以前の記事「 石油元売り。提携・M&Aの機運の高まりと今後の方向性」は、石油元売りの提携・M&Aについての背景とキーワードを紹介した。今回は、経済産業省から同じく再編を促されている、石油化学の再編動向について、 「SPEEDA」のデータも活用して解説する。
エチレンが主要な基礎化学品
石油元売りと石油化学は、密接な関係にある。石油化学の代表的な基礎化学品原料となるナフサの約50%を石油製油所で製造しているからである。石油化学企業は、そのエチレンを使い、さまざまな製品を製造する。ナフサからは、エチレンだけが製造されるのではなく、プロピレンやブタジエン(ブタン・ブチレン留分)なども製造される。なお、同一原料から同一工程で生産されることを連産品という。
 
化学業界のトレンドを表すには、エチレン生産・需給をみるのが一般的である。理由は、(1)ナフサクラッカーが世界のエチレン生産の50%を占めており、最も生産量が多いため、多くの誘導品の需要を集計できる、(2)エチレン利用が早く発達したため、目的生産物で最も価値が高かったという経緯がある、などによる。
ただ、近年はブタジエンが合成ゴム原料として需要が旺盛であるものの、連産品として決まった量しか製造できないため、需給バランスが均衡しない場合がある。ブタジエン製造のため製法改良などが加えられる場合があり、エチレンだけでは語りにくくなっている現状もある。
製油所とコンビナートは隣接が基本
下図は、日本の製油所とコンビナートの配置である。製油所とコンビナートは隣接していることが多い。2015年時点で製油所単独で運営されているのは、JX日鉱日石エネルギー(室蘭・仙台)など数カ所である。
 
 
2016年、エチレン生産能力は640万トンまで確定
日本のエチレン年産能力は、2013年で760万トン、生産能力は670万トンであった。エチレン設備の稼働率は90%が採算ラインと言われており、2013年には、おおむねウエルバランスであった。しかし、2012年では生産能力610万トンと変動幅が大きい。
収益構造は、国内生産量の30〜40%を輸出が占め、アジア市況の影響で大きく変動する。そのため、住友化学は千葉の38万トンを2015年に停止した。旭化成は2016年に水島の44万トンを停止予定で隣接する三菱化学と連携する。この結果、年産640万トンとなる。
2016年には千葉と川崎を除いて、ひとつのコンビナートにひとつのエチレンプラントとなる予定である。ただ、誘導品企業がいることから、ひとつのコンビナート内でのエチレンプラントを閉鎖することは困難な状況である。
需給関係では悪材料だらけ
それでも、国内・アジア市場では、今後さまざまな業績低迷要因となるリスクが発生する可能性が高い。
・日本の自動車などの製造拠点の海外移転や少子高齢化などによる国内需要の減少
 ・日本の化学製品の最大の輸出先である中国の経済成長の減速
 ・米国の安価なシェールガス由来の化学製品がアジア市場へ流入する可能性
 ・中国における安価な石炭を原料とした化学製品の増産
 ・中東の化学産業への投資拡大による安価な化学製品がアジア市場へ流入
ワーストシナリオでは2030年までに生産量310万トンまで減少
北米の安価なシェールガス由来の化学製品がアジア市場へ流入するなどのリスク要因が顕在化した場合、内需の減少および輸出の減少により、国内のエチレン生産量は2020年では470万トンまで、2030年では310万トンまで減少する可能性がある。
3つのシナリオ
上記の需給状況から、シナリオは3つ考えられる。
(1)存在する国内コンビナートすべてを維持
 (2)大型コンビナートは生き残り、ほかのいくつかは撤退
 (3)存在するコンビナートすべてをスクラップし、最終的には大型・新鋭プラントによる再集約化
シナリオ(1)は、地方経済におけるコンビナートの影響力が高すぎる場合と意図せざる業績好調が継続する場合である。
経産省の工業統計表によると、化学は20分類のうち、自動車を中心とする輸送用機械器具に次ぎ、出荷額、付加価値額では2番目の産業である。石油化学コンビナートが立地する地域では、化学産業の出荷額が地域の製造業出荷額の30~50%程度を占めるなど、石油化学産業が地域経済の中核として、周辺地域に対しての影響が大きい。
また、エチレン生産統合・廃棄が10年間ほとんど進展しなかったように、中国向け輸出拡大の継続など意図せざる収益の改善が続く場合に考えられる。
そして、コンビナートを形成している大手企業のコア製品は海外生産中心となっているため、生産能力の調整はあれども抜本的な構造改革は進まない可能性がある。
 
シナリオ(2)は経産省が推進している。経産省では日本の石油化学産業について、以下のような対応の方向性を示している。
・産設備の集約や再編による生産効率の向上
 ・石油精製企業との連携強化による生産体制の最適化
 ・隣接する企業とのエネルギーの相互融通や発電設備などの共有化、設備メンテナンス、調達などの共通部門の集約統合によるコスト削減
 ・安価な原材料の獲得や独自の生産技術を活用した海外展開の促進
内需分まで生産能力が減少するならば、エチレン(オレフィン)は特殊な輸送船を使うために輸送コストが高く、経済合理的ではない。そのため、海外で生産されたエチレンの単価が低いといっても、競争力は保たれる。
一部報道機関は、千葉の設備統廃合が焦点になっていると報道。すでに構造改革を発表、自社分では完結する可能性のある三菱ケミカルホールディングス、住友化学、旭化成を除いた企業での動きが考えられる。その際には石油元売りとの提携があるかもしれない。
シナリオ(3)については、ある報告書によると、年産240万トンの最新鋭エチレンプラント2基を4000億円程度かけて建設し、最終的には現在のコンビナートのエチレン生産をすべて置き換え、国内生産を維持しようというものである。
投資額が大きいため、特別目的会社による建設と運営を行い、年間400億円超える経済効果と、200万トン以上のCO2削減が可能で、投資回収は5年強で実現すると算出している。現実的には、石油化学企業を取り巻く環境は厳しいことから、エチレンセンターの規模の最適化のための新たな投資を行うインセンティブが乏しい。
ただし、経産省の指摘では、2022年には、国内のエチレンセンターの半数以上が稼働年数50年以上となる。メンテナンスコストの増大、運転員の減少などを踏まえると、2020年以降は、経済性が大きな課題として残るものの、ビルド&スクラップによるエチレンセンターの集約や大規模化の視点が入ってくるとの指摘もしている。
シナリオは複数絡み合う可能性があるものの、石油元売り業界同様に統合や再編の動きが表面化してくることは間違いなさそうだ。