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Chapter 1:人口減少の現実

人口減少による「国債暴落」のシナリオは回避できるか

2015/7/27
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第五弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.5「2040年の崩壊 人口減少の衝撃/地域活性化の現状と課題」』(初版:2015年5月22日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
Chapter 1では、確実に労働力人口が減少し続ける日本の将来をデータから読み解く。安倍政権が人口減少に対する有効な解決策を提示できない中、経済は縮小スパイラルに突入し、国債デフォルトのリスクが高まることが予想される。人口減少が経済にもたらすマイナスの影響と、政府が採りうる解決策を俯瞰する。
前編:2040年に向けて沈みゆく日本。この国はどうなるか(7/13)
後編:少子化問題と移民政策は国の最優先事項だ(7/20)

2040年、日本の社会保障制度は破綻する?

人口減少は、日本経済にとって最大の問題です。何が問題なのかと言うと、日本だけでなく世界を見ても、ここまで大幅な人口減少を経験した先進国は他にないのです。この問題を、制度と数字の面から検証していきます。
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図-1を見てください。真ん中の15~64歳の部分が生産年齢人口、働く可能性のある人口です。この生産年齢人口が下がりだしており、人口全体としても2014年あたりをピークに下がり続けていきます。

2065年ごろには、65歳以上の人口の割合が、社会保障費を負担する側の割合より多くなります。これでは国が維持できません。限られた生産年齢人口が、警察・自衛隊・消防など力の必要な仕事に優先的に就くとすれば、一般企業は若い人を雇用することができなくなります。

逆の言い方をすると、一般企業が若い人を雇用すれば、国防さえも危うい状況になるのです。

来年の経済がどうなるか、確実な予言は誰にもできませんが、未来を極めて正確に予見できる指標がひとつだけあります。それがこの「人口動態」です。

2040年には「85歳以上」の人口が最も多くなる

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次に図-2を見てください。第二次世界大戦直後、第一次ベビーブームの時期に生まれた「団塊の世代」が、2010年時点で60~64歳になっています。団塊の世代の子供たち、「団塊ジュニア」は35~39歳。

2025年になると、団塊の世代が75~79歳、団塊ジュニアが50~54歳。団塊ジュニアが働き盛りです。そして2040年になると、団塊の世代、すなわち85歳以上の人口が一番多くなります。2060年になると、高齢化はさらに顕著になりますね。

今、田舎の村に行くと、若い人がほとんどいない。既に一番右側のグラフのような人口構造になっています。このままいけば、30年、40年経っても労働力人口が増えず、日本全体で高齢化が進むことが確実に予見できるのです。

結婚しない、子供を増やさない「団塊ジュニア」

図-2、2010年のグラフから、日本の問題がもうひとつ読み取れます。60~64歳を迎えている「団塊の世代」の下方に、35~39歳の「団塊ジュニア」のピークがあります。団塊の世代が25歳くらいで子供を産み、そのピークが正確に来ているのです。

同様に、団塊ジュニアが皆結婚して子供を生んでいれば、5~9歳のところにもう一度ピークが来るはずですが、そうはなっていません。団塊ジュニア世代は3分の1が結婚していないのです。

結婚したとしても、少子化で、1組の夫婦に子供が1人という家庭が多い。夫婦2人に対して子供1人の割合ですから、ピークが来るはずがない。夫婦2人で子供が2人いれば、次のピークが来るのですが。

いくら待っても、「ジュニアジュニア」が生まれてこないのです。これは人口統計学上、日本に対する重大な警告になるはずなのですが、誰もそのことを指摘しません。

人口減少により、日本経済は縮小スパイラルに

人口減少は、日本経済にさまざまなマイナスの影響を与えます。まず、労働力人口が減少し、当然経済成長率が下がって税収も減ります。

さらに消費者が減少して、商品を売る相手が減ってしまう。住宅需要も縮小します。自治体は人口が1万人を切ると病院などの社会インフラが維持できないので、地域そのものが消失するという事態も起こってきます。2040年に消滅している可能性がある自治体は896にのぼるというデータもあります(日本創成会議調べ。本稿Chapter4に詳細)。

これらの要因により、日本経済は縮小スパイラルに突入します。人口減少が国債暴落のトリガーになることも十分考えられます。日本国債は、いつ暴落してもおかしくない状況です。

増え続ける債務を抱え、それを返済する人が減っていく以上、物理現象として、国債デフォルト、ハイパーインフレが起こります。来週かもしれないし、5年くらいはもつかもしれませんが、いずれは必ずそういうことが起こるでしょう。
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「女性」「高齢者」活用では、労働力不足をカバーできない

このような状況にもかかわらず、政府が国土強靱化基本計画※1や東日本大震災からの復興計画などに伴う公共事業を増やしているので、いびつな形で、一部の業種、特に建設業の人手が大幅に不足する事態になっています(図-4)。
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図-5を見ていただきたい。15歳以上の人口は、おおよそ「労働力人口」と、高齢者・子供・専業主婦などの「非労働力人口」に分かれます。労働力人口は、1999年に6793万人とピークを打ちまして、2013年には6577万人まで減少しています。一方、非労働力人口は4506万人。
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安倍晋三首相は「女性を戦力に」という成長戦略を掲げています。また、2013年4月には、「高年齢者雇用安定法」が改正され、60歳で定年を迎えた後も希望者全員を引き続き雇用することが企業に求められるようになりました。

