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任天堂がつくり上げた日本ゲーム市場、今後への期待

2015/7/18
ファミコンやWiiで家庭用ゲーム市場を切り開いてきた任天堂。カリスマの突然の他界で、今後の方向性が注目される。ゲームの楽しみを世界に広めた任天堂のこれまでを、「SPEEDA」のデータも活用しながら振り返り、将来を展望する。

任天堂は、世界の家庭用ゲーム市場をけん引してきた。

家庭用ゲーム機普及の火付け役となったのは、任天堂の「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」(1983年日本発売)である。累計販売台数は6191万台。その名前の通り、家族や友達みんなで遊べるゲームとして大人気となり、世界中に広まった。

なお、ゲーム機として存在感の強いソニーの「PlayStation(プレイステーション)」は、ファミコンから約10年後の1994年に発売された。
 grp1_販売機種一覧

キャラクターと自社開発ソフトの多さが任天堂の強み

ファミコンの時代に生まれた「マリオ」は、発売後30年経った今でも、任天堂の代表的なキャラクターとして世界中に知られている。

任天堂のゲームは、世界中にブームを起こし、数多くの強力なIP(Intellectual Property、キャラクターやソフトなどの知的財産)を生み出してきた。ミリオンセラータイトルのある代表的なIPをいくつか紹介する。「マリオ」「ポケモン」「ドンキーコング」など、ひとつも知らない人は少ないのではないだろうか。
 grp2_IP

このような強いIPを活用して、ソフトに自社タイトルが多いことが、企業としての任天堂の強みとなっている。

そもそもTVゲーム業界は、ハードの販売価格を製造コストより低く設定し、先にハードを普及させてから、ソフトで収益を上げるというビジネスモデルになっている。サードパーティが開発したソフトの場合は、ロイヤルティ収入が売上の10〜20%程度にとどまるが、自社開発ソフトの場合は、小売の流通コスト20〜30%を引いた70〜80%程度が収入となる。
 grp追加1_ソフトの収益

なお、任天堂に関してはハードも工夫をしており、計算性能を追求するような設計にしないことによって、ハードも利益が出ていると言われている。

本題のソフトの話に戻ると、このような構造となっているため、ソフトに自社タイトルが多いと、ソフトの販売本数が伸びた際の売上・利益など業績の伸びが大きくなる。

任天堂を過去最高益に導いたニンテンドーDSとWii

ファミコン発売以降、任天堂は世界の家庭用ゲーム市場の拡大に貢献してきた。その任天堂の歴史の中でも、最高の業績となったのは2009年3月期であり、売上高1兆8386億円、営業利益5552億円となっている。なお、任天堂は海外売上高比率が非常に高く、為替の影響も受けやすい。2015年3月期の比率をあわせて表示する。
 grp3_任天堂の業績

 grp4_海外売上高比率

2006年3月期から2009年3月期までの急成長で、注目すべきは「ニンテンドーDS」(2004年12月日本発売)と「Wii」(2006年12月日本発売)である。

DSについて少し取り上げる。DSは、タッチペンによる直感的な操作が可能。ソフトがなくても遊べるため、使っていて楽しい、まさにおもちゃだった。

もうひとつの特徴は、本体にソフトの差込口が2つある「ダブルスロット」だ。ソフトによっては、2本差すと少し違ったゲーム内容になる。この機能はポケモンシリーズのヒットに大いに貢献した。

こういったハードでの工夫があり、DSやWii以前からあったものでもIPを使い、再びより楽しく遊べるようになった。結果として業績は著しく成長した。
 grp5_ハード販売台数

連結でハードウェア販売実績は公表されているものの、ハード別の売上寄与度はわからない。そこで下記の前提のもと、販売台数と公表されている価格からハード別の販売額を試算した。ピークの2009年3月期付近は、DSとWiiといったハードウェアの販売額の寄与度が大きいことがわかる。
 grp6_ハード別販売額

 grp7_生産期間

ゲームを買う家庭のお財布事情も変化、耐える任天堂

一方で、実際にゲームを買う家庭の状況はどうだったのだろうか。実は、家庭のお財布事情にも少し変化がみられる。総務省の家計調査(2人以上の世帯)を参照する。独身世帯は含まれていないので、全容がわかるわけではないが、トレンドはうかがえるだろう。
 grp8_使った金額 (1)

これは、「教養娯楽用品」の内訳である「テレビゲーム機」「ゲームソフト等」の合計を表している。「教養娯楽用品」に含まれている「教養娯楽」は支出全体の約10%を占める。ゲームに使った金額は、その「教養娯楽」の10%前後。つまり、支出全体からみると約1%にあたる。

