の高い事業を行っている会社としてスタジアムにおカネを出す理由がないですから。地域貢献とはいえ、巨額の投資を行うということを株主が許さないと思うし、なかなか難しいでしょう。
ただひとつ言えるのは、自治体と力を合わせなければ実現しないということ。東京都なのか、23区、市町村なのかわからないですけれど、自治体と一緒にやらないと達成できない。行政との連携を進めていきたいです。
夢は10年以内にサッカー専用スタジアムを東京につくることです。
金子:夢というよりも、実現すべき目標ですね。
大金:2020年に東京五輪があるので、その後だと思っています。まあ本来なら、東京五輪のタイミングでサッカー専用スタジアムが欲しかったですけれども。
新国立競技場のデザインは白紙に戻りましたが、話題になったあのアーチ1本でサッカー専用スタジアムが造れるんですからね。
GK権田の声が聞けてこその試合
大金:元選手として言いたいのは、やっぱりサッカーは専用スタジアムで観てほしいということ。
現在、大学サッカーでよく使われている味の素フィールド西が丘(北区)は約7000人の小さなスタジアムですが、陸上トラックがないからスタンドがすごく近くて、選手としてもプレーしている実感がある。FC東京の選手にも、そういう環境でプレーさせてあげたいんです。
GKの権田修一の声が、ファン・サポーターに聞こえる。それがサッカーであり、エンターテインメントだと思っています。
金子:まして今やテレビをつければ、プレミアリーグ、ブンデスリーガ、チャンピオンズリーグが見られる時代ですからね。
大金:だからガンバ大阪のスタジアムは、いろんな意味で刺激となり突破口になると思っています。
金子:期待しているんですね。
大金:期待もしていますし、自分たちも動かなくてはいけないって思っています。
東京にサッカー専用スタジアムが欲しい! 造りたい! ということを、今年中に宣言するつもりです。
(構成:木崎伸也、写真:福田俊介)
*「Jリーグ・ディスラプション」の第2弾となる大金直樹社長(FC東京)インタビューは、月曜日から水曜日まで3日連続で掲載する予定です。