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第1回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?

ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか

2015/7/21
メルカリ、nanapi、カヤックなどの超有望ベンチャーへの投資を次々と成功させ、今、最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏の連載がスタート。起業家からの質問に切れ味鋭く答えていきます。まず質問を投げかけるのは、十数年のアップルでのビジネス経験を経て起業したばかりの梶原健司氏。「起業家がベンチャーキャピタリストに聞きたいこと」をすべてぶつけ、本音の回答を引き出します。

会社の価値の成長は連続的ではない

梶原:今日は貴重な機会をありがとうございます。

ビジネスパーソンとしては10年選手ではありますが、自分の事業としてはまだ何も世に出せていないので、そもそも「起業家」と自分自身を呼ぶには大変おこがましいのですが……(苦笑)、とはいえベンチャーキャピタリストとして高名な高宮さんにはお聞きしたいことがたくさんあります。

梶原健司(かじわら・けんじ) チカク社長 1976年生まれ。大学卒業後、Apple Japanに入社。ビジネスプランニング、プロダクトマーケティング、新規事業立ち上げなどに従事。2014年チカク創業

梶原健司(かじわら・けんじ)
1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中

高宮:どうぞどうぞ(笑)。遠慮なく聞いてください。

梶原:では、いきなり、そもそもの話なんですが、典型的なベンチャーってどういうふうに成長していくものなんですか。起業したばかりの身としては、進むべき道の全体像を知っておきたい気持ちを持っています。

高宮:事業の進め方として、これが絶対に正しいというロードマップはありません。ただ、ベンチャーが急速かつ大きな成長を志向するものだとすると、事業そのものからのキャッシュフローを再投資するだけでなく、外部からのファイナンスの選択肢を考えておかないといけません。

その際に、ユーザー数や売上の伸びという意味での事業の成長が“連続的”なのに対して、“会社の価値の成長は連続的じゃない”ことは意識しておいたほうがよいでしょう。

梶原:ほほう! どういう意味ですか。

高宮:外部から見て会社の価値は、階段状にポコッと上がっていきます。その1個1個の階段、ガウス関数のように上っていくのが、ファイナンスをするうえで達成すべきロードマップです。
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ではどこで階段が上がるのか?

それがまさによく言われる「シリーズA」とか「アーリーステージ」などと呼ばれる、それぞれのステージが移行するタイミングです。

しかし、よく耳にするシリーズA、B、Cや、シード、アーリー、ミドル、レイターなどの呼称は、使われる種類株の種類や成長のフェーズなどで、同じものをいろんな切り口で表現しているだけです。そして、結構曖昧に使われていたりします。

ただ、これらの呼称の裏にある本質は、“事業のステージ=事業成長の段階”なのです。

梶原:おお、なるほど!

「シード」「アーリー」「レイター」のイメージは?

高宮:では、階段のそれぞれの状態を表現してみましょう。

よく言われるシード期、つまり事業の最初のフェーズにおいて何を達成すべきかで言うと、とにかく「ユーザの持っている根源的なニーズに、しっかり刺さるものをつくる」ということです。いわゆるプロダクト・マーケット・フィット、プロダクトと市場ニーズがぴったりと合っているという状態です。

そしてこれが達成できた段階で次の階段に上るわけです。

梶原:まさに私は今、その最初のフェーズです。

高宮:次はアーリー期で、「つくった製品やサービスを改善していきながら、ユーザが実際につき始める」フェーズ。

100万人、200万人というユーザーがついている必要はありませんが、「事業のドライバー=何に資源をつっこむと事業が伸びるのか」が見えている。少なくとも、もっともらしい仮説が立っていることが重要です。そうすると、この段階で億単位での資金調達をすれば、大規模にユーザーを増やす目途が立つからです。

その次が、成長期で「爆発的にトラクションがつきユーザー数が増加する」フェーズです。コンシューマ向けのWebサービスやアプリで言えば100万人とか200万人のユーザーがついている段階です。