ゲームに使った金額の推移をみると、過去最高額は2007年。先ほど任天堂の業績をみたが、前年比の伸び率で最も大きいのは2008年3月期(2007年4月~2008年3月)で、2つの推移はおおむね一致している。

だが、2007年以降、ゲームに使う金額は徐々に減少し、2013年には年間2573円と、1995年の水準を下回っている。一方で、同期間で額面が増えている項目としては「通信費」が挙げられ、スマートフォンの急速な普及振りがうかがえる。

任天堂の業績は、近年のスマホゲームの勢いに押され、「Wii U」(2012年12月日本発売)の販売台数も伸び悩み、今は苦しい状況にある。しかし、ハードの売上が不振でも、致命傷とはなっていない。理由はなんだろうか。

自社ソフトの強みについては、先ほど述べた通りである。もう1つの重要な要素は、任天堂が徹底したファブレスメーカーであることだ。

設備投資へのリスクを負わず、潤沢な現預金を武器に、製品の企画・開発やマーケティングに注力できる。変化の激しいコンテンツ産業においては大きな強みである。

スマートデバイスを通してIPとコミュニティを広げたい任天堂

2015年3月、任天堂はディー・エヌ・エー(DeNA)と資本・業務提携した。スマートデバイスと一線を画してきた同社にとって、これは新たな挑戦となる。

スマートフォンは、新規ユーザーの獲得とコミュニティの拡大という点において、非常に優れている。

スマートデバイスで提供されるコンテンツは、ダウンロード(DL)数と、デイリーアクティブユーザー(DAU)またはマンスリーアクティブユーザー(MAU)が重視される。前者にはIPのインパクト、後者には良質なコンテンツとユーザーコミュニティの存在が鍵となる。

任天堂には、より多くのユーザーがより長く遊べるコンテンツを自社でつくるノウハウが十分ある。

2012年12月、「Miiverse(ミーバース)」が日本でもサービスを開始した。ニンテンドー3DSやWiiで作成できる自分の「Mii」を介して「Universe」と交流できるSNSだ。DeNAの提携よりも早くからスマホによるコミュニケーションを意識していたことがわかる。同時に、共同開発するという「スマートデバイスとゲーム専用機をつなぐ一体型メンバーズサービス」への期待も高まる。

一方で、まったく新しいコンセプトのゲーム専用機プラットフォーム「NX」を2016年に発表予定としており、これまで通り家庭用ゲーム機にも取り組んでいく姿勢を強調している。

岩田社長、そして任天堂へ、ワクワクをありがとう

2015年7月13日、任天堂より岩田聡社長の死去が発表された。この訃報は、海外メディアにも多数取り上げられた。ツイッターなどのSNSでは、岩田氏を悼むイラストや画像、動画などが大量に投稿された。

ゲーム事業ではライバルであったソニーからも「Thank you for everything, Mr. Iwata」との声があり、任天堂の多大な功績と影響力を感じた。岩田氏がゲームを心から好きであったように、世界中のゲームファンが彼を愛していることがよくわかる一連の出来事だった。

任天堂のゲームは、家族や友達「みんなで遊べる」のが基本コンセプトだ。ゲームそのものだけではなく、ゲームを通した体験を提供してくれる。

任天堂のゲームには、私自身の思い入れもとても強い。ファミコン時代のゲームはどれも難しすぎて、自力でクリアできたものはほとんどない。それでも何度も何度もやった。「スーパーファミコン」(1990年日本発売)では、「スーパーマリオカート」(1992年日本発売)と「星のカービィ スーパーデラックス」(1996年日本発売)に相当の時間を費やした。

「ゲームボーイ」(1989年日本発売)で育てたポケモンが、「ニンテンドウ64」(1996年日本発売)の「ポケモンスタジアム」(1998年日本発売)で立体的になったときの感動は忘れられない。大学時代は人間より「どうぶつ」の友達のほうが多かった。

スマートデバイスの分野に関して、個人的にはスマホとアーケードゲームの連携に期待している。アーケード、家庭用、スマホ。これらがうまく循環することで、ゲーム業界全体の活性化にもつながるはずだ。

任天堂は、今までずっと世界の遊びを支えてきた。今がどんなに苦しくとも、任天堂は必ず復活する。そして、これからもきっとユーザーをワクワクさせ続けてくれるに違いない、と、ひとりのゲーマーとして私は信じている。

任天堂は、いつまでも私たちにそんな期待を抱かせてくれる存在なのだ。直接(!)伝えることはもうできないが、遊びの楽しさを世界中に届けてくれた岩田氏には、心から感謝している。