評価額は1.8兆円。スナップチャット悪童CEOの度胸と実力
2015/07/19, NewsPicks編集部
スナップチャットは大人になれるか(上)
評価額は1.8兆円。スナップチャット悪童CEOの度胸と実力
2015/7/19
全米で急成長中の画像共有モバイルアプリを提供するスナップチャット。アプリの月間ユーザー数は1億人に達し、企業価値は150億ドル以上とも言われる有望株だ。だが、その生みの親でCEOのエバン・スピーゲルの評判は極めて悪い。態度の悪さが有名で、生意気な成金の若造だと嫌われている。普段メディアの取材に応じないスピーゲルだが、今回、ブルームバークのインタビューを受けた。そのリポートからは、想像通り態度と口の悪さを感じられたが、一方では世間では語られていない意外な素顔も垣間見られた。
態度の悪さは有名
アメリカの中高生の間で絶大な人気を誇る画像アプリ「スナップチャット」。基本はスマートフォンで撮った写真や動画にメッセージを付けて送るだけだが、そのメッセージを開くと数秒で画像もろともデバイスから削除されるところがミソ。安心感と手軽さから、ティーンの間で爆発的な人気を集めている。
その共同創業者でCEOのエバン・スピーゲルがインタビューに応じたのは5月初めのこと。スニーカーを履いた足を椅子に乗せて、背中をのけぞらせると、「長いことメディアの取材には応じてないんだよね」と話し始めた。
時々手を伸ばすのは、パイナップルと洋ナシ、ショウガ、ミントを混ぜた「ハッピージュース」。めったにインタビューに応じない理由を聞くと、吐き捨てるように言った。
「仕事してたからだよ。クソ忙しくてさ!」
スピーゲルの態度の悪さは有名だ。それでも24歳で、スナップチャットを月間ユーザー数1億人超(主にティーンと20台前半の若者だ)、従業員数330人、企業価値が推定150億ドル(120円換算で1.8兆円)の一大ソーシャルメディアに育て上げてきたのは紛れもない事実だ。
なのにシリコンバレーやハリウッドで、スピーゲルの名前が話題に挙がることはあまりない。その実力は過少評価されていると言ってもいいかもしれない。
次世代のMTV的存在
スナップチャットは今、大きな転機を迎えている。
スピーゲルがスタンフォード時代に立ち上げてから4年。スナップチャットは「本物のビジネス」に脱皮しようとしている。今年初めに厳選した企業広告を入れ始めたが、今後はさらにその数を増やそうとしているのだ。
5月に広告代理店に送った23ページの企画書によると、アメリカの13〜34歳のスマホユーザーの60%以上がスナップチャットを利用し、1日延べ20億本以上の動画を見ている。
これはフェイスブックの約半分だが、スナップチャットの登録ユーザーはフェイスブックの10分の1だから、スナップチャットユーザーがいかに活発かがわかる。
「スナップチャットが登場した当初は、ちっぽけなアイデアで、こんなことになるとは誰も思わなかった」と言うのは、フェイスブックの元幹部でハイテク投資家のチャマス・パリハピティヤだ。彼はスナップチャットに投資していないが、以前から注意深く見守ってきたという。
「スナップチャットは最低でも次世代のMTV、うまくいけば次世代のバイアコムになれる」
とはいえ、これまでの道のりは決して平坦ではなかった。2013年には、スタンフォード時代のクラスメイトが、「数秒でメッセージが消えるアイデアは自分の発案なのに、スナップチャットに参加させてもらえなかった」として、スピーゲルと共同創業者のボビー・マーフィーを提訴。その内容がマスコミにリークされる事件も起きた(訴訟はすでに和解)。
昨年5月には、スピーゲルが学生時代にサークルの友達に出したメール(飲酒と乱交を推奨するような内容)がリークされ、スピーゲルは謝罪に追い込まれた。
さらに12月にソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントがハッカーの攻撃にあったとき、スピーゲルがスナップチャットの経営戦略について語ったメールもリークした(ソニー・エンタテインメントのマイケル・リントンCEOがスナップチャットの取締役だったためだ)。
リークしたメールの中には、スピーゲルがフェイスブックによる30億ドルの現金買収提案を蹴ったことを、わざとマスコミにリークして企業価値を高めようとしたと、フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグが非難するメールもあった。
スナップチャットならメッセージが数秒で消えてリークの心配はないから、この騒動に巻き込まれたのはスピーゲルにとって実に皮肉な出来事だった。おかげで彼には「特権意識が強く、女性差別的で、生意気な成金の若造」というイメージが定着してしまった。
だが、5月に南カリフォルニア大学経営大学院の卒業式に来賓として出席したスピーゲルは、次のように語っている。
「何をしたって非難する人は必ずいる。何をしたって何かが足りないと必ず言われる。だから自分にとって重要なことを見つけること。自分が好きな人間を見つけることだ」
シリコンバレーとは意図的に距離を置いて
スピーゲルは今、誤解を解こうと努力している。メディアの取材に応じることにしたのも、その努力の一環だ。
newspicks.com