そしてその次がミドル期で、「マネタイズが始まり、マネタイズのモデルが検証される」フェーズ。いよいよ最後の大物の不確実性であるマネタイズができるかは、大きな分水嶺になります。ここでマネタイズのモデルさえ検証できてしまえば、もう一息赤字に耐え、黒字化するまで成長を加速するだけです。

その次が「マネタイズのモデルが回り始め、単月黒字化」するフェーズです。あえて言うとミドル期後期なのですが、あまり一般的ではないかもしれません。このマイルストーンへの到達は、非常に大きな意味合いを持っています。

ここまで来てしまえば、“負け(倒産や事業が立ち行かなくなること)”はありません。あとは、いかに利益を極大化し、成長のスピードを高めるかです。

そして、いよいよレイターステージ、「年次で黒字化」みたいな感じです。この段階では、いかに高成長を維持するか、既存事業がまだ伸びるのか、または次なる成長事業を仕込まなくてはいけないのか、といった辺りがカギになってきます。また、このまま順調に成長が続く前提だと、IPO(新規公開株)も視野に入ってきます。

梶原:なるほど。

高宮慎一(たかみや・しんいち) 2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(二年次優秀賞)。その後グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある。

高宮慎一(たかみや・しんいち)
2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(2年次優秀賞)。その後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある

事業別の典型的なベンチャーの成長

高宮:典型的なケースをいくつかの事業の種類で整理してみるとこんな感じです。

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この価値的な段階論に対して、資金調達という意味でのファイナンスが連動します。階段がひとつ上がると、会社の価値がポコっと上がるので、当然前の段階をクリアして次の階段を上がったところで調達するのが、会社にとっても投資家にとっても良いかたちになります。

会社にとっては、より高いバリュエーションで出資をしてもらえることになりますし、投資家にとっては事業拡大のカギとなる仮説がまたひとつ検証され、取っているリスクが一段限定されている状態で投資をすることになるからです。

このように“事業価値が跳ね上がるマイルストーンに合わせてファイナンスも段階的に設計する”というかたちがよいでしょう。

梶原:今おっしゃっている価値というのは、(1)まずユーザーにとって必要とされるものをきちんとつかまえる、(2)それが証明されてユーザーがつき始めて……という、事業が外部から評価や認識できるものということですよね。

高宮:そうですね。この階段の縦軸が価値だとすると、ポコンって上がるタイミングというのがあって。

梶原:質的に変化するというか。

高宮:そう。だから、何かが検証されるとか、何かが達成されるみたいな、ゼロ・イチで判断できる話だと思います。

梶原:なるほど。新規事業の起ち上げと似ている部分がありますね。ただ、事業というか商いの基本って、利益が出てなんぼというか、トップラインである売上と、事業を継続するためのボトムラインである利益が出せることが原則だと思います。

上層部の肝入りみたいなプロジェクトを除けば、小規模の時点でも利益がきちんと出るという、まさにビジネスモデルの証明ができないと社内調整的にとても大変だったり……。

もちろんベンチャーにとっても投資家に対しての説明などで、当然同じことはあるものの、(1)ユーザ獲得、(2)〈売上を上げる〉マネタイズ、(3)〈利益を出す〉事業としての黒字化と、フェーズによって特化すべきことが明確に分かれているわけですよね。

成長スピードを最優先すべきベンチャーでは、まずは起業家側も投資家側も利益を出す前の(1)、(2)のフェーズに集中できる。その分リスクがある一方で、既存企業から飛び出して新しいビジネスにチャレンジする醍醐味を改めて感じました。

本日のポイント

・外部から見たその会社(=事業)の価値の成長は連続的ではなく、階段状に非連続に上がっていく

・事業価値ひいてはファイナンスを考えるうえでは、よく耳にするシリーズAやミドルステージという呼称よりも、事業の各段階で何が検証できていて、何が検証できていないかの事業の状態が重要

・事業価値が跳ね上がるマイルストーンに合わせて、ファイナンスも段階的に設計する。

*次回は、「ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか」です。

(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)