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軍事用から発展、定義は揺れる

イラク戦争もスマホ操作のホビー機も。そもそも「ドローン」って?

2015/7/23
今年4月の首相官邸への墜落などをきっかけに注目が集まったドローン。規制法案が国会で審議される一方、配達や監視・リサーチへの活用とデータ収集を組み合わせ、ビジネスモデルを革新する期待も集まる。ドローンは、既存ビジネスをどう変えるのか。『ドローン・ビジネスの衝撃』(朝日新聞出版)の筆者でITコンサルタントの小林啓倫氏が追う全6回の連載を今回からお届けする。初回は、歴史的経緯を振り返りつつ、そもそも、ドローンとはどのようなものを指すのかを、一から解説する。

軍事用から始まった「ドローン」

「ドローン(drone)」は英語で、「雄バチ」や「ブンブンという音」を意味する。つまり本来は今、皆さんが想像しているようなラジコンヘリを指す言葉ではなく、俗称にすぎない。

その名前の由来と小型飛行機としての歴史は、第2次世界大戦の直前にまでさかのぼる。

1935年のこと、英国海軍は新たに開発した無人標的機「クィーン・ビー(女王バチ)」のデモンストレーションを行った。無人標的機とは、無線で操縦され、文字通り標的として利用される飛行機のこと。

これを使って、対空砲を撃つ練習をしたり、戦闘機のパイロットを育成したりするわけである。当時の英国は、この無人標的機の開発と実用化に積極的で、クィーン・ビーも1947年の退役までに約380機が導入された。

このデモンストレーションを見た米国のウィリアム・H・スタンドレイ海軍大将は無人標的機というアイデアを気に入り、米国に戻ると、同様の飛行機の開発を指示した。このとき、無線で操縦される軍事用無人飛行機に対し、「クィーン・ビー」へのオマージュとして「ドローン」という言葉が使われたのが、無人飛行機としてのドローンの始まりであると言われている。

そして軍事用無人機としてのドローンは、時間をかけて次第に進化していく。最初は人間が無線で操縦し、標的として使われるだけだったのが、高い自律性や攻撃能力まで備えるに至った。

現在では地球の裏側を飛んでいるドローンを操作し、搭載されたカメラが捉えた映像を確認しながら、対象物への攻撃を行えるほどである。

2000年代のアフガニスタン戦争やイラク戦争などに次々と投入され、それがメディアで大きく報じられたことで、「ドローン=高い性能を持つ無人飛行機」というイメージが一般の人々の間で定着することとなった。

国内初の「ドローン」に関する展示会も、5月に開かれた。

国内初の「ドローン」に関する展示会も5月に開かれた(写真:福田俊介)

ホビー用も登場、ラジコンヘリとしてのドローン

一方、ホビー用でも2000年代の後半から「ドローン」と呼ばれる次世代型のラジコンヘリコプターが登場する。それまでのホビー用ラジコンヘリは、人が乗るヘリコプターと同じように、ローター(回転翼)が1枚のシングルローター型をしていた。

また、比較的サイズが大きくて高額なものが多く、すべてマニュアルで操縦する必要があった。つまり操作に慣れない素人が、簡単に手を出せるような代物ではなかった。広い屋外で飛ばして、操縦テクニックを楽しむものだった。

しかし、新たに登場してきたラジコンヘリは、複数のローターを持つ「マルチローター型」が多く、室内で飛ばせるほどに小型化した。製品によって性能に差はあるものの、飛行中の機体を安定させる自動制御機能が組み込まれ、初心者でもわずかな操作を覚えるだけで飛ばすことができるようになった。

このため、ラジコンの操縦がしたい人だけではなく、ヘリを使って空撮を楽しみたい人も使うようになり、用途が広がっていった。

従来のラジコンヘリとの外見上の違いや高い性能が軍事用のドローンをほうふつとさせたためか、次第にホビー用の小型無人機に対しても、「ドローン」という言葉が使われるようになった。

低価格で高性能、スマホで素人が操縦できる機種へ

そのようなラジコンヘリの代表例が、2010年にフランスのパロットが発表した「ARドローン」だ。ARドローンはいわゆるクアッドコプター(4つの回転翼を搭載したヘリコプター)で、当時の価格は4万円ほど。室内で飛ばせるサイズで、危険を避けるための室内飛行用カバーも用意されている。

またジャイロセンサーを搭載し、姿勢制御などの簡単な自律性を備え、操縦はプロポ(リモコン型コントローラー)ではなく、スマートフォンから行うことができる。

さらにビデオカメラも搭載しており、撮影した映像をWi-Fi経由で転送して、スマホ上で確認することが可能。「AR(拡張現実感)」という名前の通り、画面上に現れる仮想の敵(現実世界の映像に重ね合わせて表示される)と戦って遊ぶ機能が用意されている。

「ARドローン2」=パロット社提供

「ARドローン2」(写真提供:Parrot)

低価格で高性能、素人でも飛ばせて新しい遊び方ができるというARドローンは、衝撃をもって迎えられた。こうして2010年代の初頭には、今ニュースで使われているような意味での「ドローン」のイメージが定着した。

結局、「ドローン」って何? 割れる定義

ただ、ARドローンの登場以降、さらに「ドローン」の定義は揺れた。

たとえば、ホビー用ラジコンヘリの世界でクアッドコプター型の機種が大量に登場し、「ドローン=クアッドコプター」というイメージが生まれたが、ドローンは4枚のローターを持つヘリコプターでなければならないということはない。ローターが6枚、あるいは8枚あるものや、飛行機のような固定翼のものもある。

こうした形状に関する議論より難しいのが、自律性を「ドローン」の条件に含めるかどうかという点だ。ソフトウェアの性能は見た目ではわからないため、最近はごく最小限の姿勢制御しか行わないクアッドコプターでも、「ドローン」と呼ぶケースが増えている。

しかし、前述のように、そもそもドローンという呼び名が定着した理由は、高い自律性を備えて初心者でも扱いやすいという点が、これまでのラジコンヘリとは異なっていたからだ。それを考えれば、自律性は重要な要素だろう。

ただ、言葉の定義は皆が決めるもので何が正しいとは言い難く、おそらく今後も「ドローン」の定義をめぐる議論は終わることがないだろう。

ドローンは今、毎日のように新たな機種や用途が表れている。1年後にはさらに進化した機体が登場し、ドローンの定義を変えてしまっているかもしれない。次回は、その進化を受け、なぜ今、産業用ドローンが注目されているかを探る。

(取材・文:小林啓倫)

<著者プロフィール>
小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルティング 経営コンサルタント
1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業を経て、2005年から現職。著者に『災害とソーシャルメディア』(マイナビ)、訳書に『ウェブはグループで進化する』(日経BP)など。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。