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フジテレビ大多亮常務が語るテレビの「次」(2)

イノベーションのジレンマを気にしていたら、テレビは潰れる

2015/07/19
今秋、世界最大の動画配信サービス・ネットフリックスが日本でのサービスを開始する。フジテレビはネットフリックスと組み、オリジナルコンテンツを制作・配信することが決まった。第1弾は新作『テラスハウス』と連続ドラマ『アンダーウェア』(英題:Atelier)。地上波での放送に先駆けてネットフリックスで独占配信する。フジテレビの大多亮常務取締役に狙いと今後の展望を聞く。
フジテレビ大多亮常務が語るテレビの「次」(1)

アーカイブをどれだけ集められるかが重要

──Hulu(フールー)は日本テレビのコンテンツだけに限定せず、日本全体のプラットフォームなんだと言って、いろいろなテレビ局に秋波を送っています。フジも「ノイタミナ」など一部アニメをフールーと共有していますが、あまり増やさないわけですね?

大多:今のところは。ただ、将来フジテレビオンデマンドがいくらやっても成功しなかったらわからないです。でも、もうちょっと僕らは頑張りたいんですよ。

──本店であるフジテレビオンデマンドを拡充するための強力なパートナーとして、ネットフリックスと組んだわけですからね。これで対抗軸が見えやすくなりました。「日テレ・フールー」陣営と「フジ・ネットフリックス」陣営の2つ。

いや、ネットフリックスはたぶん今後、全部の局とやっていきますよ。でも、スタート時点ではわれわれはネットフリックスと一緒にやっていきたいんです。

──ネットフリックスと一緒に制作するのはオリジナルドラマに限らないのですか。

大事なのは、実を言うとアーカイブだと思っています。彼らは別にオリジナルコンテンツだけで商売しているわけじゃない。アーカイブをどれだけ集められるかっていうところの勝負でもあると思うんです、映画も含めて。

そこの交渉が今、第4コーナー回って、もうゴール直前まで来てますけど、そこをどう折り合うか。

──フジテレビのドラマのストック量は圧倒的ですから、それを供給してもらえるかどうかはネットフリックスの生命線ですね。

折り合いがまだ付いてないのに制作記者発表で、あんな握手までしてるから(笑)。お互いの歩み寄りが大事ですよね。

握手するフジテレビ大多亮常務(左)とネットフリックス日本法人のグレッグ・ピーターズ代表(右)

握手するフジテレビ大多亮常務(左)とネットフリックス日本法人のグレッグ・ピーターズ代表(右)

これから3年が勝負

──ネットフリックスと一緒につくるオリジナルコンテンツは、当たり前ですけれど、フールーには提供しないですよね?

もちろんです。それはわれわれがどうこうではなく、ネットフリックスが絶対出さないのでは。だってSVOD同士で競合に当たるから。

──視聴者から見ると、いろいろなモデルが乱立してきて複雑でわかりくにくい。コンテンツをつくる業者がいたり、供給する業者がいたり、どこに行って見るのが一番いいのか、わかるようでわからない。

わからないですね。これから3年ぐらいが勝負だと思いますよ。インターネットで動画を見る人自体が、このところ増えた増えたと言っても、2008年当時、「これで見る人がいるのか?」って言われてたんですよ。

これは自慢ですけれど、フジテレビが国内で初めて2008年にオンデマンド事業を始めているんです。NHKオンデマンドより早い。

ところが、ここにきて急に会員100万人だって声を聞くようになった。スマホで見る、PCで見る、テレビにクロームキャストを接続して見る、みたいなことがやっと今、回り始めたところです。

その中で、こんなサービスあるんだ、あんなサービスあるんだって、やっと一般の人がわかってくるようになった。そういう意味では、ネットフリックスやフールーは起爆剤としては大きい。

そうなると、「テレビ視聴が減るんじゃないですか」って必ず聞く人がいるんだけど、そんなこと言ってたら、そもそもDVDだって売らない。DVDなんかテレビの画面全部を奪ってしまうじゃないですか。

