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2040年の日本に見る課題と解決

少子化問題と移民政策は国の最優先事項だ

2015/7/20
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第五弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.5「2040年の崩壊 人口減少の衝撃/地域活性化の現状と課題」』(初版:2015年5月22日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
今回は、日本のリスクに関係する「地域過疎・少子化・移民・教育」といったトピックについて、現状とその課題を大前研一氏に聞いた。(2015.3.30 取材:good.book編集部)
前編:2040年に向けて沈みゆく日本。この国はどうなるか(7/13)

少子化問題に焦点を

日本では、少子化が大きな問題です。よく「少子」「高齢」化といいますが、「高齢化」の問題に対策は打てません。放っておいても高齢化は進みます。そこをどれだけ手厚い社会システムでカバーするのかという話でしかありません。

しかし、「少子化」には対策を打つことができます。対策の打てるテーマを選んで集中的に対策を立てるという経営マインドを持った人であれば、明らかに少子化の問題に焦点を合わせなければいけないということがわかるはずです。

少子化の解決方法は2つです。ひとつは、子どもをもっと産んでもらうこと。少子化を解決するには、合計特殊出生率を1.41から2.0まで引き上げなければいけません。これはかなり大変なことです。まず、結婚を早くしなくちゃいけない。

そして、もうひとつの対策は、子どもを産んでも経済的なハンディキャップが生じないようにしないといけない、ということです。

求められる戸籍の撤廃と産み育てるための制度

まず、日本では制度に問題があります。日本には戸籍がありますが、子どもを増やしてきた国であるフランスもスウェーデンも30年以上前に戸籍を撤廃しています。

戸籍があるために起こる問題としては、戸籍上の嫡子かどうかという差別があります。大きな差別はなくなったといいますが、社会的差別は依然として残っています。ちなみに、フランスの場合、事実婚から生まれてくる子の割合が現在55%。日本ではこれが2%になります。

また、日本の場合、結婚届を出してから子どもが生まれるまでの平均期間がとても短いものになっており、その背景にはできちゃった婚がとても増えているということがいえます。つまり、戸籍のために結婚するという本末転倒なことが起こっているのです。

デンマークでは、女性がデンマーク人でデンマークの病院で産んでいれば自動的に子どもにデンマーク籍を与える制度があります。スウェーデンでは、3人以上出産した場合、住宅費を出してくれるような制度があります。

フランスには、子どもをたくさん産むと所得税を大幅に減額してくれる制度があります。国家としてここに予算を少なくとも3%程度は投入しています。

その結果、合計特殊出生率が2.0に近づくということが起こっているわけです。日本では若干の手当はありますが、このような予算の投入はほとんどありません。

この結果から見ると子どもを産むということは、極めてリアルな制度の中で守ってやらないといけないことがわかります。日本のやり方は中途半端で、成果は出ません。本当に少子化というのは深刻な問題です。

日本が競争心にあふれた人間を作ろうと思ったら、やはり戸籍を撤廃し自由にたくさん産んでもらうしかない。これが人口減少へのひとつの解決策です。

大前研一(おおまえ・けんいち) ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

止まらない人口減少-手段としての移民

人口減少への対策の2つめは「移民受け入れ」です。日本政府はいわゆる移民政策は取らないと言っていますが、日本の人口が減少していくのを止められない今、移民を受け入れないとどうしようもありません。

仮に、前述の少子化対策により子どもを産んでもらっても、30年後にしか効果はでてきません。フランスなどでも、やはり20年以上かかっています。そういう点から見ても、移民政策を組み合わせていかなければならないのです。

導入の方法については、他の国が犯した過ちに注意します。

第一はインセンティブをつけて、プロフェッショナルな人たちにたくさん来てもらうということ。アブダビやドバイ、シンガポールが競っているように、IT関係などで頭抜けた才能がある人たちを、日本はとにかく大量に受け入れる必要があります。

第二には士(サムライ)業。将来的には介護士などがうんと足りなくなるから、国内以外の手に依存せざるを得ないと思います。日本はこれをごまかしてロボットでやろうとしたりしていますが、そういう解決策は若干のプラスにはなっても、それだけで問題を解決できるわけではありません。

第三は、いわゆる優れた人材を受け入れていくということ。日本に来て働きたいという一般の外国人に、グリーンカード(※アメリカ国内に滞在期間の制限なく住むことができる権利を与えられた人が保有する証明書。カードの色が緑色のため、通称グリーンカードと呼ばれている)を与える。

私が30年前から言っている案としては、日本の生活に適合するために、最低でも2年間は無料で言葉や社会習慣などを学んでもらい、その成績の良い人に日本のグリーンカードと就業ビザを渡すというものです。

