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フジテレビ大多亮常務が語るテレビの「次」(1)

ネットフリックスと組んだのは、フジテレビが生き残るためだ

2015/07/18
今秋、世界最大の動画配信サービス・ネットフリックスが日本でのサービスを開始する。フジテレビはネットフリックスと組み、オリジナルコンテンツを制作・配信することが決まった。第1弾は新作『テラスハウス』と連続ドラマ『アンダーウェア』(英題:Atelier)。地上波での放送に先駆けてネットフリックスで独占配信する。フジテレビの大多亮常務取締役に狙いと今後の展望を聞く。
『アンダーウェア』

フジテレビとネットフリックスによる第1弾オリジナルドラマ『アンダーウェア』。世界配信(日程未定)も決定している。主演は桐谷美鈴。田舎娘が銀座の高級下着メーカーに就職し、成長する姿を描く

ネットフリックスと組むメリット

──先日、フジテレビがネットフリックスにオリジナルコンテンツを制作・供給することを発表しました。ネットフリックスと組むメリットは何ですか。制作費のサポートがある、グローバルにリーチにできる、グローバルでのブランド拡大といった理由が大きいと思いますが。

大多:基本的にはフジテレビの動画ビジネスを伸ばすのが僕の仕事で、動画ビジネスを伸ばすうえで、フジテレビオンデマンドという本店があるわけです。

民放系のTVOD(Transactional Video On Demand、都度課金制のビデオ・オン・デマンド)では会員数も商材も含めて一番多いことは間違いないんだけれども、これを何倍、何十倍にもするという一番大事な任務があります。

そのためにどうしたらいいかというと、自分たちだけでサービスを拡充していくのは当然なんですが、一方で外的な要因が大きい。

動画配信事業にはTVODやSVOD(Subscription Video On Demand、定額制のビデオ・オン・デマンド)などいろいろある。

このパイの取り合いをする中で3年後、5年後にその一角を、少なくも5社、6社というふうになったときに、フジテレビオンデマンドが生き残るための手立てのひとつが、ネットフリックスとの協業なんです。

資本提携があるわけではないですが、「ネットフリックスと組んでいる」というイメージ、それから彼らと緊密になることが、フジのオンデマンド事業を伸ばす意味でも重要だと思って組みました。

一番困るのは、動画配信事業があと3年後、5年後に数社が残って、フジテレビが自然淘汰(とうた)されてしまうことです。この状況を何としても避けなければいけない。

大多 亮 (おおた・とおる)フジテレビ常務取締役(総合開発・コンテンツ事業・国際開発担当) 1958年、東京都台東区生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、1981年、フジテレビに入社。報道局警視庁クラブ、広報部、第一制作部プロデューサー、編成部副部長、第一制作部企画担当部長、ドラマ・バラエティーを統括する制作センター室長、ドラマ制作センター室長、執行役員 ドラマ制作担当局長、執行役員デジタルコンテンツ局長、執行役員クリエイティブ事業局長を経て、現職。主なプロデュース作品は、「抱きしめたい!」「愛し合ってるかい!」「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「ひとつ屋根の下」「愛という名のもとに」「妹よ」「プライド」「ラストクリスマス」など多数。映画では、「ヒーローインタビュー」「冷静と情熱のあいだ」「チェケラッチョ!!」「シュガー&スパイス 風味絶佳」「容疑者Xの献身」「アマルフィー女神の報酬」などを企画及びプロデュース。

大多亮 (おおた・とおる)
フジテレビ常務取締役(総合開発・コンテンツ事業・国際開発担当)
1958年、東京都台東区生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、1981年フジテレビに入社。報道局警視庁クラブ、広報部、第一制作部プロデューサー、編成部副部長、第一制作部企画担当部長、ドラマ・バラエティーを統括する制作センター室長、ドラマ制作センター室長、執行役員 ドラマ制作担当局長、執行役員デジタルコンテンツ局長、執行役員クリエイティブ事業局長を経て、現職。主なプロデュース作品は、『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『ひとつ屋根の下』『愛という名のもとに』『ラストクリスマス』など多数。映画では、『ヒーローインタビュー』『冷静と情熱のあいだ』『チェケラッチョ!!』『容疑者Xの献身』『アマルフィー女神の報酬』などを企画およびプロデュース

──Hulu(フールー)と日本テレビが組んでいますが、ネットフリックスはフールーと競合するので組みづらい。そこでフジテレビがネットフリックスと組んで対抗軸になるわけですね。

われわれの取っ掛かりのコンセプトは生き残るためです。それに加えて、ネットフリックスのコンテンツへの取り組み方に感銘を受けました。

グレッグ・ピーターズ(ネットフリックス日本法人代表)さんや周りの人たちも含めて、非常に腹を割って話せた。「この人たちとは組めるな」と思ったのも大きいです。

フジテレビから積極的にアプローチ

──最初にフジテレビ側からアプローチされたのか、それともネットフリックス側からですか。

フジからです。1年ほど前、ネットフリックスがもう東京に事務所を開設しているという情報があって、ネットフリックスもまだテレビ局からあまりアプローチがないときに積極的にいきました。

私としては、一刻も早く行って、北極点とか南極点と一緒で、とにかく最初に旗を立てろという気持ちで「じゃあ、まずは話をしましょうか」っていう感じになっていった。

途中からは、フジテレビが最初にネットフリックスと組むんだということを、かなり強く押しました。

これまでもフジテレビの社長会見などで、一般紙の記者さんからも「ネットフリックスが日本に上陸しますが、どうお考えですか」みたいな質問が毎回のように出ていた。

世界最大の動画配信サービスとはいえ、そんなにみんなネットフリックスに興味があるんだ、これはニュースバリューが高い、いろんな意味で花火を上げたいと思いました。

話し合いを進めてコンテンツが決まっていく中で、『テラスハウス』の新作の配信が決まり、これは広く知ってもらいたいということで、先日の会見になったというのが事の経緯です。

6月17日の記者発表で、フジテレビ大多亮常務(左)とネットフリックス日本法人のグレッグ・ピーターズ代表(右)。

6月17日の記者発表で、フジテレビ大多亮常務(左)とネットフリックス日本法人のグレッグ・ピーターズ代表(右)

なぜ『テラスハウス』なのか

──第1弾が新作の『テラスハウス』と連続ドラマ『アンダーウェア』に決まった理由は?