映画事業だってやらない。なぜなら映画館に行っている間、テレビは見られませんから。そんなイノベーションのジレンマみたいな話をしていたら、テレビは潰れますよ。

でも、みんな怖いんです。だってこれからはテレビ画面を直接的に取ってくるわけだから。

この間、dTVの会見でもエイベックスの千葉龍平さんが、狙いはテレビだって言ったそうです。

どの事業者もやっぱり最後はテレビ画面を取りにくる。アップルもそう。だから仕方ないですよね。そういうサービスが、世の中にテクノロジーの進化として出ているわけだから。

それは勝負していかないと自分たちも進化できないし、侵食される危険性をはらみながらも勝ち抜くしかない。

でも、社内的には全員そんな人ばっかりじゃないですからね。

──やっぱり「テレビを食ってしまう」という人もいますか。

もちろんいるし、「ネット事業の儲けがフジの屋台骨になるほどの大きさにはならない」と言う。

「われわれはあくまでも地上波の非常に大きな広告収入だけで今後もいくんだ。そんなケタが3つぐらい違うビジネスに余計なことをするな。ネットが先進的で、こっちに行かなきゃダメだなんていう意見に惑わされちゃいけない」と思っている人もたくさんいます。

──大多さんは、動画配信事業にどれぐらいポテンシャルあると見ていますか。

うちの映画事業やイベント事業って、もう立派に柱のひとつになりました。当然、それをも凌駕するポテンシャルがあると見てます。

あと、もうひとつ大事なのは、商材がテレビの番組であるってことです。われわれの本業で生み出したものを、さらに活性化して売れるんです。だから、動画配信事業をこんな一生懸命やってるんだと思ってますよ。
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視聴データの分析がフジは弱い

──視聴データについてお聞きします。ネットフリックスに配信した分の視聴データを共有して分析するのですか。

その話はもちろんネットフリックスとしています。ネットフリックスだって自社のデータ分析が素晴らしいって自慢してます(笑)。「われわれはそれが世界一なんだ」って。

──ネットフリックスは視聴の75%がレコメンドから入ってくると言っていますので、本当に強い。

そのデータを共有できないのかという話をしたら、「はい、どうぞ」って言われたけれど、「使いこなせるほど甘いもんじゃないよ」とも言われました。

実は僕らが一番わかってるようでわかってない、そして弱いところってデータ分析なんです。「データの使い方って難しいよなぁ……」くらいで今までは通していたんですけれど、この手のビジネスでは最重要だと思います。

──そうですよね。

このところネットを開くと、やたらレコメンドが出てくるようになりましたよね。ちょっと前に1回しか検索したことないような何かが推薦されたりとかして、ここ数年で異常な発達をした。

その精緻なデータを得ることが、特にインターネット事業は重要です。そのデータをネットフリックスが「共有してもいいよ」って言うのは、すごくいい関係ができてるということ。ローンチ後に楽しみです。

別に資本提携してるわけでもなんでもないけれど、データ共有に関しても良好な関係を築きたいですね。

──それがうまくいった場合には資本提携もあり得ますか。

先方にその気がないでしょう(笑)。

テクノロジーが競争を分ける

──ネットフリックスとのからみだけではなく、やっぱりフジテレビオンデマンドを伸ばすうえでも、テクノロジーは重要なカギになると思います。

そうですね。

──日テレがフールーを買った最大のメリットはやはりプラットフォームのテクノロジーが優れているからでしょう。そこがこれから競争を分けると思うのですが、フジテレビオンデマンドはそこをどう強化されるのですか。

まだまだこれからですね。そういうテクノロジーを手に入れるための協業はいくつか考えています。僕らも自社開発は無理だし、そんなの、おカネだけかかって素人がやるところじゃないと思うので。

──テクノロジー面でネットフリックスに助けてもらうとか?

データの分析も含めて、いろいろ仕組みがわかってきたら、協業の交渉はあるかもしれない。うちからコンテンツは出すから、そこはもうちょっと教えてよとかね。

*NP特集「テレビの『次』」は、明日掲載の「恋愛ドラマの本質は、シェイクスピアの時代から変わらない」に続きます。

(聞き手:佐々木紀彦・NewsPicks編集長、構成:上田真緒、撮影:今 祥雄)