こうしたこともあり、既に多くの高齢者が、定年後も働き続けることを選んでいます。皆が定年通り退職すると、生産年齢人口は年間およそ80万人ずつ減っていく計算になるのですが、今減っているのは年間およそ30万人。約50万人が定年を延長している計算になります。

ところが図-5の右側のグラフを見てください。女性と高齢者を最大限に活用しても、2030年には労働力人口が292万人不足します。2060年には1785万人不足ということで、非常に厳しい状況になります。特に、力仕事を伴う警察、消防、自衛隊などでは、女性や高齢者を増やすにも限りがあります。

※1:国土強靱化基本計画:大規模自然災害などに備えて人命を守り、また経済への被害を最低限にとどめるために、ハザードマップの作成、堤防の整備など、ソフト/ハード両面からさまざまな施策を行うための基本計画。2014年6月に閣議決定された。

人口減少に対し、何ひとつ有効な打ち手を持たない日本

労働力人口が減少し経済が縮小することが予見できる状況になれば、通常、国が何らかの対策を採ります。人口減少を食い止めなければ、経済成長はおろか、国を維持することさえできないわけですから。

採るべき打ち手は非常にはっきりしていますが、結論から言えば、日本はこれまで何ひとつ有効な対策を採ることができていません。

人口問題に対する第一の解決策は、「子供を増やすこと」です。フランスでは、子供を産みやすくするための制度を作りました。日本でもこのような政策を実現できるかどうか。Chapter2で詳述します。

日本の移民受け入れを阻む壁

第二の解決策は「移民の受け入れ」です。ところが、2014年10月1日の衆議院本会議で、安倍首相は「移民政策は採らない」と明言しています。東京都内に特区を設け、外国企業の誘致や外国人の生活環境を整備するプロジェクトが進んでいますが、一部の地域にとどまっています。

ヘイトスピーチやネトウヨ(ネット右翼)という言葉を頻繁に耳にするようになり、いわゆる「右寄り」の主張をする雑誌なども増えています。このように内向きな風潮の中で移民の受け入れを進めれば、社会不安、移民との葛藤が起こるのではないかという懸念もあります。

ドイツでも、かつてトルコからの移民が急増して、宗教や文化の違いなどからさまざまな葛藤がありましたが、今ではトルコ系移民の第2世代、第3世代が国会議員になるなど、ドイツとトルコは素晴らしい関係にあります。

移民受け入れの現状と課題については、Chapter3で解説します。

国策で地方創生に取り組むのは日本だけ

経済縮小への打ち手として、安倍政権は、「地方創生」を成長戦略の最重要課題に位置付けています。しかし、国策で地方創生に取り組んで成功した例は、世界にもほとんどありません。

したがって、石破茂地方創生担当相は、これまでに成功例のないことをやっているわけです。成果が出るか否かにかかわらず、「ふるさと創生」「地方創生」とさまざまに名称を変えながら、結局税金を使ってしまう。

日本の場合、衆議院で2倍以上、参議院では5倍近い一票の格差があり、人口の少ない地方の票がより重くなっています。したがって、選挙のたびに「地方創生」が争点になるのです。諸外国で「地方創生」を公約に当選する人はいません。

その代わり、選挙のアジェンダになるのは「都市再生」です。スラムができる、交通渋滞が起こる、ゴミがたまるなど、世界では「都市問題」が喫緊の課題になっています。地方の問題が国政で取り上げられることはまずありません。その意味で、日本はむなしいことをやっている。

地方活性化の可能性に関しては、Chapter4で後述します。

経済成長が止まれば、即、国債デフォルトに向かう

人口問題に対して政府が有効な解決策を打ち出せない中、「これ以上成長しなくていい」と考え方を変えることもひとつの方法でしょう。一見、なるほどと思います。

しかし、1300兆円もの債務を抱える国の経済成長が止まったら、莫大な借金をどうやって返すのか。債務のことを忘れてしまえば「まあ、そこそこの生活でいいか」と考えることもできるわけですが、今の日本の場合、経済成長が止まることは、即、国債のデフォルトにつながります。

高度成長期、団塊の世代が生まれた頃の日本は「人口ボーナス期」でした。人口ボーナス期には、放っておいても、団塊の世代が次々に就職して税金を払う。国が借金を持っていても、返す人がどんどん増えていくという時期です。

「人口ボーナス」がここ数年でピークを迎え、これからの日本は「人口オーナス期」、すなわち労働力人口が激減するサイクルに入ります。当然税収も激減します。今、対GDP比で世界最大の借金を抱えている日本に、借金を返す人がいなくなるのです。

国債暴落は大変な問題ですが、人口が減るからこういうことが起こるのです。国債暴落はその結果なのです。安倍政権は人口減少、それに伴う経済縮小に対して、何一つ有効な手を打てていない。このことに危機感を持つ必要があります。

安倍首相の経済政策は「口だけ成長」です。アベノミクス第3の矢「成長戦略」とかけ声は勇ましいですが、中身がないのです。

国が何もしない中、企業として、個人として、自衛するためにはどうすればいいか。そこはChapter5で見ていきます。まずは政策をどう変えるかについて考えましょう。

次回、「なぜ日本で子供が増えないのか」に続きます。

*本連載は毎週月曜日に掲載予定です。

本特集は、2014年に大前氏が経営者に向けて開催した定例勉強会「人口減少の衝撃(2014.10 向研会)」を基に編集・構成している。

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