ネットフリックスは基本的にオリジナルドラマでいこうという方針です。フジはドラマが強いというのは彼らもわかっていて、こっちは彼らがどういうものを喜ぶかわからないから、3つ4つ企画を出して、ネットフリックスが選んだのが『アンダーウェア』だった。

『テラスハウス』はこちらが提案したんです。日本でローンチして最初にダッシュがかけられるのはこれしかないと強く押した。

──『テラスハウス』はF1層に圧倒的に強くて、かつネットの拡散力も強いからですか。

そうですね。それは説明しました。グレッグさんは日本語がかなりできるし、日本のテレビについてとにかくかなり話し合いました。日本だったら、こういうコンテンツがいいんじゃないかってことを。

──ネットフリックスの著作権の考え方については、作り手側にあるというのはどのパートナーでも同じみたいですね。だからコンテンツクリエーターが喜んで集まってくる。

そのようですね。

ネットフリックス日本法人のグレッグ・ピーターズ代表

ネットフリックス日本法人のグレッグ・ピーターズ代表

──『アンダーウェア』は高級下着メーカーを舞台にしたジャパニーズドリームの話だそうですが、これが選ばれた理由は?

正直わかりません。若いスタッフに自由に企画をつくらせたから。私の命令は「頑張れよ。とにかく他局で最初に決まらないように!」ってそれだけです。

今秋、ネットフリックスで先行配信して、地上波が追いかけるというかたちになります。

ネットフリックスへのリスペクトと怖さ

──大ヒットドラマを制作されてきた大多さんからご覧になって、『ハウス・オブ・カード』などの大作をつくれるぐらい力のあるネットフリックスへのリスペクトはやはりあるのでしょうか。

あります。コンテンツありき、というリスペクトもありますけれど、逆に言うと一番怖い。われわれコンテンツメーカーとしては、やけどしかねない怖さを持っています。

──短期的にはいいコラボレーションになるかもしれないけれど、中長期的にはネットフリックスが本当に強くなってきたら……。

ただ、今後のことを考えると、やっぱり一緒に制作するメリットはたくさんあります。さっき言ったように、まず国内のオンデマンド市場において、彼らはSVODで、われわれはTVODっていう今のような棲み分けさえできていれば……。

向こうはSVODの独占であって、それ以外はフジは何をやってもいい。ということは、もちろんDVDにしたっていいし、どこで放送したってかまわない。

そうすると、TVODであるフジテレビオンデマンドは、独占で『テラスハウス』を配信できるわけです。これ、とても大きいです。だってネットフリックスに入っていない人は、フジテレビオンデマンドでしか見られないから。

いずれ彼らはアジアに打って出ていくわけで、そのときの国際戦略上も、われわれがそこにコンテンツをためておくことは、非常に理にかなっていますよね。

われわれも今、国際戦略として番組をアジア市場で販売したり、いろいろなことをやっています。

去年、過去最高の売上を上げたんですよ。それぐらいアジアの人たちが買ってくれている。特に配信権に対する需要が高い。放送権だけじゃなくて、配信権を付けると、より売れるんです。

その動きを見据えると、ネットフリックスと組むのは、とてつもない破壊力がある可能性が高い。

大型ドラマを一緒にやりたい

──今回、制作費は地上波と比べてどうなのですか。

地上波並みです。

──今後、地上波でできなかったような予算でクオリティの高いコンテンツが、ネットフリックスと組むことによってできる可能性はありますか。

もちろんあります。あとはネットフリックスのほうが、そのタイミングをいつと見るか。

日本版の『ハウス・オブ・カード』なのかわからないけれど、100億円かけるようなもの。まあ、デヴィッド・フィンチャーが撮って、ケヴィン・スペイシーが出れば、100億円かかると思いますけれど。

少なくともアジア市場を見据えたうえで彼らは日本に進出して、しばらく様子を見るのでしょう。ネットフリックスにとってアジア市場でブレイクスルーするためにオリジナルの大型ドラマというのはたぶん必ず切ってくるカードだから、そこは一緒にやりたいですね。

これでずっと一緒にやっていて、最後、他局と組むって言ったら、怒りますよ(笑)。

でも、こっちは何十億円もかけたドラマなんてつくったことがないから、逆に、大金をもらっても困っちゃうんじゃないかな(笑)。あと、おカネをかければいいってもんでもないですし。

──そうですよね。

ただ、日本市場において「こういう作品を提供してくるプラットフォーマーなんだ」っていう打ち出しは、絶対必要になってくると思う。

それはフジテレビオンデマンドも一緒。やっぱり優秀なオリジナルコンテンツでブランディングができて、さらに独自のエコシステムを持ったオンデマンド事業者が勝つと思いますね。

フジテレビオンデマンドの生きる道はそこだと思います。
 DSC8724_@kon

*NP特集「テレビの『次』」は、明日掲載の「イノベーションのジレンマを気にしていたら、テレビは潰れる」に続きます。

(聞き手:佐々木紀彦・NewsPicks編集長、構成:上田真緒、撮影:今 祥雄)