こうして、年間40万人くらいは定期的に受け入れるようにしなければいけません。アメリカのように不法移民が1,000万人にもなるなどということは避け、系統立てた計画を作り、教育施設を作って、彼らが日本の生活に馴染むように最低2年間は無料で支援する。このようなプログラムをひとつずつ完成させていかなければなりません。

移民受け入れにはもうひとつの良さがあります。それは、刺激です。アメリカのIT産業などを見ても、活躍している人の半分くらいは移民です。

イーロン・マスク(※アメリカの企業家。南アフリカ共和国・プレトリア出身。スペースX社の共同設立者およびCEO)やセルゲイ・ブリン(※Googleの共同創業者、技術部門担当社長。ソビエト連邦〈現ロシア〉出身)もそうですが、外国人が来るということはものすごく刺激になるものです。外に飛び出していくことも重要ですが、国内で競争ができる、異文化がたくさんあるということはとても重要なことです。

日本人の集団的能力、集団的アンビションを回復するためにも、国の最優先事項として、少子化問題と移民政策は取り組まなければならないことなのです。

消滅都市という問題

所謂消滅都市という問題は、増田寛也氏(「日本創成会議」分科会座長・元総務相)によってリポート(2040年までに全国計896自治体のうち半数がコミュニティを維持できなくなるという独自の試算〈※「ストップ少子化・地方元気戦略」:2014年5月9日に日本創成会議・人口減少問題検討分科会が発表した提言内で言及〉)にまとめられました。

これが必ずしもそうなるかどうかは、きちんと検証してみないとわかりませんが、いえることは、自治体が存続するには非常に高いコストがかかるようになるということです。

昔を考えてみると、100人程度の集落も、もっと小さい単位の集落もあった。本来であればそういうレベルでも存続できるはずなのですが、今の日本は一定の行政サービスの存在を生活の前提にしているので、それが原因で経済的に成り立たないところが出てきてしまう、という問題なのです。

地域活性化のために自治を

日本では地域の過疎化を問題といっていますが、一方、地方というのは放っておくとそこは素晴らしいバケーションランドになる可能性もあります。

例えば、モンタナ州のマディソン郡の橋など、夏になると人がどこからともなく集まってきます。過疎化しているところは、昔懐かしい景色が残っているなど観光資源としては非常に良いものがあるわけです。

日本はそこに体育館を造ってみたり、球場を造ってみたりしていますが、それは無駄です。何もいいことはない。本当にやらなければいけないのは、世界的に見て地域の活性化を結果的に達成しているところを参考にすることです。

例えば、オランダの農業などが挙げられるでしょう。活性化を成功させた地域の基本的なポイントは、「地域が自治権を持っている」ということです。自治権を使って、世界中から人・金・物を集めることで、うまくいく。

日本の地域は自治権がないため、国がこれをやろうとしますが、国がやってうまくいった例はありません。国がやることは、何かを造ることだけだからです。ハコモノを造っても、その工事が終わったら終了です。

例えば、イタリアは都市国家の集合体なので地域しかありません。イタリアには1500くらいの所謂スモールコミュニティというものがあって、しかも零細企業が税制的に非常に優遇されている。イタリアは国家としてはすでに破綻していますが、それぞれの地域が基本的には「世界対地域」で直接取引しているので、誰も何の影響も受けていません。

日本は国家が破綻したらみんなが影響を受けてしまいます。このイタリアの国家のあり方を日本ももっと研究すべきでしょう。明確な自治権も与えずに、国が勝手に地域ごとにハイテク特区や農業特区のようなテーマを与えても成果は生まれません。

そういうものは、本当にやりたいと燃え上がった人たち自身が作り上げるものなのです。日本は、落ちるところまで落ちずになんとなくうまくいく方法はないかと考えていますが、そんな方法はあるわけがない。

やはり地域の人たちが世界を相手に何で勝負していくか命懸けで考えたものが、結果に繋がるのです。

日本はいい要素は持っていると思います。例えば新潟・燕の洋食器やナイフ、フォークを作る技術、それから福井・鯖江のメガネのフレームを作る技術など、いろいろあると思います。

しかし、地域にそれをやり遂げるだけの自主性、自治権がない。ここに最大の問題があると思います。だからもう少し、世界の栄えている地域の研究をして、自由度というものを各自治体に与える。ここからスタートしなければいけないと思います。

次回、「人口減少による『国債暴落』のシナリオは回避できるか」に続きます。

*今回のインタビュー記事では、本連載の総括を大前氏に伺った。多くの施策を氏は提案するが、その具体的な方法論・数値については来週以降の本連載にてご覧いただきたい。

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