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「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」報告書からみる、メタバースのこれから

「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」報告書からみる、メタバースのこれから

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林 雅之
デジタル政策と未来社会林 雅之

総務省は、メタバース市場の急速な拡大とその技術の進展を背景に、2024年9月18日、「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」の報告書案に対する意見募集を開始しました。

メタバースは、現代の社会インフラにおいて期待が高まっている中で、ユーザが安心して利用できる環境を整えることが求められています。本報告書では、メタバース利用におけるガイドラインを策定し、安全で信頼できるメタバース環境の実現を目指しています。今回は、そのポイントを取り上げたいと思います。

メタバースをめぐる最近の動向

メタバースは、バーチャルな空間での新しい社会活動やビジネスの場として注目されています。

2023年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが収束に向かう中でも、その市場規模は拡大の一途をたどっています。2022年のメタバース市場は461億ドル規模でしたが、2030年には5,078億ドルに達する見込みです。特に、Eコマースやゲーム、フィットネスといった分野がメタバース市場の主導的な役割を果たしています​。

日本国内でも、2022年度にはメタバース市場が1,377億円に達し、2027年度には2兆59億円に拡大することが予想されています。この急激な成長を受け、総務省では市場動向を踏まえた上で、ユーザの安全を確保するための施策を進めてきました。

出典:総務省 安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 2024.9.18

総務省の報告書2024(案)では、メタバースの普及とともにユーザの安全とプライバシーを保護するための「メタバースの原則(第1.0版)」の策定が提案されています。この原則は、民主的価値に基づくメタバースの発展を目指すものであり、ユーザが安心して仮想空間で活動できる環境を整えることを目的としています。

メタバースの原則(第1.0版)の検討

「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」では、2023年10月から2024年にかけて、メタバースにおける安全性を確保するための国際的なガイドラインの策定が議論されてきました。

メタバースの原則(第1.0版)では、「メタバースの自主・自律的な発展に関する原則」や「メタバースの信頼性向上に関する原則」から構成されています。

プライバシー保護と情報の自由な流通のバランス
メタバース内でのプライバシー侵害を防ぎつつ、情報の自由な流通を妨げない仕組み作りが重要。特に、仮想空間での個人情報の管理が徹底され、ユーザが安心してサービスを利用できること

国際的な連携
メタバースは国境を越えて展開されるため、各国が協力して共通のルールを作ることが必要

技術標準の策定
メタバースを支える技術の標準化も重要な課題。VRやARといった没入型技術(イマーシブテクノロジー)が進化する中で、ユーザの体験を向上させながらも、安全性やプライバシーが確保される仕組みが重要。

これらの原則は、メタバースが健全に発展するための基盤となるものであり、国際的な議論を経て、さらに洗練されていくことが期待されています。

出典:総務省 安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 2024.9.18

技術動向と利活用事例

メタバース技術の進化は、産業界や消費者市場において大きな影響を与えています。中でも、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)のデバイスが急速に進化しており、これに伴い、ユーザ体験も大幅に向上しています。これまでゲームやエンターテインメントの分野で活用されてきたこれらの技術は、教育や産業の現場でも広がりを見せています。

たとえば、生成AIを活用した対話型アバターや自動生成されるNPC(ノンプレイヤーキャラクター)は、エンターテインメントだけでなく、ビジネスシーンや教育現場でも利用されています。

また、個別対応のサービスやカスタマーサポートの効率化が進んでおり、企業の生産性向上に寄与しています。また、インダストリアルメタバースとして、製造業や建設業でもメタバースの技術が導入されつつあるといいます。例えば、工場の設計やシミュレーションを仮想空間内で行うことで、実際の生産前にさまざまな試行錯誤が可能となり、コスト削減や効率化が図られています。

出典:総務省 安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 2024.9.18

今後の展望

メタバースの今後の発展には、リアルとバーチャルの融合が鍵を握っています。技術の進化により、物理的な空間とデジタル空間の境界が曖昧になり、バーチャル空間での体験が現実世界と同等かそれ以上の価値を持つようになる可能性があります。

また、教育や医療、観光など、さまざまな分野での活用が進む中で、メタバースは新しい社会基盤としての役割を果たすことが期待されています。

一方で、課題も多く残されています。メタバース内での安全性の確保や法的な規制が必要です。仮想空間における犯罪やハラスメントのリスクを防ぐためには、メタバース内での法整備やユーザリテラシーの向上が求められています。

政府では、今後も国際的な議論をリードし、メタバースの持つ可能性を最大限に引き出すための取り組みを進めていく方針です。

メタバースの市場が本格的に立ち上がっている印象はあまりなく、今後さらなる市場拡大と、適切な政策支援とのバランスをとりながら、社会課題や産業の発展につながるメタバースの進展が期待されるところです。


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コメント


注目のコメント

  • 中村 伊知哉
    badge
    iU(情報経営イノベーション専門職大学) 学長

    AIの爆発によって影が薄くなったメタバースだが、社会経済のバーチャル空間への移行は間違いなく進むトレンドなので、こういう基盤整備は大事な仕事。ただ政府の普及促進策としては、こういう会議をメタバースで開催するといった「自分で使う」ことを勧めたい。


  • 林 雅之
    国際大学GLOCOM 客員研究員

    総務省は、メタバース市場の急速な拡大とその技術の進展を背景に、2024年9月18日、「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」の報告書案に対する意見募集を開始

    メタバースの原則(第1.0版)では、「メタバースの自主・自律的な発展に関する原則」や「メタバースの信頼性向上に関する原則」から構成

    VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)のデバイスが急速に進化しており、これに伴い、ユーザ体験も大幅に向上。これまでゲームやエンターテインメントの分野で活用されてきたこれらの技術は、教育や産業の現場でも広がり


  • 阿部 務
    某上場企業 内部統制部門 部長

    大阪万博、メタバース内で開催したら良かったのにね。

    そしたらいろいろ言われた諸問題が全て解決だし、新しい技術や、メタバース内で出来る芸術を世界に示す、という万博の意義を最も体現するものになるし、初のメタバース開催、という名誉も得られたのに。


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