日本女性が嫌がる「あの問題」に対するLA男性の見解
「乳首はビーチに置いてこい!」LA男の身だしなみ
2015/7/26
東京にいた頃、夏場もスーツで通勤していた夫は、子どもを保育園に連れて行くだけで汗びっしょりだ、と日々ボヤいていました。
冷感スプレーや汗ふきシートを手渡して激励しつつも、会社で周囲に“スメル・ハラスメント”しているのではないか……とハラハラしたものです。
公共交通機関が発達していないLAでは、車通勤が一般的。気温が上がっても湿度は低く、夏でも過ごしやすい気候です。見知らぬ人と至近距離で接することが少ないせいか、日本ほど身だしなみにも厳しくない印象が。
でも、実際のところはどうなのでしょう? そんな疑問を直接、LAの男性陣にぶつけてみました。
ということで、LAからは「男性の身だしなみ」をテーマに、前編・後編と2週連続でお届けします。
角質除去に”マニ&ペディ”も? LA男性の身だしなみ
やってきたのは、LAの西部にある、六本木ヒルズのような商業施設です。
徒歩圏内にはCAA(Creative Artists Agency)やICM(International Creative Management)といった芸能プロダクション、映画会社20世紀フォックスの撮影スタジオがあり、いわばエンタメ・ビジネスの中心地。タレントを顧客に持つ、弁護士事務所や会計事務所も軒を連ねています。
そんな土地柄のせいか、昼食時には近隣からビジネスマンがゾロゾロ集まり、打ち合わせをしながらランチする姿を目にします。
ファイナンシャル・アドバイザーのD.K氏もそんなビジネスマンのひとり。清潔感のある容姿の秘訣を聞くと「定期的な運動で汗を流し、角質除去スクラブで全身をしっかり洗うこと」と、淀みない回答が。週4〜5回は仕事帰りにジム通いし、シャワーは1日2〜3回。「ときどき“マニ&ペディ”にも行くよ」と、さも当然のような口ぶりです。
“マニ&ペディ”とは、手足のネイルケアのことですが、まさか男性の口からそんな言葉が出てくるとは……。自分の荒れた指先を、慌てて隠したのでした。
D.K氏の精悍な背中を見送ながら「彼は特殊ケースに違いない」と思った私は、道行く人をさらに捕まえて話を聞いてみることに。20〜40代の男性が20人ほど答えてくれました。
そこで驚かされたのは、彼らの語る「身だしなみ」の幅広さと奥深さです。スキンケアやヘアケアどころか、筋トレや歯のホワイトニング、ネイルやムダ毛の手入れに、ファッションやフレグランス選び。文字通り、頭から爪先まで習慣的に磨きをかけているというのです。
「ジェンダーニュートラル」がアメリカの新人類・ミレニアル世代のトレンド
身だしなみに気を使うことが、ここまで浸透したのはなぜなのでしょうか。ひとつには「ミレニアルズ」と呼ばれる世代の台頭が影響しているようです。
専門家によって定義が微妙に異なるようですが、ミレニアルズとは1980年から2000年前後に生まれた世代を指します。米国の人口の約3割を占め、今やベビーブーマー(1946年から1964年の間に生まれた世代)を抜いて、米国で最も多い世代だといわれています。
ここ数年でミレニアルズの多くが20代に突入し、就労して収入も増える年齢になることから、彼らの価値観や消費スタイルが注目され、ニュースでもよく取り上げられています。
彼らが牽引するひとつのトレンドが「ジェンダーニュートラル」(男女の性差にとらわれない思考や行動、社会制度、ファッションなどのこと)です。
大手日用品メーカーで働くAyo氏(31歳)は、フレグランスの研究者です。彼自身、気分やTPOに合わせて、香水を数種類使い分けているといいます。
「女性向けとか男性向けとか、関係なく使いますね。女性とのデートで、あえてフェミニンな香りを選ぶことも。相手が安心してくれるように感じます」
「女性用」「男性用」と押し付けられることを嫌うミレニアル世代
消費行動の調査会社、Intelligence Group(インテリジェンス・レポート)が発表した「Cassandra Report(カサンドラ・レポート)」によると、ミレニアル世代は男女ともに、ユニセックスなものを好む傾向にあるといいます。
