日テレとHuluのキーマンが語るテレビの「次」(3)
求む一獲千金。日本に「ドラマ全盛期」が訪れる日
2015/07/17
日本テレビとHulu(フールー)が共同製作した『ラストコップ』はフールー初のオリジナルドラマ。6月に地上波で放送され、続きのエピソードはフールーで配信するという画期的な取り組みだ。製作した両社のプロデューサーに狙いと成果、今後の展望を聞く。
日テレとHuluのキーマンが語るテレビの「次」(1)
日テレとHuluのキーマンが語るテレビの「次」(2)
ドラマ全盛期は来るか
──アメリカではドラマ全盛期が来ましたが、日本でも来るでしょうか。
岩崎:チャンスだと思います。日本のドラマが海外で成功する爆発力を持っているかと言ったら、たぶんまだたどり着けていませんが、これだけインターネットでボーダーをどんどん越えていけるような環境が整っている中で、あとは面白いものをつくるだけでしょう。
世界で受け入れられるような、日本の美しいメンタリティを発信できるようなドラマをつくっていきたい。
日本市場に限定せずに、韓国ドラマが世界でヒットしたように、アメリカのFOXのドラマが世界に広がっているように、日本からもヒット作品をつくっていけるようになりたいですね。
テレビ局が持っているノウハウを使って、もっと視線を広げて、海外でも支持してもらえる作品をつくれたらと思います。
戸田:地上波のドラマにもし閉塞感があるとすれば、視聴率に左右されることですが、Hulu(フールー)版に関して言うと、視聴率に左右されないのはつくる側のクリエイティビティを高めます。当然、アクセス数や加入者数など、いろいろなノルマはありますけれども。
見方としても、もちろんまだタブレットやパソコンで見る人も多いでしょうが、ブルーレイのデッキでフールーが見られるし、うちの小学校3年生の子どもなんかWii Uで見ている。
家のテレビの大きな画面で、地上波のコンテンツであれ、ネット配信のコンテンツであれ、同じ感覚で見られるのは大きい。
そうなってくると、地上波のドラマだからとか、ネット配信のドラマだからということをあまり気にせずに、シームレスになる。
面白いと思って見ているものが、たまたま地上波、たまたまネット配信というようになっていって、コンテンツありきになっていく。そういう広がりはきっと出てくると思います。
エロもバイオレンスもあり
──フールーなどの動画配信サービスの場合、もう少しターゲットのセグメントを絞ったドラマづくりもできますよね。
戸田:できるでしょうね。今回は地上波からフールーに誘導して、視聴者にギャップを感じさせたくなかったので、オールターゲットのまま進めましたが、最初のブレストの段階では岩崎くんが「もっとエロを入れましょう」と提案した(笑)。
岩崎:はい(笑)。入れてもいいんじゃないかと。
戸田:エロやバイオレンスもできます。
──ネットフリックスと組むメリットは、グローバルにリーチできるところです。フールーから世界に配信することはあるのでしょうか。
岩崎:フールーの世界展開は今はアメリカと日本だけなので、アメリカには配信できます。
ただ、世界各国にいろいろな動画配信サービスがあるので、純粋にドラマのコンテンツとして、海外で販売していくことももちろんありです。それはプラットフォームとしてではなく、単純にコンテンツを出していくということになりますが。
──『24-TWENTY FOUR-』ももちろん面白いですが、やはり外国の作品は日本の作品に比べると日本人の幅広い層にはリーチしませんよね。本当に国民全体に浸透するような連続ドラマが、動画配信サービス発で生まれたら面白い。
岩崎:そうですね。
貴重なリソースはサード
──ドラマ全盛期が来たアメリカでは脚本家が足りなくなり、脚本家の価値がすごく上がったそうです。これから日本でも新しいかたちのドラマが大量に求められていく中で、脚本家、役者、監督、プロデューサーなど何が一番貴重なリソースになりそうですか。
戸田:ぶっちゃけると、本当に足りないのは助監督のサードです(笑)。チーフがいて、セカンドがいて、サード、フォースがいる。サード、フォースといった、番組の縁の下を支える助監督不足が深刻です。どの現場でも「サードいない? サードいない?」と探している。
──何をする人なのですか。
戸田:主に美術の発注の管理です。チーフ、セカンド、サード、みんな役割が決められているのですが、サードはこまごまとした美術周りの担当のほかにも、さまざまな調べものをしたり、カチンコ打ったり、役者さんを呼び込んだり。現場の庶務全般です。
今、映像コンテンツをつくる場に新しく入ってくる人が非常に減っています。夢を抱いて入ってみたものの、みんなつらくて逃げていく現状がある。
22歳でサードで入ったとして、そこから何年修行があるんだろうと思うと、みんな夢破れて消えていっちゃうんですね。
今後どんどんいいものをつくらなければいけないときに、第一に脚本家が重要だと思いますが、その脚本をちゃんとプロデュースできる人間がいて、演出家が現場を仕切るという座組みがあり、その理想をかなえるための、現場の同志としてのサード助監督が枯渇しています。
──働き方や序列、徒弟システムのようなものが変わる可能性はあるのでしょうか。若手でいきなり監督になって大ヒットとか、あまりない世界に見えるのですが。
戸田:特にテレビドラマの世界だとなかなかないです。どうしても何年か修行してから、じゃあお試しでと起用される。そのお試しの出し口は今後どんどん増えてくるので、いいことだと思います。
──全然違う異業界から来た人が大ヒットを飛ばしたり、長時間労働ではないシステムができたりするといいですね。
岩崎:フールーでドラマの制作をして実感したのは、本当にチームプレーが大切だということです。
技術さん、メイクさん、大道具さん、照明さん、と本当にたくさんのスタッフがいないとできないですし、プロデューサーが一人いればできるというものではまったくない。圧倒的なチームプレーをするにあたって、指揮系統がものすごく重要なのです。
プロデューサーが全体を管理して、現場では監督がトップに君臨して、監督の言うことを実現するために全員が一気に動いていく。今あるシステムは一朝一夕に変えられるものではなさそうだと思いました。一方で、サードの若者たちが夢を持ち続けて働いている。
若い監督のチャンスが増える
戸田:今回、『ラストコップ』のエピソード1と2は、日本テレビのエースである猪股隆一監督がつくりました。彼は『家政婦のミタ』で視聴率40%を取り、『○○妻』『デスノート』といった話題作の演出家です。
その後のフールー版は20代の監督を起用しています。普通、最終話はエピソード1を撮ったベテラン監督がしっかり撮って締めるべきなのですが、20代の監督に任せてみた。
業界的には「若い監督が大事なところをちゃんと締められるんだ」という意味で、夢があると思います。
──日テレはチャレンジされているのですね。ではおカネの払い方が変わることはあるでしょうか。たとえば監督に1回払いで終わりではなく、視聴数に応じてインセンティブが入ってくるような一獲千金の夢があるといい。
岩崎:これからの話でしょうね。フールーの会員数がまだ100万人ちょっとなので、もっと広がっていけば、おカネの運用の仕方もどんどん変えていっていいかもしれない。どういうふうに製作現場におカネを戻していけるのか、フールーでオリジナルをつくっていくにあたって重要な要素ですよね、きっと。
戸田:フリーの監督たちにとってみれば、そういう環境があってもいいのかもしれない。
プロデューサーが薦める最高のドラマは?
──最後に、お二人が「これは最高だ」と思うドラマを、海外の作品を含めてお薦めしてもらえますか。
岩崎:僕は『HOMELAND/ホームランド』がすごく好きです。
さわりだけ説明すると、アメリカの元海兵隊員がイラクで捕虜になっていて8年ぶりに救出され、英雄として本国に戻ってくる。CIAの女性局員一人だけが「あいつはスパイじゃないか。8年間でアルカイダ側に転向したのではないか」と疑い続ける。とにかく脚本が素晴らしくて、人間の描かれ方がリアルで説得力があります。
アメリカが自分たちで掲げている「アメリカって正しいよね」という価値観に、正面から「本当にそうなの?」と疑問を突きつける、そのメッセージ性にも感銘を受けました。
戸田:僕の中でドラマをつくりたいと思ったきっかけは『北の国から』です。
DVDも全部買って、どこで泣いたか、どこでクスリと笑ったか、全部メモを取って独自に勉強したほど大好きなドラマです。
数年ごとに単発で続いていたのが、終わってしまうといううわさを聞いて、「この大自然感動もののドラマを今、つくってしまえばいい」と思い、沖縄の離島を舞台にしたドラマの企画を出したら、編成に呼ばれて「いいじゃないか」と言われた。
でも、そのときはバラエティーにいたのでなかなかつくらせてもらえず、ドラマに異動になって5年がかりで初志貫徹しました。成海璃子ちゃんを主演において企画を出したら、スコーンと通って「おっしゃ!」と。それが『瑠璃の島』です。
自分の核は『北の国から』にあり、一番好きな世界観であり、どの世代に対しても裏切らない作品という意味で、『北の国から』を推します。
──そういう作品がフールーから生まれるといいですね。
戸田:やろうよ、大自然感動もの。
*NP特集「テレビの『次』」は、明日掲載の「ネットフリックスと組んだのは、フジテレビが生き残るためだ」に続きます。
(聞き手:佐々木紀彦・NewsPicks編集長、構成:上田真緒、撮影:竹井俊晴)