同レポートは、「彼らは男性的/女性的なものを、企業や社会から押し付けられることに抵抗がある」とし、何が自分に合っているかは性別ではなく、自分の価値観で判断したいと考えている、とまとめました。
Ayo氏もまた、同様のことを話してくれました。
「フローラルだから女性しか買わない、マリンやウッディな香りは男性向け、というのは古い発想。実際に、僕の会社の商品についても、性別と消費行動は関係がなくなってきている」
ちなみに、今回話を聞いた20人全員が、デオドラント製品や香水を普段使いしていました。香りが身だしなみの大きな要素であることがうかがえます。
過剰なセックスアピールはカッコ悪い? 男性の意識が変わりつつある
「ジェンダーニュートラル」というトレンドはまた、男性の身体に対する意識にも、少しずつ影響を与えているようです。
「身だしなみには全然気を使ってないよ」と話すBret氏(30歳)ですが、定期的に脱毛サロンに通い、胸毛の処理をしているとのこと。
「男性の胸毛はアメリカ人の女性にとって、セクシーと評価されると聞きましたが……」と尋ねると、「そんな時代は終わったよ」と肩をすくめます。
まわりには「武骨な印象を与えたい」と言いながらも、「胸毛が目立たないようにしたい。プロにワックスで脱毛してもらうと、毛が生えにくくなるらしいんだ」とBret氏。過剰なセックスアピールはカッコ悪い、と感じているようでした。
それなら「透け乳首」はどうなのか?
胸毛がセクシーじゃない、となると、日本でもよく話題になる「透け乳首」はどうなのでしょうか。
仕事がオフなので買い物に来た、と話すAdam氏とMike氏。彼らがスーツのブランドに勤める同僚同士だと知り、思い切って聞いてみることに。
「日本では、男性のワイシャツやTシャツから、乳首が透けて見えるのを嫌がる女性が増えているのですが……」と切りだすとMike氏、「それはこっちでも一緒だよ。男同士でも見たくないよ」と「No!」を連呼。
そもそもスーツは、ジャケットを脱がないのが前提のファッションだ、と話すMike氏。ワイシャツだけで過ごす場合は、せめてアンダーシャツを着用するべきだと話します。
「洗練された印象を与えたいなら、性的なパーツは強調しないほうがいい。乳首が自己主張していいのはビーチだけだ!」
目立ちやすい乳首、“puffy nipples(ぷっくり乳首)”の持ち主は、アメリカでもいろいろ気にしているのだと、こうした気遣いが日本特有のものではないことを教えてくれたのでした。
ちなみに、この「透け乳首」問題に長年取り組んできた夫に、Mike氏の指摘を伝えたところ、夫は自分の胸元に「亜美ちゃん・由美ちゃん」と名前を付けていました。
PUFFYの2人はアニメ化されるなど、アメリカでも人気がありましたが、こちらの“Puffy”はそういうわけにはいかないようです。
次週は、LAの男性たちが「日々の身だしなみに取り入れていること」として最も多く挙げた、スキンケアをテーマにお届けします。
彼らが肌の手入れに力を入れる理由や、オバマ大統領をはじめ政界人が愛用する「男性用化粧品」をご紹介する予定です。
<連載「『駐在員妻』は見た!」概要>
ビジネスパーソンなら一度は憧れる海外駐在ポスト。彼らに帯同する妻も、女性から羨望の眼差しで見られがちだ。だが、その内実は? 駐在員妻同士のヒエラルキー構造や面倒な付き合いに辟易。現地の習慣に適応できずクタクタと、人には言えない苦労が山ほどあるようだ。本連載では、日本からではうかがい知ることのできない「駐妻」の世界を現役の駐在員妻たちが明かしていく。「サウジアラビア」「インドネシア」「ロシア」「ロサンゼルス」のリレーエッセイで、毎週日曜日に掲載予定。今回は「ロサンゼルス駐在員妻」編です。
<著者プロフィール>
アキコ
神奈川県生まれ。父の転勤により6歳で初めて渡米し、現在までに4回の米国居住を経験。2014年から夫の転勤でロサンゼルスで駐妻生活中。一児(娘)の母。